第十三話 セルナ=イスト遺跡探索

 ……そろそろ大丈夫そうか。


 古代兵器オルト=マシーナたちがいなくなってから待つことしばし。


 アルはゆっくりと、柱の影から出て周囲を見廻す。

 そして安全であることを確認すると、柱の後ろから顔だけを出してこちらを見ているユキに視線を送り、


「…よし、出てきていいぞ」


「はい…」


 ユキもまた、辺りを見廻しながら、そろーり、そろりと物陰から身を現す。


 ……それにしても、やはりここでも古代兵器オルト=マシーナは復活していたか。


 その姿を見守りながら、アルは先程の小型の古代兵器たちのことを考えていた。


 ……厄介な相手だ、見つかると仲間を呼ばれ、囲まれる。しかも一体一体の火力も高いと来た。


 おまけに、相手は空を飛んでいる。機動力も悪くなさそうだった。


 もし仮に襲われれば、ユキを守りつつ逃げなくてはならないが…果たしてそれができるかどうか。


「アルさん」


 いっそ引き返すべきか?と考えていたところで、ユキが言った。


「中も見てみたいんですが…いいですか?」


「…」


 上目遣いで向けられる、ひたむきな眼差し。

 アルはその目をじっと見返した後、仕方がなさそうにため息を1つ。


「…仕事クエストの依頼主はお前だ。好きにしろ」


 それからユキに背を向け、セルナ=イスト遺跡本体へとゆっくり足を進めながら、言った。


「…ただし、俺の後ろから離れるな。いざという時、守り切れん」


「はい!」


 

――――――――――――――――――――



 セルナ=イスト遺跡内部。


 その天井は高く、幅は広い。


 具体的に言えば、シルフェの街でよく見る石材やレンガを組んで造った家などは、数件がすっぽり入ってしまうのではないかと思われるほどの高さ、広さ。


 そしてその上で目につくのは、所々に雑然と放置された長方形の鉄の箱だった。

 無造作に置かれたそれらは、成人男性であるアルが身体を屈めずに中に入れるぐらいには大きい。

 そんなものがちょいちょい不規則に転がっているおかげで、二人はしばしば現れる小型古代兵器から身を隠しつつ進むことができていた。

 壁からは何やら、用途不明の遺物がにょきにょき生えており、時折それらに繋がれたまま朽ちている大型の古代兵器の姿も見られる。


「ここが、古代遺跡…」


 そんな遺跡のあちこちを真剣な目で見廻しながら、ユキは歩みを進めていた。


 少し前を行くアルの背中を見失わないよう、置いて行かれないように気を付けていた彼女だったが…あるものを見つけ、ふと足を止めてしまう。


 なぜだろうか、ユキにはそれが、今の自分にとってとても重要なものに思えて、


「これ、なんだろ…?」


 まるで吸い寄せられるように、”それ”に向かってふらふら、と近づいた所で―…


――――――――――――――――――――


「あっ―…!」

「っ!」


 背後でユキの叫び声が聞こえて、アルはハッとして振り返った。


 いつの間にそうなったのか、すぐ後ろにいたはずのユキとの距離は大分離れてしまっていた。その距離、歩数にして約十歩ほど。

 

 これは非常によろしくない。これだけ離れていると、何かあった時にすぐにフォローに入ることができない。

 

 だが、それ以上にマズかったのは…


―ヴィイイイイイイイン…


 ユキのすぐ目の前に、例の小型古代兵器がふわふわと浮かんでいることだった。


 いきなりのことで声も上げられず固まるユキと、その様子をじっと観察するようにして浮かぶ古代兵器。


 ……見つかったか!


 アルは咄嗟に魔導銃を構え、引き金を引こうとするが、


「…む?」


 その次の瞬間、古代兵器はユキへの興味を失ったかのように距離を取ると、そのままどこかへ飛び去ってしまった。


 ユキがほぅっと息を吐き、安心した様子で肩の力を抜くのが見える。


 ……見逃された?ユキは古代兵器オルト=マシーナに攻撃されないのか。


 驚きながらも、アルはユキに小走りで近づいて、


「…離れるなと言っただろう」


「ご、ごめんなさい。ちょっと、気になってしまって」


 申し訳なさそうに言って、ふっと別の方向へと視線を送るユキ。


 ユキの視線を追い、そちらに目を向けると、


「…古代兵器オルト=マシーナの残骸か」


 そこには…壁から生えた棒のような遺物二つに挟まれるようにして、ぐったりと身を横たえる多脚の大型古代兵器が佇んでいた。


 体高は、アルの身長の二倍強ほどか。

 角ばった胴体に、光を失った一つ目、そしてその胴から生える四本の脚…。よく見る六つ脚の古代兵器と比べると、少し小柄だろうか。

 ところどころ錆の浮いた装甲は鈍色で、その表面には黒い塗料で「05」と記されていた。

 

 傍らには用途不明の大きな箱のような遺物が立っていて、そこから伸びた管が胴体に繋がっている。

 その管の色はくすんではいるものの、赤やら黄色やら白やら青やら、妙にカラフルであった。

 

 ……角が無いな。

 

 そう、そしてこの古代兵器には、先月ソキ=イストでアルを苦しめた”火を噴く角”が生えていなかった。

 元々生えていないのか、これから生えてくるのか、魔導銃のアタッチメントのように取り外しが可能なのか…それは定かではない。

 だが胴の上には、見覚えのある黒い触角が一本生えていて、この古代兵器の攻撃能力がゼロではないことを物語っていた。


「ないとは思うが…動き出されると厄介だ。行くぞ」


「あ、はい…!」


 ソキ=イストでは、あの触角からの攻撃にも随分苦しめられた。


 今、こいつが唐突に動き出して、さらに先程の小型の古代兵器にも囲まれたら…さすがに手の打ちようがない。


 アルは背後のユキの様子を気にしつつも、そそくさとその場を後にした。


 ユキもまた、まだどこか気がかりな様子で大型古代兵器の方向をちらりと見ながらも、アルの背を追う。

 


 ―…その時、二人は気づいていなかった。

 

 ユキの胸元で揺れる、あの八面体のペンダント。

 

 それが一瞬、ちかちか!っと輝き…それに応えるようにして、古代兵器の一つ目にぼんやりと赤い光が灯ったことに。

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