第八話 雪解けの始まり ーOperation:Melting Snow―
つるつるとした妙な材質でできた壁と床、天井に囲まれた長い通路を進む。
さっきのように復活した古代兵器がわらわらと襲ってきたらどうしようかと思っていたが、幸いなことに再び出会うことなく先へ進むことができている。
例の声の主はといえば、アルが先へ進めば進むほど焦っている様子で、先程から古代語らしき言葉をひたすらにまくし立てていた。
『リヴァイアサン級魔導生物のDブロックへの侵入を確認。対抗措置実行、隔壁閉鎖』
急に、通路の天井から壁が降りてくる。
「邪魔だ」
だがそんな壁に向け、アルは情け容赦なく攻撃を叩き込んだ。
銃口からビーム状に成形された攻撃魔法を照射し、そのまま壁を左から右へと薙ぐ。
あわれ壁は上下真っ二つになり、下部分が音を立てて崩れ落ちた。
強固な魔導障壁で守られていなければ、古代文明の丈夫な隔壁と言えどこの通りである。
…なお、こんなことをしていることが帝国正規の調査員にバレれば当然怒られるのだが、
……壁を下ろして妨害してくるということは、この奥に進んでほしくはないということ。
……つまりは、この声の主はやはり壁を越えた先、遺跡の奥にいる。
黒幕を捕まえさえすれば、多少遺跡が追加で壊れていようとそいつの責任にできる。
そもそも、既に遺跡は先程の戦闘で派手に壊れているのだ。いまさら壁の一枚や二枚が両断されていたとて、誤差の範囲だろう…と、それが今のアルの考えであった。
大分、頭に血が上っているようである。
『対象、隔壁を突破。Eブロックへ向け侵攻中』
どこから見ているのかはしらないが、声が続けて降り注ぐ。
『現状を、規定された”やむを得ない状況”に該当すると判断。”厳冬計画”中断、”雪解け計画”へ移行。ハイバネーション、緊急解除。繰り返します、ハイバネーション緊急解除』
……いつまでもわけのわからなことをごちゃごちゃと。
『”雪解け計画”に向け所定の手順を実行中。完了後、本機:Mk.9はシャットダウンします。皆様に幸運のあらんことを!』
……この扉の向こうか?
長く続いた通路のつき当たり、閉じた扉に手を当てる。
押したり引いたりしてみるが扉はビクともせず、舌打ちを1つ。そして結局、さっきの壁と同じように魔導銃を構えて扉を両断、蹴り飛ばして突破した。
……?、なんだここは。
扉の向こうへと足を踏み入れたとたん、その光景を見てアルは首を傾げる。
そこは広く細長い部屋であり、壁の両側には卵型のケースのようなものがずらりと横向きに並んでいた。
……これは、何かの容器か?
ケースの1つに近づき、触れてみる。
……妙に冷えているな。
人間一人分は入りそうな大きさのそれは皆一様に冷たく、歪曲したガラスのようなものがはめ込まれていた。だがそのガラスは灰色に煤けており、中の様子は伺えない。
中身を確認しようと開け方を探るが、どうにも分からない。ただ、ケースにはそれぞれランプがついていて、みな赤く灯っていた。
「……ふむ」
周囲を見回し、小さく唸る。
さっきまでやかましいぐらいに降り注いでいた若い女の声が、急に聞こえなくなった。近くに潜んでいるのだろうか。
古代兵器が待ち伏せしている可能性もある以上、こちらの位置を露呈することになる探知魔法は使えない。
アルは注意深く辺りに気を配りながら、謎の人間大卵型ケースに挟まれた空間を進んでいく。
「む?」
ふと、足を止める。行く先に異変を発見したのだ。
大量に並んだケースのうち、1つだけ緑のランプが灯ったものがある。
……なんだ?
アルはそのケースに向け魔導銃を構え、引き金に指をかけてゆっくりと近づいていく。
やがてそのケースの詳細が見えるようになった時。
「な……!?」
アルは今日一番の驚き……先程、生き返った古代兵器に襲われた時以上の驚愕に見舞われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます