第十九話 必殺技って、滾るよね!

 ……うぅぅ、やっぱり痛かった。マルコ、酷い…。


 頭痛と一緒に脳内に送り込まれてきた情報を、半ば涙目になりながら吟味する。

 と、そこで、ふと気づいたことが1つ。


「マルコ、未装備ってなってるのがあるけど?」

「本機ハ現在、兵装ノ一部ヲ喪失中。弾薬欠乏、主兵装欠如ノ影響ニヨリ、現在、本機ノ推定戦力値ハ通常時ノ30%ニ低下」

「30%…」


 それは大変だ。現状では、マルコは本来の力の半分も出せないことになる。

 でも逆に言えば、マルコはまだまだ強くなるということだ。

 なにせ、まだ70%分ものパワーを秘めているのだから。プラスに考えれば、伸びしろがあるのは悪いことじゃない。


「推奨:各地遺跡ノ探索ニヨル、本機主兵装ノ回収。オヨビ、主砲弾、7.62㎜実包じっぽう(※実包:実弾のコト)、精霊ノ刃シルフィード・エッジ、回収」

「んー…」


 マルコの言いたいことを、自分なりに噛み砕いて確認してみる。


「えと…遺跡を調べて、色々集めてくれば、それでマルコが強くなるよ!…ってことでいいんだよね?」

「肯定」


 要は宝探しだ。遺跡に赴き、マルコの欠けたパーツを見つけ出して、強くする。

 もしかしたら、今日みたく街の遺物屋さんでも必要なものが手に入るかもしれない。たまには顔を出してみるのもアリかなと、私は思った。 



 その後は、始めにマルコが言っていてくれていた通り、シルフィード・エッジの操作練習だ。


 シルフィード・エッジの操作については、実はマルコにお願いすることもできるし、むしろ普段の何もない時はマルコが動かしてくれている。


 ずっと私の意志で動かしていると、頭に負荷が掛かりすぎるんだとか何だとか。


 けれど、戦う時みたく複雑な判断や情報の処理が必要な時は、私自身―…というより、人間の脳を使って動かした方がいいみたい。

 マルコが色々言っていたことをまとめると、「人間の脳はスゴイ」…らしい。


 ただし、さっきもチラッと言った通り、こちらがシルフィード・エッジのコントロールを持っている間は脳に結構な負荷が掛かる。

 曰く、脳の一部を一時的に機械に使わせてあげる状態になるらしく(地味に怖い!)、長時間の操作は脳に悪影響を及ぼすからダメなんだとか。


 どれぐらいの時間使い続けられるのかは個人差があるらしいけど、私の場合、大体10分ぐらいだって。

 敵と戦う場合には、10分以内に勝負をつけないといけない…ってことだね。


 因みに、シルフィード・エッジの操作方法はとっても簡単だ。

 ただ単に、頭の中で「こんな感じで動いて!」とイメージすればいい。あとはシルフィード・エッジ側が、受け取ったイメージを反映した動きをしてくれる。


 でも、あまりにもぼんやりしたイメージだと、シルフィード・エッジも何をすればいいか分からずに困ってしまう。

 そして当然ながら、思い描くイメージが具体的であればあるほど、シルフィード・エッジは動きやすい。


 つまり、シルフィード・エッジを上手に使うためには、「何となくこんな感じでよろしく!」…と適当なことを考えるのではなく、「その場の状況に応じて必要な動きを、できるだけ具体的にイメージしてあげること」が必要になる。

