第三話 いざ、冒険者ギルドへ!

 ―…さて、話はその翌日の朝。

 私と付き添いに来てくれたハルニアが、冒険者ギルドに到着した後に戻る。



 大きな木製の扉をくぐって、私はギルド内部へと足を踏み入れた。


 同時に目に映るのは、初めて見る冒険者ギルドの風景だ。


 木製の床に、レンガ組みの壁と大きめの窓が複数。

 壁際には長椅子がいくつかと、円卓と椅子が置いてあるのも見える。

 所々古めかしくはあるものの管理が行き届いているのか、ゴミ一つない。


 どういうわけだか、冒険者ギルドに対して「筋肉ムキムキの無頼漢たちが集う、雑然とした場所」といったイメージがあった私にとっては、思ったより清潔ですっきりしていて、ちょっと以外な光景だった。


 タイミングもあるのだろうが人も少なく、がらんとしている。


 奥の方に見える受付らしきカウンターに女の人が1人。

 それと、壁に掛かった大きなコルクボードの前に私ぐらいの年齢の男の子と女の子が一組いるけれど、他には誰もいない。


 ……あのカウンターの女の人が受付嬢で、コルクボードの前の男の子と女の子は冒険者なのかな?


 今日ここにやってきた目的は私のギルド登録なので、私はハルニアと一緒に受付へと向かう。


 途中で冒険者らしき二人組が私に気づいて、ふわふわ浮かんでいるシルフィード・エッジ四体を見て一瞬目を丸くした。


 栗毛色の短い髪と同色の目を持つ勝気そうな女の子と、さらりとした水色の髪と若葉色の目の男の子だ。


 二人はそれから一言二言、何かをこそこそと話し合った後、再びコルクボードとにらめっこを始めた。


 よく見れば、コルクボードには絵や文字が書かれた長方形の紙がたくさん張ってある。もしかしたら、受けるクエストを探している最中なのかもしれない。


「あ、ハルニアさんと…あら? あなたは?」


 受付嬢らしきお姉さんも私を見つけて、こてりと首を傾げる。


 ショートボブの茶髪と、利発そうな翡翠の瞳が目を引く美人さんだ。


 皺ひとつなくバッチリ着こなされた制服からは、いかにも仕事ができそうな雰囲気を感じる。

 けれどその顔立ちにはどこか愛嬌があって、親しみやすい雰囲気のある人だった。


「ウチで預かってるユキよ。前に話したこと、あったわよね?」

「あぁ、この子が」


 ハルニアが私の代わりに答えて、受付のお姉さんが人好きのする可愛らしい笑みを浮かべる。


「モーゼルさんから、お話は伺っています」

「う…」


 一体、どんな話をされたのだろう。

 …気になるけど、聞きたくない。


「ご用件は、冒険者登録でよろしいですか?」

「あ、はい…」

「承りました。少々、お待ちください」


 少し緊張気味に頷く私を見て、受付のお姉さんがテキパキと動き始める。

 あっという間に準備は終わり、私の前に一枚の紙と銀製のペンとが差し出された。


「はい、どうぞ。文字の読み書きはできますか?」

「えと…はい。一通りは」

「では、こちらに必要事項の記入をお願いします」


 紙とペンを受け取ってふと顔を上げれば、お姉さんの翡翠の瞳がすぐ近くにあって。

 私と目が合うと、お姉さんはにこり、と完璧な営業スマイルを浮かべた。


「何かわからないところがあれば、いつでも聞いてくださいね」


 ……おぉお、THE・デキる女! って感じ。色々頼りになりそう。


 ちょっと安心した私は早速、受け取った紙をカウンターに置いて記入を始める。


 名前に性別、年齢…項目は基本的なことばかりだ。

 年齢に関しては正確な数字が分からないけれど、周囲からは14前後に見えるらしいので、その通りに14と書いておく。


 すらすらと文字を書き込んでいく私だったけれど、最後の項目でふと手が止まる。


 ……クラスってあるけど、なんて書けばいいんだろ?


 一瞬、どういうわけか『1-A』だの『2-B』だの謎の古代語が頭に浮かぶけれど、それじゃないのはさすがに分かる。


「あの…この”クラス”って、何ですか?」


 困った私が受付のお姉さんに尋ねると、お姉さんは相変わらずの整った笑みを浮かべて、


「簡単に言い換えれば、”得意な戦い方”ですね。職種、とも言い換えられます。例えば、軽装戦士ライトウォーリア重装戦士ヘヴィウォーリア治癒魔導士ヒーラー魔導銃使いガン・ウィザード…」


 お姉さんはそこで一度、言葉を切って、


「ただ、どんな職種クラスでも使う武器や防具によって戦い方が大きく変わるので、装備や戦い方について書く方もいますよ」


 詳しく書いて登録しておけば、他の冒険者パーティーを紹介してもらったりする時に便利らしい。


「ユキさんの場合は…そうですね。”調教師テイマー”でしょうか?」


 最後の項目に何と書くべきか迷っている私と、そんな私の周囲に浮かぶ四つの白い三角形―…シルフィード・エッジを見て、受付のお姉さんが言う。


「え? えと、すみません。その”調教師テイマー”って、なんでしょう?」


 ……そういえば、昨日衛兵さんたちも似たようなことを言っていた気がするけど。


 素人丸出しの私の質問に、受付のお姉さんは嫌な顔一つせずに答えてくれる。


「”人ではない存在と意志を通わし、従え、それらを操って戦う者”…ギルドでは、そう定義されていますね」

「”人ではない存在”…」

「勿体ぶった言い方はしていますが、要は魔物のことです。その子たち、ユキさんに随分懐いているようですが…ユキさんがもし、その子たちに指示を出して戦うことができるなら、”調教師テイマー”としての登録も可能だと思いますよ」


 調教師テイマーの才能を持つ方は希少ですから、きっと大注目の新人さんになりますね!、と微笑む、受付のお姉さん。


 なるほど、確かに、マルコは”人ではない存在”だし(他の人が言うような”魔物”ではないケド…)、私はマルコに指示を出して戦うことができる。


 ……だとしたら、私はお姉さんの言う通り調教師テイマー…ってことになるのかな?


 ちらりと、付き添いで来てくれているハルニアの方を振り返って見る。

 目が合うと、ハルニアは「それで大丈夫」と言うように微笑んで、頷いてくれた。


 ……よし、それじゃあ、私の職種クラス調教師テイマーでいこう。


 私は自信を持って、用紙の最後の項目を埋めた。


「…書けました。これでいいですか?」

「えぇ、確認しますね」


 すべての項目が埋まった紙を受け取って、受付のお姉さんがその翡翠の瞳を動かして文字を追い始める。


 …が、それはほんの数秒のこと。


 内容をすぐに確認し終えたお姉さんは、私に目を向けて微笑んで、


「特に問題ありません。では、登録前に規約について説明しますね」

「はい」


 こくり、と私は頷く。


 そこから先の規約の説明はそこそこ長かったが、重要な点を簡単にまとめると次の通りだった。

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