第二章 セルナ=イスト遺跡探索
第一話 ある新米冒険者たちの奮闘
セルナル平野。
シルフェの街の南、セルナ大森林との間に広がる草原地帯。
今は昼過ぎ。
暖かな陽光が大地に降り注ぎ、吹く風はそっと草花を撫でている。
そんな中。
「せぃや!」
――ドズゥ!
「BUPIIIIIII!?!?」
気合いの一声とともに振り下ろされるショートソード。
頭に刃がめり込み、魔物の断末魔がその場に響く。
「よっし、倒したっ!」
得意げに胸を張るは、冒険者の少女・メリア。
栗毛色の短い髪を汗に濡らしながら、どこか興奮した笑顔を見せる。
だがそんな彼女に向け、別の魔物が猛然と突進してきていた。
先程メリアに屠られた魔物と同種。四つ足で全身毛むくじゃら、口元からは小ぶりながらも鋭い牙が二本生えた獣……古の時代では『猪』と呼ばれた生物に酷似したモンスター、ウリボルである。
「BUPIIIIII!!」
「あ、やば―…!」
一体をどうにか処理して油断していたメリアは反応が遅れ、しかも剣は倒したウリボルの頭にめり込んだまま上手く抜けない。
草原の草花を踏みつぶしつつ迫るモンスター。
その体高はメリアの股下程度とそう大きくはないが、全力の突進攻撃をモロにうければ酷い骨折は免れ得ない。
姿勢を低くし、左腕に括り付けた小さな盾を
「ノービス・バレット!」
「BUPIIIII!?!?」
突進してくるウリボルの横っ面を殴り飛ばすかのように、攻撃魔法が炸裂した。
その一撃に致命の威力はないものの、小型の魔物を転倒させるには十分な効果を発揮する。
メリアへの突撃に全身全霊をかけていたウリボルは勢いよく顔面から地面に激突し、その首を不可思議な方向に折り曲げて絶命した。
「メリア、大丈夫!?」
先程の攻撃魔法を放った少年が、メリアに声をかけてくる。
少し長い水色の髪を持つ彼もまた冒険者であり、名をマイルズと言った。
その身に灰色のローブを
「大丈夫じゃない! 援護が遅い!」
「ご、ごめん……」
ウリボルの頭から苦労して剣を引き抜き、メリアは頬を膨らませてぷりぷり怒る。
剣の刃先に糸を引いて付着した魔物の体液を見て、「うわー……」と顔をしかめる彼女もまた、いかにも新米戦士といった雰囲気だ。
何を隠そう、メリアとマイルズはそろって新米冒険者。
少し前にド田舎の農村から二人で出てきて、シルフェの街のギルドで登録を済ませたばかり。
一応ギルドの研修で基礎的な
だがまともに冒険者を名乗るには、装備も練度もまだまだ未熟。
二人はそんな、よくある冒険者パーティーの1つであった。
「で、でもこれで、クエストは達成できたよね?」
「まぁどうにかね」
相手の機嫌を伺うような気弱な調子でマイルズが言って、メリアはまだ少しむすっとしながら周囲を見廻す。
「一つ、二つ、三つ、四つ……丁度四匹。ウリボルなんて大した相手じゃないと思っていたけど、結構苦戦したわね」
「仕方がないよ、あんなことになるなんて予想もしてなかったし」
疲れた様子で肩を落とすマイルズ。
「まさか向こうから平原に出てくるなんて……」
二人が今回受けたクエストは、ウリボル四匹の討伐。
最近シルフェの街近くの田畑や街道に魔物が
ウリボルはそこまで強い魔物ではない。メリアやマイルズの故郷の農村でも、畑に侵入した個体を大人の男たちが
要は、大した戦闘訓練を受けていない一般人でも、成人男性ぐらいの
故に、自分たちでも余裕で倒せると考えていた二人だったわけだが、事はそう上手くは転ばなかった。
何が起こったのかといえば、奇襲を受けたのである。
ウリボルは基本、森の中に棲む魔物だ。森に面する田畑を荒らすこともあるが、それも夕方から夜にかけてであり、日中は暗くジメジメした森から出ようとしない。
数匹で群れを作って生活していることが多く、魔物の”群れると強くなる”という特性上、先制攻撃により数を減らしてから戦闘に入ることが望ましいとされる。
もちろん、メリアとマイルズの二人もそれは知っていた。
だから、である。日中に森に入り、こちらが先にウリボルの群れを見つけて先制攻撃。
あわよくばそれで小さな群れを1つ仕留めてクエストクリア! ぐらいに考えていたのだ。
ところが、現実はそうはいかなかった。
セルナル平野を呑気に進んでいたところ、少し先に見える森から四匹のウリボルの群れが飛び出し、向こうから突っ込んできた。
戦いは森の中に入ってから、とすっかり気が緩んでいた二人は完全に面食らい、なし崩し的に戦闘に突入。
相手が弱い魔物だったから何とかなったものの、それでもそこそこ苦戦を強いられた次第だ。
……因みにセルナル平野のような草原地帯でも、危険な魔物や賊の類は出没しており、別に森に入っていないからといって油断して良い状況ではなかったのだが、そこは新人冒険者故の浅慮であった。
「でもま、別に勝てたからいいか」
しばらくぷりぷりしていたメリアであったが、やがてケロッとした様子で言う。
「さっさと解体して帰りましょ」
「う、うん」
腰に
魔物の解体は冒険者にとって必須のスキルだ。
ギルドに討伐を報告する際には証明として魔物の特定の部位が必要になるし、これがどれぐらい上手くやれるかどうかで、一匹の魔物から取れる素材の量や質が変わり、ひいては収入に関わってくる。
幸いウリボルの解体は村でも教わったことがあるので、ちょっとはできる。
まぁそれでも気持ち悪いものは気持ち悪いので、メリアなどはかなり苦々しい表情で作業しているのだが。
……因みに、倒す際にコアを破壊してしまうと、全てが白い塵になって消えてしまうため、要注意である。
「でも変だよね。こいつら、なんでわざわざ森から平原へ飛び出してきたんだろ」
屈んだ姿勢で器用に素材を剥ぎ取りながら、マイルズが尋ねる。
対するメリアは解体に四苦八苦しながら、
「分かるわけないでしょー? こいつらが何考えてるかなんて。どっか行きたいところでもあったんじゃないの?」
「行きたいところ……」
ふと、考えるマイルズ。
ウリボルたちは森からまっすぐ自分たちに向けて突っ込んできた。
もし仮に行きたいところがあったとしたら、それは自分たちの背後にあったわけで…。
なんと無しに振り返ると、マイルズの視線の先には、遠くに霞むシルフェの街があった。
「……まさかね」
降って湧いた自身の妄想をあり得ないと一蹴して、マイルズは作業へと戻っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます