第十話 不期遭遇戦《ランダム・エンカウント》 vs.スパイン・キャスター
スパイン・キャスター、という魔物をご存じだろうか。
『スズメバチ』をそのまま人間サイズに巨大化させたような姿をしており、強靭なアゴによる嚙みつきと、腹の先端から生える毒針による攻撃を得意とする。
特筆すべきは、魔物のとある性質を、彼らは十全に活かして襲ってくることか。
その性質とは、”魔物は群れると強くなる”。
これは、単純に”数が多くなるから”という話ではない。魔物は群れることで、個々のステータスそのものにバフがかかる。近くに同種の仲間がいることで、一体一体が強くなるのだ。
詳しい原理は明らかにされていないが、これは血縁的に近い者同士であればあるほど効果が強く表れる。
そしてスパイン・キャスターの群れとは、同じ巣の同じ女王から生まれた奴らの集まりだ。
彼らは兄弟の血縁により自身を最大限に強化したうえで、狩りを行うのである。
その方法は極めて残忍であり、毒針で弱らせ相手が動けなくなったところを、その大アゴでバリバリと噛み砕いて咀嚼し…最後は肉団子にして巣に持ち帰ってしまう。
彼らは肉食で、体の大小に関わらず他の魔物はすべて狩りの対象となる。
そしてもちろん、その”他の魔物”には、人間も含まれる。
「KIsyasyasya!!」
―ぶぅぅぅぅん…
重い羽音を響かせ、四匹のスパイン・キャスターが行く手を遮る。
それは、先程ウリゴルと戦ってから程ないころだった。
……またか。
心の中でため息をつき、アルは身構える。
当然、ユキは背後へ。アル自身は前に出て、スパイン・キャスターとユキの間に立ちはだかった。
ユキはもはや何かを察してか、大分離れた位置で太い木の幹の後ろに隠れてこちらの様子を見守っている。
……スパイン・キャスター。高い飛翔能力は厄介だが、その分耐久力は低い。ならば!
アルは素早く、銃口のアタッチメントを連射型に切り替える。
速射性に優れ、他の追随を許さない高レートの発射サイクルにより、手数で相手を圧倒するアタッチメント…連射型。
単発の威力には劣るものの、相手が高速で動いていて攻撃が当てづらい場合や、耐久力の低い魔物が複数体一斉に襲ってきたときなど、取り回しの良い武器が必要な場合には重宝するアタッチメントである。
「KIsyasya!!」
奇妙な鳴き声を上げながら、四匹のスパイン・キャスターがそろって上空へと舞い上がる。
彼らはそこで横一列に並ぶと、腹部をぐぐっと後ろへと下げた姿勢を取った。
その黄色地に黒い縞模様の入った腹の先、人のこぶしほどはある大きさの鋭い針の先端が、陽の光を受けてギラリと剣呑な光を見せる。
彼らの主たる攻撃手段の一つ、毒針投射の予備動作である。
……くるか。
初撃を回避するべく、アルがわずかに身を屈めたその時。
「KIsya!!!」
四匹が一斉に腹部を前に突き出し、毒針を放った。
―ヒュン!、ヒュン、ヒュンヒュン!
風を切り、矢のように飛ぶそれらの狙いは―…
「ひゃぁっ!?」
やはりアルではなく、ユキだった。
太い木の幹に身体を隠したまま、頭だけをちょこんと出して様子を伺っていた彼女は、大慌てで首をひっこめた。
―ドス!ドス、ドスドス!!
飛んできた毒針はすべて、ユキが隠れている木の幹に命中。
硬い木の外皮を軽々と抉り、毒針が次々と突き刺さる。
こんなものを食らえば、華奢でひ弱な少女の身体などひとたまりもない。当たりどころが悪ければ、毒云々関係なく即死である。
ユキが青ざめている中、上空では再びスパイン・キャスター四匹が腹部を引き下げて攻撃態勢に入っていた。その腹の先には既に、新しい針が生えてきている。
―パララッ!パラララララッッ!!
そしてそこに、魔弾の嵐が襲い掛かった。
「KIkiiiiiii!?!?」
二匹のスパイン・キャスターが立て続けに穴だらけになって撃ち落され、残された二匹が驚きの声をあげる。
地上では魔導銃を構えたアルが正確に狙いを定め、続けて引き金を引こうとしていた。
「KISYhaaaaaaa!!」
と、同時に。
一際甲高い雄叫びを上げ、スパイン・キャスター二匹は急降下を開始した。
ユキが隠れている木の幹を挟みこむようにして突っ込み、相手に直接毒針を打ち込もうという腹積もりらしい。
地上からの対空砲火を避けるため、くねくね、ぐねぐね、と不規則な軌道を描きつつ標的に迫る彼らだったが、
―パラララララッ!
「KIsyaaaaaaaa!?!?」
移動しようとした先に射撃が集中し、あえなく一匹が撃ち落された。
羽と胴をボロボロにされたその個体は、空中でバランスを崩してきりもみ回転。ユキが隠れているものとはまった別の木に激突して死んだ。
見越し射撃である。
アルは敵の動きを見切り、その軌道上に攻撃魔法をバラまいたのだ。
「KISHa,KIShashaaa!!」
残された一匹はそれを見て、ユキへの攻撃を諦めて急上昇、森の奥へと退避していく。
否、退避、逃げていくのではない。
他の仲間の元へと向かい、手ごわい獲物の存在を知らせに行くのだ。
「…逃がさん」
それをよく理解しているアルは、即座にアタッチメントを収束型に切り替え、照準。
引き金を引いた。
―ヴィシュゥゥンッ!
「KIShayayaa!?」
紅いビーム状の一撃が羽の一枚を根元から撃ち抜き、スパイン・キャスターは悲鳴を上げる。
されど、墜落には至らない。
ふらふら、よたよたと力のない飛び方ながらも、スパイン・キャスターは森の向こうへと姿を消していき…
「ッ!」
アルは思い切り、舌打ちをするのであった。
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