第十四話 再起動!
「これ、
遺物屋さんの屋台のカウンターの上、その端っこに他の遺物と一緒に並んだ三角形の物体が二つ。
煤けた白い装甲を持つその形状は、どう見てもシルフィード・エッジそのものだった。
……ぼろぼろで動きそうには見えないけど、壊れてるのかな?
思わず足を止めて、傍らに浮かぶシルフィード・エッジとそれとを見比べていると、
「ん? 嬢ちゃん、どれか気になるものが…って、あぁあっ!?」
「え?」
突然、屋台に立っていたお兄さんが私の近くに浮かんでいるシルフィード・エッジを指さして、素っ頓狂な声を上げた。
「なんてこった! 嬢ちゃんの連れてるその魔物、どっかで見たことあると思ったら…!」
あ、やばい…と私は思った。
私が連れている、というか、私に着いてきているモノが
考えてみたら、普段から遺物を扱っている人々にとって
……今更だけど、もしかしてこの屋台、ものすっごい危険地帯なのでは!?
慌てる私を他所に、お兄さんはシルフィード・エッジを指さしたまま、
「そいつ、ウチに並べてる商品にそっくりじゃないか!」
「あ、そのえと、それは…」
「なんてこった…うちの商品に、魔物の死骸が紛れ込んでるなんて…!」
「へ?」
唐突に頭を抱え始めたお兄さんを前に、私はこてりんと首を傾げることしかできない。
「あの
「あ、そうなんです…ね。あはは」
…なにやら勘違いしてくれているらしい。
冤罪をかけられている誰かには申し訳ないけど、このまま勘違いしていてもらおう。
その場を適当に笑ってやり過ごそうとしていると、
「推奨:入手」
私の隣でふわふわ浮かぶシルフィード・エッジからそんな声が聞こえて、私は再びこてん、と首をかしげて尋ねた。
「入手…って、マルコ、仲間が欲しいの?」
「肯定:
「ちょ、ちょっと待ってマルコ!」
突然につらつらとシルフィード・エッジ―…要はマルコが語りだした内容に全く付いていけず、私は慌てて話を遮った。
一応頑張って理解は試みたのだが…知らない単語が多すぎてダメだった。
私は、うーん、と唸ったのち、人差し指をぴんと立てて尋ねてみる。
「えと…もう少し、簡単にお願いできる?」
「…」
マルコは一瞬、困ったように沈黙した後、
「…タクサン、ソロエルト、強クナリマス」
「なるほど!」
なんか色々端折った説明な気がするけど、それなら分かりやすい。
味方が強くなるに越したことはないし、マルコの言う通りにしてみよう。
まぁ、このボロボロの状態のシルフィード・エッジが動くかどうかは別にして…。
私は早速、商品として並べられているボロっちい方のシルフィード・エッジを指さして、
「お兄さん、これ二つ、売ってもらえますか?」
古文書(古代の娯楽小説)の解読で稼いでいる私は、何だかんだでお金に余裕がある。
腰にベルトを介してぶら下げた麻袋の中にちょっとした額も持ち歩いているし、ここで買えないことはないだろう。
ところが。
頭を抱えていたお兄さんは、バッと顔を上げて私を見て、
「売る!? 売るなんてとんでもない!」
「え!?」
「ウチは発掘された遺物を売る店であって、どんなに珍しかろうが魔物素材を扱う店じゃないんだ。それも遺物と間違って置いてたとあっちゃあ、ウチの店の面目が立たねぇ。こいつは今すぐにでも捨てるつもりだ。欲しいなら、とっとと持ってってくれ」
「えっと…タダでいいってことですか?」
「あぁ、さっきも言ったが、どうせ捨てるんだ。こいつを持ってってくれるなら、タダでも何でもいいさ」
「ありがとうございます!ではお言葉に甘えて―…」
タダでもらえるなんてラッキー!
…なんて呑気なことを考えながら、私はカウンターの上のシルフィード・エッジへと手を伸ばした。
そして、そのまま片腕で抱えて「よっこいしょ」と持ち運ぼうとしたところで、
「って、重っ…!?」
予想外にずしっと来た重さに、驚きの声を挙げた。
いつもふわふわ羽みたいに飛んでる姿ばかり見てるから、軽いと思っていたけれど…私の細腕じゃ全然持ち上がらないぐらいの重量はある。
しかも、それが二体分。どうやって持っていこう?
