第5話  ツムギ、裁く!

「いやあああ!」


 日の暮れた公園、美少女が体格の良い男に襲われていた。と、思ったら、胸を押さえて男は倒れた。暴行する直前、男の命のパイプをツムギが斬ったのだ。美少女は、泣きながら走り去って行った。


「ふーっ、危ない、危ない。1週間も執行猶予を与えたのに、全く改心しなかったわね。期待していたのに」


 ツムギは、どす黒い魂魄を片手にため息をついた。


「おい、俺をどうするつもりだよ?」

「悪いことしかしないあなたは、役所へ連れて行きます。死んだつもりになって、生まれ変わりましょう!」

「許してくくれよ。俺だって、何度も善人になろうと思ったよ。でも、外へ出たらみんなが俺を悪人として扱うんだよ。1回道を踏み外したら、もう誰も相手をしてくれないんだ! 俺は、悪人として生きるしかなかったんだよ!」

「とにかく、あなたを役所に連れて行くから」


 ツムギの心に“悪人として生きるしかなかったんだ!”という言葉が忘れられなかった。ツムギは、次の行動を起こすことにした。



 ブライ。32歳。屈強な男。好きな物は酒と煙草と女。その日も、仲間達と夜遅くまで飲んでいた。カードゲームをしている。家では、ブライに怯えた妻子が辛気くさい顔をしながら待っている。その日はブライの大勝ち。意気揚々と帰宅した。


 家では、妻のリューズが待っていた。細身で華奢。身長は平均より高い。長い髪を後ろで1つにまとめていた。4歳児のサンはもう眠っている。普段なら、帰って来るなりリューズに殴る、蹴るなどの暴行を加えるのだが、カードゲームで勝ったブライは機嫌が良い。シャワーを浴びて、スグに眠ってしまった。


「ブライ……ブライ……」

「なんだ……なんだよ……」

「私は死神だ!」

「死神?」

「そうだ。このままでは、近い内にお前をころさなければいけない。お前は誰からも愛されていない。必要とされていない。死んでも問題は無い」

「待ってくれよ、死にたくねぇよ!」

「では、今日から変われ」

「どう変わったらいいんだよ?」

「自警団を作れ」

「自警団?」

「この街は治安が悪い。命懸けの仕事だが、お前とお前の仲閒ならできるだろう」

「でも、スポンサーは?」

「心配するな、なんとかする」

「わかった。自警団を作れば死ななくてすむんだな?」

「ああ。それから、もっと妻子を愛するように」

「……」



「ボヤン……ボヤン……」

「なんだ? 誰だ?」

「私は死神」

「なんだと! 死神-!?」

「このままでは、お前を裁かなければいけない。地獄へ行きたいか?」

「行きたくないぞー!」

「では、徳を積め」

「する、何でもする、何をしたらいい?」

「この街に自警団が出来る。資金面のバックアップをしてくれればいい」

「金か……金は無い!」

「では、今ここで殺してやろうか?」

「嘘です、汚く金を稼いでいます。自警団のスポンサーにもなります!」

「それでいい。いいか、私達がお前の首を狙っていることを忘れるな。そして、もっと愛される人間になれ」

「はい、わかりました……」



 1週間後には、自警団が出来上がっていた。ブライ達は変わった。他人から慕われるようになり、家族からも愛される自警団のリーダーになった。そして、この自警団が連日大活躍をするので、スポンサーのボヤンの人気も高まっていった。



 ツムギは喜んだ。また、何人か間引かずにすんだと。だが、ツムギは落とし穴に入ろうとしていることに、まだ気付いていなかった。







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