第二十話 これが私の必殺技!

 マルコが並べたしつこい程の注意事項の数々の後、私はようやく必殺技の撃ち方を教えてもらえた。


 撃ち方を教わったら当然、私が次にやることは1つ。試し撃ちだ!


 幸いにも近くに私の頭ほどのサイズの石が転がっていたので、えっちらおっちら運んで、適当な切り株の上に置いて的にしてみる。

 ちょっと大きいし硬そうだけど、マルコが必殺技だなんて言うくらいだし、これぐらい砕けるんじゃないかと思う。


「よっし、準備おっけー。マルコ、やってみるね」

了解ラジャー


 的を置いた切り株から10歩ほど離れて、興奮を抑えるために深呼吸を1つ。

 けれど、気持ちは全然落ち着かない。

 私は胸のドキドキを感じたままで、両足を肩幅に広げてグッと力を入れると、右手を的となる石へ向けて広げた。

 切り株と石の向こう、ずっと先に森の木々が見えるけれど、かなり遠いしあそこまで攻撃が届くことはないはずだ。


 ……別に、必要な動作ってわけじゃないよ。ただ単に、私が考える必殺技っぽいポーズがこれだっただけ。


 それでも気分は大事だ。

 こういうのはやはり、形から入るのがベストなのだ。


 私はすぅっと息を吸うと、マルコに教えてもらった通りに命じた。


「…シルフィード・エッジ、モード:バスター」

了解ラジャー精霊ノ刃シルフィード・エッジ、モード:バスター起動」


 マルコが復唱すると同時に、広げた右手のひらの前にシルフィード・エッジ四機がシュバッと集まってきた。


 エメラルドグリーンの光を放つ、純白の三角形が四つ。内側に先端を向けて並ぶ。


 因みに、「モード:バスター」中のシルフィード・エッジの細かい動作の補助はマルコがやってくれるらしい。私がやるべきは、しっかり狙いを定めて、”強い力”をイメージするだけだとか。


「魔導コア、過剰共鳴開始」


 マルコがそう言うとともに、シルフィード・エッジが「ふぃぃぃいいいん…」と独特な音を立てて回転を始めた。

 まるで、私の手のひらの前で風車の羽が回っているみたいに見える。


「余剰エネルギー抽出、ブラスト・スフィア形成」


 広げた手のひらの中心辺り、回転するシルフィード・エッジたちの軸に当たるあたりに、濃い緑色に輝く球が生まれた。

 始めは私の拳と同じぐらいの小さなものだったけれど、それはパチパチと何かが弾けるような音を立てつつ、ゆっくり、ゆっくりと大きくなっていく。


「形成率、5…10…15…」


 思ったよりずいぶん準備に時間がかかるな、と思っていたら、


「警告:ブラスト・スフィア形成二深刻ナ遅延。”強イ力”ノ想像イメージガ不足」


 …なんか怒られた。

 どうやら、私のせいだったらしい。


「い、イメージだね。わかった!」


 なんて返事をしたものの、”強い力”のイメージなんて、一体なにを思い描けばいいのだろうか。

 こう、強そうなナニカだろうか。


 ……なんかでっかい魔物とか?

 ……筋肉モリモリの男の人とか?


 ヘタなものをイメージしようとすればするほど、頭がこんがらがっていく。


「提言」


 全然イメージがまとまらずに困っていると、マルコがいつもの無機質・無感情な口調で、アドバイスをくれた。


想像イメージセヨ。護ルベキ者、場所ヲ」


 アドバイスに従い、目を閉じて想像してみる。

 護るべき人として、アルやハルニア、優しくしてくれる街の人たちを。

 護るべき場所として、この街や、「止まり木亭」を。


想起ソウキセヨ、戦ウ理由ヲ」


 ……私が戦おうとする理由?

 それは――……。


「力ヲ求メルハ、ガ為カ」


 そう問われて脳裏に浮かぶのは、先日の遺跡で見たあの光景。

 私を護るために血を流し、倒れた彼の姿。

 そして―…


ザ…ザザザ…ヴ…ザ…

 

 ……え? なに、これ。


ザ…ザザザ…ヴヴ…


 そして。

 

 分厚いガラスの向こう側。

 魔物の大軍に迫られながらも、銃を手に奴らと真向から睨み合い、何かを叫んでいる男の人の背中が。


ザ…ザザザ…ザザ…

 

 私を突き飛ばし、最期に優しく微笑んで。

 次の瞬間には、魔物の群れに飲まれていった―…私によく似た女の人の姿が。


ザ…ヴヴ…ザザザザ…

 

 地面にうつぶせに横たわり、こちらに必死に手を伸ばして絶叫する、自分と同い年ぐらいの女の子の姿が。

 足元に落ちた、真っ赤に濡れた天色あまいろのミサンガが。


 閉じたまぶたの裏に、まるでスクリーンに投影された映画の一幕ワンシーンのごとく、次々と映っては消えていった。

 

 それは、今の私には存在しないはずの記憶。

 

 けれどその瞬間、私の心は、身体は、カッと燃えるように熱くなった。

 身体中の血が逆流するような感覚があって、意味も解らずに感情が膨れ上がる。


「私……私はもう、あんなのは嫌っ!」


 いつの間にやら、私は叫んでいた。


「なんにもできない、私のせいで……護られてばかりの私のせいで! 誰かが傷つくのは、もう嫌なの!!」


 膨張する感情に呼応するようにして、広げた右手の先、シルフィード・エッジの回転が一気に速くなる。

 回転の中心に生じた緑色の光球が、みるみる大きくなっていく。


「ブラスト・スフィア形成率、急上昇。現在80…100…」


 ボーリング球ぐらいのサイズで光球は成長を止め、代わりに表面上にぱちん、ぱちんと帯電するような反応が生まれて、


「形成率、120%を超過。ブラスト・スフィア臨界、ハーモニック・バースト、レディ」

「っ!」


 両眼を大きく見開いて、私は心のままに咆哮する。

 …一瞬だけ、背後からハルニアやアルが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「―…ハーモニック・バースト、撃てファイア!」

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