「…持つか?」
「わひゃぁっ!?」
困っていたら、背後から突然に声が聞こえた。
いつの間にか、アルがすぐ近くまで寄ってきていたらしい。
……だから近いってっ!
思わず変な声を出して飛び上がり、横に一歩ずれて声の主から距離を開ける。
むふぅ、と頬を膨らませて振り返れば、そこには普段通りの仏頂面でこちらを見下ろす紅髪の彼の姿があった。
「だ、大丈夫です。アルさん怪我してますし、こんな重いの持たせられるわけないじゃないですか」
「…別に、問題ないが」
「問題あります!」
「…。そうか」
強い口調で言って、その紅瞳を見上げたとたん…すっと目線を反らされて、なぜだか落ち着かない気分になる。
…相手に目を反らされたぐらいでなんでこんな気持ちになるのか、分からない。
と、そこで。
「提言:疑似ハーモナイズ現象応用二ヨル、エネルギー共有、オヨビ再起動ガ可能。実行ノ許可ヲ求ム」
マルコがそんなことを言い出した。
「再起動…って、ここで動かせるの?」
「肯定」
シルフィード・エッジは普段、マルコ本体の中に格納されていて、そこでエネルギーを充填している。
だから新しいシルフィード・エッジも、マルコ本体に一度繋がないと動かせないと思っていた。
けれど、どうやら違うらしい。古代の技術、すごい。
「そっか。それじゃマルコ、お願いできる?」
「
返事が返ってくると同時に、マルコに繋がったシルフィード・エッジ二体がすぃーっと移動して、屋台の商品として並ぶ二体の上で止まる。
何が起こるのかと興味深く見つめる私の前で、稼働中のシルフィード・エッジからエメラルドカラーのスポットライトのような光が飛び出して、動かない二体の全体を覆うようにして当てられる。
「状態ヲ確認中………確認、完了。内部機構二損傷ヲ認メズ。魔導エネルギー供与開始」
続いて、動いている二体の胴体下から濃い緑のビームが撃ち出され、他二体へと伸びた。
シルフィード・エッジの白い三角形の身体の上側表面には、透明のビー玉のような部品がハマっていて、ビームはそこに向かって伸びて、命中する。
「魔導エネルギー供与、必要ライン到達」
ビームの照射はすぐに止まって、商品台の上の二体にハマるビー玉に、ポッと緑色の光が灯った。
「魔導コア、共鳴開始」
マルコの無機質な声と同時に、宙に浮かんだ二体からぴぃんっと弦を弾くような音が響く。
それに応えるようにして、商品台の上の二体からも、ぽぉん、と同じような音が返された。
「わぁ…」
本物の弦楽器みたいな澄んだ音のやり取りに、私は思わず聞き惚れてしまう。
「出力上昇中……」
そんな私の目の前で、商品棚の上の二体がカタカタと振動を始めて、
「出力、基準値マデ上昇。精霊の
次の瞬間、商品台の上の二体のお尻から、薄い緑色の光がぶわぁっとあふれ出た。
埃やら何やらで薄汚れていた表面にも眩い緑の光が走って、汚れが見る見るうちに消えていく。
それは、わずか数秒の出来事。私たちが目を見開いて唖然としている間に、商品台の上のシルフィード・エッジ二体は、純白のつやつやした装甲を取り戻した。
新品同然になった二体が、何事もなかったかのようにふわっと宙に浮かび上がる。
それから他の二体と一緒に、キレイにシンクロした動きで私の側へと戻ってきた。
「…すげぇ」
屋台のお兄さんが、感嘆の声を挙げる。
「何がどうなってるんだかさっぱりだが…こんなの、初めて見た」
ふと人気を感じて振り返ってみれば、その場にはいつの間にかたくさんの人が集まってきていた。みな物珍しそうな、好奇な視線を私に向けている。
アルが周囲を警戒するような目で見て、目立つのはあまり好きじゃないらしいハルニアが、眉尻を下げた困った顔でため息をつく中…。
自分に集中する視線に居た堪れなくなった私は、口元の引きつった微妙な愛想笑いを返すことしかできなかった。
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