第三章 古代兵器《オルト=マシーナ》の調教師

第一話 或ル少女ノ夢 -Re:member.-

 …ザ…ザザザ…ザー…ザザザザ…

 …ブ…ブブ…ブブブ…

 …オモイダセ…オモイダセ…オモイダセ…オモイダセ…

 

 …思い出せ?

 …そうだ、思い出さないと…。


 燃える街。

 赤黒く染まった空と、崩れた家屋。

 倒れた電柱に押しつぶされた自動車から、ガソリンだかオイルだかが血液みたく流れ出ていて、何だか不気味で…。


 ザ…ザザ…ブブ…ブ…ザ…ザーーーー…


『魔導生物接近警報です! 繰り返します、魔導生物がきます!』

『【ザザ…ブ…ザ…】…市に、魔導生物の群れが迫っています! 今すぐに逃げてください!』

『命を守ることを第一に考えてください! 引き返してはいけません、最寄りのシェルターに今すぐに避難を…』


 …ザー…ザザザ…ブ…ブ…ザーーーー…


 トラックみたいなサイズの猪が…。

 私の身長の倍ぐらいの大きさの、蜂の群れが…。

 津波のように押し寄せて、街を呑み込んでいく。

 みんな、まるで人間たちに復讐するみたいに…。

 すべてを蹂躙していく。

 私の日常を、壊していく。


 …ザ…ブブブ…ザザ…


 私の家よりも大きな、目がたくさんある黒い熊…。

 あぁあ、食べないで、食べないで、食べないで。

 みんなを、食べないで…。


? 優希ゆき…助けて…!』

『優、希…! ダメ、逃げないで、置いてかないで! 見捨てないでよぉ…っ!』

『あ…ッ!? ウソ、ヤダ、やめて! 食べなっ…ああぁぁあああッ! いやぁぁあああああッッ!』

『優希ッ! たすけて! 優希!』

優希ゆきィィイイッ!」


 ザー…ブブブ…ザー…ザー…ザーーーー―…


『なんで!? なんであやを見捨てたの!?』

『親友だって言ってたのに…なんで!?』

『みんなうわさしてる! 優希が自分だけ、他の皆をおとりにして逃げてきたって…!』

『ホントに最低っ! 信じらんない!』


 ザー…ブブ…ザザザ…ザ…


 …そうだ。

 あの時、私は逃げた。

 なんにも、できなかった。


 ザ…ブブブ…ザザザザザザザザ…


のぞみ! 優希! 行け!』

『行けぇぇええッ!』


 あの時も。


 ザザザ…ブブ…ブー…ザザザ…


『優希。お願い、あなたは…生きて―…』


 あの時も。

 私は逃げた。なんにも、できなかった。

 …ううん、違う。

 なんにもできなかったんじゃない。

 んだ。

 本当は、何かできたかも知れないのに。

 何か、できることがあったかも知れないのに。

 私はなにもせずに、逃げたんだ。

 

 ザ…ザザザ…ヴー…ザザザ… 


『…君には、話しておこうと思う』

『…ハイバネーション技術は、本当はまだ未完成なんだ』

『目覚めた時に、どんな不具合が起こるか…僕たち科学者にも、上の連中にも、誰にも分かっていないんだ。一応、”保険”は持たせるが…』


 知ってる。

 それでも、これが。

 これが、やっと見つけた、私にできることだから。


『すまない…本当に、すまない…っ』

『君たちのような子どもを、こんなふうに犠牲にする方法にしか希望を見出せない…僕たち大人を、許してくれ…』


 …ザ…ザザザ…ザー…


『あぁ、そうだ…。君は、希望なんだ…』

『絶望の闇の中、僕たち人類に最後に残された…しい望』

 

 ヴ―…ザザザ…ヴヴヴ…ザザ…


『身勝手なのは【ザー…ザザ…】…でも【ザ…ザザザザ…】…どうか【ザザザザ…】』

 

 …オモイダセ…オモイダセ…オモイダセ…オモイダセ…

 …ヤクソク、ヲ…オモイダセ…


『人類を、救ってくれ』


 ザァーーーーーーーーーーーーーーーーー………

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