第十四話 最深部にて…
進むことしばし。
アルとユキの二人は、セルナ=イスト遺跡最深部へと到達していた。
壁にぽっかりと空いた、大人一人分ほどのサイズの四角い穴。
きれいな縦向きの長方形のその穴をくぐると…目に入ってきたのは、崩れた天井から差し込む陽光と、珍妙な遺物が並ぶ不思議な空間だった。
まず目につくのは、四角く、黒く濁ったガラスが組み込まれた用途不明の遺物たち。
それが、部屋に入って真正面の壁にいくつも埋め込まれている。
壁からは、机だろうか?ツルツルした不思議な素材でできた板が生えており、あちこちに椅子のようなものが転がっていた。
部屋は広く、薄暗い。
……さて、これで最深部まで一通り探索できたか。
周囲を警戒しつつ、そろそろ戻るべきだろうか…とアルは考える。
ふと傍らに目を向ければ、周囲を興味深そうに見廻すユキの姿が目に入った。
……これで、こいつも満足だろう。
ここセルナ=イストは遺跡としてはかなり前に発見された場所であり、それ故に価値のありそうな遺物は他の遺跡冒険者や調査隊にあらかた取りつくされている。
ここで粘ってあれこれ探索しても、危険なだけでメリットは少ない。
「ユキ、そろそろ―…」
戻るぞ、と提案しようとしたところで…。
ぞくり、背筋を悪寒が走る。
その感覚は、アルには憶えのあるもので…
……
同時に、肩の後ろをヒュッと何かが掠めていく。
「ひゃっ!?え?急に何…え、え、ぇ?」
混乱したユキが腕の中であわあわ言っているが、気にしている余裕はない。
少女の細く小さな身体を胸に抱いたまま、ゴロリと地面を転がる。
瞬間、先程まで自分たちがいた場所に魔力の槍が飛んできて、大きく地面を穿った。
「ひゃぁっ!?」
突然襲ってきた音と衝撃に驚き、悲鳴を上げるユキ。
アルはその場で素早く片膝立ちとなると、攻撃が飛んできた方向に左の手のひらを向けて、紅い障壁を展開した。
―ボシュッ!ボシュッ!
再び飛来した魔力の槍が障壁に衝突し、爆ぜるような音を残してかき消えたのは、それとほぼ同時であった。
「…」
アルは無言で、障壁の向こう…奇襲を仕掛けてきた者が潜む、薄暗い遺跡の闇の中を睨み続ける。
すると、それ以降は追撃が加えられることはなく、
―ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!
代わりに飛んできたのは、間の抜けた拍手の音だった。
「ブラボー、ブラボー!いやぁさすが、良い反応だね!」
聞こえてくるのは、まだ声変わりの済んでいない子どものような、中性的な声。
続いて渇いた足音が、こつ、こつ、こつと闇の向こうから近づいてくる。
「今ので仕留められると思ってたんだけど、やっぱ一味違うかぁ」
やがて、崩れた天井から差し込む光が、その姿を照らし出す。
それは、この場所―…森の奥の朽ちた遺跡には、ひどく似合わない、不自然な存在。
「やっと見つけたよ。紅髪の
―…そこに立っていたのは、ぱりっと糊のきいた
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