 それも四機分、一機一機がどんな動きをするべきか、それぞれ考えてあげるのが望ましい。

 もちろん、四機同時に。


 ……それを戦いながらずっと続けるのって、すごく大変そう…。


 まぁだからこそ、練習が必要なわけだ。


「よっし、とにかく練習だよね、練習」


 考えていたって、何も始まらない。まずは行動あるのみだ。

 胸の前で両手の拳をぎゅっと握って、私は気合いを入れる。


「マルコ、始めるよ」

了解ラジャー、演習開始」


 同時に、マルコから聞き覚えのあるセリフが返って来た。、


精霊ノ刃シルフィードエッジ、コントロール権ヲマスター二譲渡。…ユーハブ」

「あ、えと、あ…”アイバブ”!」


 遺跡の中で私じゃない『わたし』がしていたやり取りを思い出し、真似てみる。


 同時に、私の左右に二体ずつ、整然と並んでいたシルフィード・エッジの動きが、急にふらりと乱れた感じがした。

 操作が私に移ったからだろう。私は慌てて、自分の前にピシッと整列する姿をイメージする。


 シルフィード・エッジたちはすぐに反応し、イメージ通りの動きで私の前に四体が等間隔で並んで動きを止めた。


 ……なるほど、なるほど?これはちょっと、面白いかも。



 そこから先は、シルフィード・エッジを自由に動かして練習だ。


 自分の身体の周囲をクルクルと舞わせてみたり、四機揃っての急上昇から急降下、宙がえりから、思いっきり空高くまで飛ばしてみたり。


 目立った障害物がない広く開放的な草原の上、シルフィード・エッジは私が思い描いた通りの軌道で飛んでいく。

 真っ白でツヤツヤした装甲が時々、陽の光を反射してキラリと輝いていて…とてもキレイで、動かしていて楽しい。

 自然と口角が上がっていくのが、自分でも分かる。


 そうしてシルフィード・エッジの操作にもある程度慣れてきたころ、


「推奨:ハーモニック・バースト、試射」


 突然、マルコがそう提案してきた。


「?、はーもにっく…なに?」

「説明」


 ……さっき、頭に無理やり送られてきたシルフィード・エッジの武器には、そんなの載ってなかった気がするけど?


 私が首をかしげていると、「よくぞ聞いてくれた!」と言わんばかりに、マルコの懇切丁寧な解説が始まって、


「ハーモニック・バースト、シルフィード・エッジ四機以上ノ編成デ使用可能トナル、高威力魔導砲撃。ハーモナイズ現象応用二ヨリ、各機魔導コアノ出力ヲ増幅、生成サレタ余剰エネルギーヲ抽出、臨界マデ圧縮後、射線軸上二展開スルコトデ…」

「ちょ、ちょっと待って!」


 だけど当然、私の頭がついていかない。

 マルコの説明の内容が半分も理解できず、私は慌ててマルコの言葉を遮り、ピッと指を立てて言った。


「えと、マルコ。もう少し、簡単にお願いしますっ!」

「…」


 マルコは一瞬、困ったように黙った後、


「…精霊の刃シルフィード・エッジガ、エネルギーノ大半ヲ消費シテ放ツ、超・必殺技」

「必殺…技…ッ!?」


 ……必殺技? 今、必殺技って言った!?


 何度か口の中で、ひっさつわざ、ヒサツ・ワザ、必殺技と言葉を転がしてみる。

 そして確信した。

 必殺技。なんと…なんとワクワクする響きだろう!

 そう呼ばれる技を1つ持っているだけで、私、ものすごく強くなれそうな気がする!


「マルコ! それ、どうしたら撃てるの? ね、すぐっ! 今すぐ教えて!」


 荒く鼻息を吹きながら、私はマルコが繋がっているシルフィード・エッジへと詰め寄った。

 他の人が見たらたぶんドン引きするぐらいの勢いだけど、許してほしい。


 ……だって、必殺技だよ? 必殺技! 私ぐらいの、十代前半ぐらいの年頃の子だったら、みんな分かってくれると思う。誰だって「必殺ッ!」とか「秘奥義ッ!」とか「闇の炎に抱かれて消えろッ!」とか、一度はやってみたいはずだ。


「…推奨:ハーモニック・バースト、注意事項ノ確認」


 だけど、マルコはそんな私の興奮っぷりを危険だと判断したらしい。

 そこから長々と、お小言が始まってしまった。


 曰く、この技はシルフィード・エッジの最大保有エネルギーの約七割を消費する大技だから、使いどころに気をつけろだとか。


 あくまで四機編成以上でしか使えない技で、壊れたり何だりで四機未満の編成になると使えなくなるとか。


 撃つ前には射線上に味方がいないことを確認して、絶対に巻き込むなだとか。


 …早く必殺技を習いたくて仕方がなかった私は、結構話半分に聞き流していたけど、そんな感じの内容だった。

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