第五話 私、再びやらかす!
因みに冒険者ギルドには、人に害を為す魔物の討伐だけでなく、森での採集や農作業の手伝い、”〇〇のお肉を持ってきてほしい”みたいな狩りの依頼も舞い込んでくるみたい。
要は、街の人が困ったときに頼る”何でも屋さん”だ。
……クエストをたくさん達成して、街の役に立って、みんなの信頼を勝ち取るんだ。頑張るぞ、私!
「規約については以上です。何か質問はありますか?」
「えと、大丈夫ですっ」
「では、次は魔力量、及び魔力型の確認です。こちらに手を置いてくださいね」
カウンターの上にすっと、無色透明の丸い水晶玉みたいなものが差し出される。
「分かりました」
「あ、ちょっと待っ…」
ハルニアが一瞬何かを言いかけたけど、その瞬間には、私は言われるがままに水晶玉に手を乗せていた。
けれど、特に何も起こらない。
「?、変ですね」
受付のお姉さんが、整った眉をうにゅっと歪めて、不思議そうに首を傾げている。
「あの、何かおかしいですか?」
「えぇ、触った人の魔力の量や型を測る魔道具なんですが…全く反応がないことは初めてで」
「あ…」
思わず、表情が強張る。
ハッと振り返ってハルニアの顔を見上げれば、ハルニアは軽く肩を落として小さなため息をついていた。
……や、やっちゃったかも…。
他の人と違って魔法が使えない私は、当然魔力もほとんど持っていない。
魔法が使えず魔力も持たない私の体質はかなり特殊らしく、周囲に知られれば、場合によっては差別やイジメの原因にもなりかねない。
だから、絶対にバレてはいけないと言われていたのに…これでは自ら暴露しにいったのと変わらない。
「うーん…ちょっと、失礼しますね」
私がおずおずと手を引っ込めると、受付のお姉さんは怪訝な表情のまま、私と入れ違いに水晶玉へと手を伸ばした。
お姉さんの手が触れたとたん、水晶玉は淡く黄色い光を放ち始める。
「…壊れてはいないようです。となると、もしかしてその…ユキさんは、魔力が…」
「あっ、それは、ええとっ…」
受付のお姉さんが、どこか困惑した様子で私を見る。やっぱり、私みたいな人は滅多にいないに違いない。
……やばい、何か言い訳しないと…!
私はどうにかこの場を切り抜けようと目を泳がせるけれど、どこに目を向けても良い答えなど見つからない。
「……。あまり口外しないでほしいのだけれど、ね」
そんな中、助け船を出してくれたのはハルニアだった。
カウンターに身を寄せ受付のお姉さんに顔を近づけて、ハルニアは重く低い声で話し始める。
「実は…この子は、遺跡の奥で人身売買に遭っていたところを助け出されたのだけれど、どうやらよほど辛い目に遭ったみたいで…昔の記憶を無くした上に、魔力がうまく出せなくなってしまったみたいなの」
「そうだったんですか…」
ハルニアの深刻そうな語り口に、受付のお姉さんの私を見る目が憐憫混じりのものに変わっていく。
「確かに、精神的ショックでコアに障害が残る方もいますもんね…」
魔法が使えないことが他の人にバレると、差別されたり虐められたりするって聞いていたけど…幸いなことに、この受付のお姉さんはそんなことをする人では無さそうに見える。
「でも、困りましたね…」
…だがその代わり、随分と困ってはいるようだ。
まさか、と思い、私は恐る恐る尋ねてみることにする。
「もしかして、魔力がないと冒険者にはなれないんですか?」
「いいえ、そんな規約はありません。ただ…」
受付のお姉さんは困った様子のまま、
「魔力型の確認と登録ができませんので、認識票にも魔力型の記載ができません。多くの方は、パーティーを組む時に魔力型が同じ人を選びますから…一緒に冒険する方を選ぶ際には、苦労するかも知れません」
確か、魔力型が同じ人同士だと、魔法による
だとしたら確かに、魔力型が分からない私は、中々仲間が見つからずに苦労するかも知れない…。
「それに、登録時の初期ランクもある程度魔力量を参考にして決めますから…ユキさんの場合、ほぼ無条件で最低ランクからのスタートとなってしまいます」
受付のお姉さんは申し訳なさそうにそう言うけれど、元々コツコツ頑張っていくつもりだった私は最低ランクからでも一向に構わないと思う。
……というかむしろ、スタートはみんな最低ランクからじゃないんだ。人によっては、飛び級とかもあり得たってことかな?
「えと、私、最低ランクからでも…」
「ちょぉぉっと待ちなぁ!」
…と、そこへ。
「話は聞かせてもらったぜ。中々、面白そうなヤツが来てるじゃねぇか」
受付カウンターの奥、お姉さんの後ろから野太く低い声が聞こえたかと思うと……。
全身を異様に発達した筋肉で包まれた、マッチョの申し子みたいな巨漢が一人。
その場に、ヌッと姿を現した。
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