第九話 不期遭遇戦《ランダム・エンカウント》 vs.ウリゴル
ウリゴル、という魔物がいる。
どっしりとした四本足と毛むくじゃらの身体、左右の口元に生える鋭い牙が特徴的な、ウリボルの成長個体である。その見た目はウリボルと同じく『猪』に近いが、体長・体高ともにこちらのほうが倍以上はあり、気性も荒い。
森に棲み、雑食性で木の芽や実を食べたりもするが、他の魔物を襲ってその肉を食すこともある。そしてその”他の魔物”には、人間も含まれていたりする。
「BU-GIIIIIII!!」
セルナ=イスト遺跡への道をゆくアルとユキの前に、ウリゴル三匹が現れたのは、テンタクルスとの戦闘から程ないころだった。
……またか。
心の中で舌打ちし、アルは身構える。
先程と同じくユキを背後へ。アル自身は前に出て、ウリゴルとユキの間に立ちはだかった。
こちらの道を塞ぐように立つ三匹のウリゴル。彼らを鋭い目で見て、アルは考える。
……ウリゴルの主な攻撃手段は突進攻撃。向こうから勝手に距離を詰めてくるならば、拡散型でのカウンターが有利。
近距離戦において圧倒的なパンチ力を誇るアタッチメント、拡散型。
アルは素早く銃口のパーツを取り替えると、敵の攻撃に備えた。
対するウリゴルたちは、群れのリーダーだろうか、中心の一匹が他二匹に指示を出すように、
「FUGO!!FUGO,FUGO!!」
それを聞いてか、左右に並ぶ二匹は、ざっ、ざっ、と前足で地面を蹴って突進の予備動作に入る。
そして、
「BU-GIIIIII!!」
左右の二匹が同時に、わずかに遅れて中心の一匹が突撃を始めた。
二匹がアルの左右から、一匹が真正面から突っ込んでくる。
……時間差で複数の方向から攻めるつもりか。魔物にしては頭が良い。だが!
わざわざ相手の術中にハマってやる必要はない。
アルは真正面から突っ込んでくるリーダーと思しき一匹にあえて自分から距離を詰めると、
「BUPI!?」
―どぱん!!
その鼻っ面に遠慮なく拡散型の一発を叩き込んだ。
撃たれた個体は反応する間もなく顔面を抉られ、転倒。地面に激突し、アルのすぐ真横を土埃を上げながらゴロゴロ転がって通り過ぎていく。
……まずは一匹。
あとは他二匹を順に撃破すればいい。
そう思った瞬間、
「!?」
アルは驚きに目を見開くことになる。
残ったウリゴル…アルの左右に展開した二匹がこちらを完全に無視し、素通りしたのだ。
彼らはアルに見向きもせず、アルの背後、離れて戦いを見守っていたユキに向かって一直線に突っ込んでいく。
「へ?…え、ひぃいいいい!?」
一瞬、きょとんっと瞳を瞬かせた後、ユキは絶叫しながら走り出した。もちろん、突撃してくるウリゴルに背を向けて。
「なんでっ!?なんでこっち来…ムリムリムリムリ!」
ユキは全力でダッシュしているようだが、相手は時に駿馬にすら追いつく俊足の持ち主。
人間の少女程度の足で振り切れるはずもなく…
―ヴィシュゥウウン!
だがウリゴルがユキに追いつく前に、紅いビーム状の魔法攻撃が一匹の足を薙いだ。
瞬時にアタッチメントを付け替えたアルが狙撃したのである。
「BI-PIIIIII!?!?」
足を撃たれバランスを崩した一匹は、突進の勢いそのままに大地とキスをするハメになる。そいつは首を変な方向に折り曲げながら回転して、地面に転がったまま動かなくなった。
しかし、ウリゴルはもう一匹残っている。そしてその一匹の牙は、もはやユキの背に届くか届かないかの距離まで迫っていた。
「あ―…っ!?」
そこで、ユキが転んだ。何かに躓いたか、足をもつれさせたのか、それは分からない。
とにもかくにも、ユキは俯せにびたーん!と倒れ、足を止めることになった。
それが良かった。
なぜなら、全力疾走中のウリゴルは、急には止まれないものだから。
「BUGIIIII!?」
標的であるユキがいきなり目の前ですっ転び、最後のウリゴルは大慌てで制動をかけようとした。当然すぐには止まれず、その体はユキの横を風のごとく通り過ぎる。
…ユキがそこで踏まれてぺしゃんこにならなかったのは、運がよかったと言えるだろう。
最後のウリゴルはそれでも四肢を踏ん張って耐え、後ろ足でずざざざざ!と派手にドリフトをかましてユキの方向に向き直るが、
―ヴィシュゥウウン!
次の瞬間にはアルに頭を撃ち抜かれ、絶命した。
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