第三話 いざ、冒険者ギルドへ!
―…さて、話はその翌日の朝。
私と付き添いに来てくれたハルニアが、冒険者ギルドに到着した後に戻る。
☆
大きな木製の扉をくぐって、私はギルド内部へと足を踏み入れた。
同時に目に映るのは、初めて見る冒険者ギルドの風景だ。
木製の床に、レンガ組みの壁と大きめの窓が複数。
壁際には長椅子がいくつかと、円卓と椅子が置いてあるのも見える。
所々古めかしくはあるものの管理が行き届いているのか、ゴミ一つない。
どういうわけだか、冒険者ギルドに対して「筋肉ムキムキの無頼漢たちが集う、雑然とした場所」といったイメージがあった私にとっては、思ったより清潔ですっきりしていて、ちょっと以外な光景だった。
タイミングもあるのだろうが人も少なく、がらんとしている。
奥の方に見える受付らしきカウンターに女の人が1人。
それと、壁に掛かった大きなコルクボードの前に私ぐらいの年齢の男の子と女の子が一組いるけれど、他には誰もいない。
……あのカウンターの女の人が受付嬢で、コルクボードの前の男の子と女の子は冒険者なのかな?
今日ここにやってきた目的は私のギルド登録なので、私はハルニアと一緒に受付へと向かう。
途中で冒険者らしき二人組が私に気づいて、ふわふわ浮かんでいるシルフィード・エッジ四体を見て一瞬目を丸くした。
栗毛色の短い髪と同色の目を持つ勝気そうな女の子と、さらりとした水色の髪と若葉色の目の男の子だ。
二人はそれから一言二言、何かをこそこそと話し合った後、再びコルクボードとにらめっこを始めた。
よく見れば、コルクボードには絵や文字が書かれた長方形の紙がたくさん張ってある。もしかしたら、受けるクエストを探している最中なのかもしれない。
「あ、ハルニアさんと…あら? あなたは?」
受付嬢らしきお姉さんも私を見つけて、こてりと首を傾げる。
ショートボブの茶髪と、利発そうな翡翠の瞳が目を引く美人さんだ。
皺ひとつなくバッチリ着こなされた制服からは、いかにも仕事ができそうな雰囲気を感じる。
けれどその顔立ちにはどこか愛嬌があって、親しみやすい雰囲気のある人だった。
「ウチで預かってるユキよ。前に話したこと、あったわよね?」
「あぁ、この子が」
ハルニアが私の代わりに答えて、受付のお姉さんが人好きのする可愛らしい笑みを浮かべる。
「モーゼルさんから、お話は伺っています」
「う…」
一体、どんな話をされたのだろう。
…気になるけど、聞きたくない。
「ご用件は、冒険者登録でよろしいですか?」
「あ、はい…」
「承りました。少々、お待ちください」
少し緊張気味に頷く私を見て、受付のお姉さんがテキパキと動き始める。
あっという間に準備は終わり、私の前に一枚の紙と銀製のペンとが差し出された。
「はい、どうぞ。文字の読み書きはできますか?」
「えと…はい。一通りは」
「では、こちらに必要事項の記入をお願いします」
紙とペンを受け取ってふと顔を上げれば、お姉さんの翡翠の瞳がすぐ近くにあって。
私と目が合うと、お姉さんはにこり、と完璧な営業スマイルを浮かべた。
「何かわからないところがあれば、いつでも聞いてくださいね」
……おぉお、THE・デキる女! って感じ。色々頼りになりそう。
ちょっと安心した私は早速、受け取った紙をカウンターに置いて記入を始める。
名前に性別、年齢…項目は基本的なことばかりだ。
年齢に関しては正確な数字が分からないけれど、周囲からは14前後に見えるらしいので、その通りに14と書いておく。
すらすらと文字を書き込んでいく私だったけれど、最後の項目でふと手が止まる。
……クラスってあるけど、なんて書けばいいんだろ?
一瞬、どういうわけか『1-A』だの『2-B』だの謎の古代語が頭に浮かぶけれど、それじゃないのはさすがに分かる。
「あの…この”クラス”って、何ですか?」
困った私が受付のお姉さんに尋ねると、お姉さんは相変わらずの整った笑みを浮かべて、
「簡単に言い換えれば、”得意な戦い方”ですね。職種、とも言い換えられます。例えば、
お姉さんはそこで一度、言葉を切って、
「ただ、どんな
詳しく書いて登録しておけば、他の冒険者パーティーを紹介してもらったりする時に便利らしい。
「ユキさんの場合は…そうですね。”
最後の項目に何と書くべきか迷っている私と、そんな私の周囲に浮かぶ四つの白い三角形―…シルフィード・エッジを見て、受付のお姉さんが言う。
「え? えと、すみません。その”
……そういえば、昨日衛兵さんたちも似たようなことを言っていた気がするけど。
素人丸出しの私の質問に、受付のお姉さんは嫌な顔一つせずに答えてくれる。
「”人ではない存在と意志を通わし、従え、それらを操って戦う者”…ギルドでは、そう定義されていますね」
「”人ではない存在”…」
「勿体ぶった言い方はしていますが、要は魔物のことです。その子たち、ユキさんに随分懐いているようですが…ユキさんがもし、その子たちに指示を出して戦うことができるなら、”
なるほど、確かに、マルコは”人ではない存在”だし(他の人が言うような”魔物”ではないケド…)、私はマルコに指示を出して戦うことができる。
……だとしたら、私はお姉さんの言う通り
ちらりと、付き添いで来てくれているハルニアの方を振り返って見る。
目が合うと、ハルニアは「それで大丈夫」と言うように微笑んで、頷いてくれた。
……よし、それじゃあ、私の
私は自信を持って、用紙の最後の項目を埋めた。
「…書けました。これでいいですか?」
「えぇ、確認しますね」
すべての項目が埋まった紙を受け取って、受付のお姉さんがその翡翠の瞳を動かして文字を追い始める。
…が、それはほんの数秒のこと。
内容をすぐに確認し終えたお姉さんは、私に目を向けて微笑んで、
「特に問題ありません。では、登録前に規約について説明しますね」
「はい」
こくり、と私は頷く。
そこから先の規約の説明はそこそこ長かったが、重要な点を簡単にまとめると次の通りだった。
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