第6話  ツムギ、殺さず!

 ツムギは、執行猶予を与えることにした。


「ブトウ……ブトウ……」

「なんだよ、俺は今眠いんだよ」

「ブトウ……起きろ……ブトウ……起きろ」

「なんだよ、何の用だよ」

「私は死神だ。お前を殺しに来た」

「何! し、死神-!」

「そうだ、お前は誰からも愛されていない、必要とされていない」

「だからって殺すのかよ」

「1週間、猶予を与える。真面目に働け。自警団に参加しろ、そして家族を愛するように」


「ふー! これで上手く行くかなぁ」


 次の日、落ち込んだブトウが帰るなり寝込んだ。


「ブライ……起きろ……」

「ああ、死神さんか」

「ああ、死神だ! どうした? 何をしている?」

「どこも俺を雇ってくれないんだ」

「ボヤンの所へ行け。きっと雇って貰える」

「わかった、明日、一応行ってくるよ」


「ボヤン……ボヤン……」

「なんだ? またか?」

「また、お前の所に仕事を求めて悪人が来る」

「またか」

「雇ってやれ、きっと真面目に働く。ブライのようなものだ」

「はいはい、わかったわかった、おやすみおやすみ」



 こうして、ツムギは間引くべき人間を減らしていったのだ。ツムギは、出来るだけ殺したくなかったのだ。



 そして、その日もツムギは悪人の枕元に立った。


「ゴクアク……ゴクアク……」

「なんだ? 誰だ?」

「私は死神」

「なんだと! 俺を殺すのか?」

「1週間の猶予をやろう。1週間で人から愛され人から求められるように変わるのだ。いいか、わかったな、真面目に働き、自警団に入り、家庭を持つのだ。暖かい家庭を。1週間で状況が良くなっていたら今回は殺さない」

「わかった」


 ゴクアクは朝目覚めると着替えて剣を手にした。斧も懐に入れる。


「どうせ1週間で死ぬなら、1人でも多く道連れにしてやるぜ!」


ツムギは、外へ出ようとするゴクアクの命のパイプを慌てて斬った。



 その夜。


「ゼンアク、ゼンアク……」

「なんだ? なんだお前は? その姿、死神か?」

「そうだ、このままだとお前を殺さないといけない」

「なんだと?」

「日頃の行いを良くすれば、殺さずにすむのだが……」

「殺してくれ、今スグ殺してくれ! 俺は早く死にたかったんだ」

「え……」

「女房と子供に逃げられてから、俺はずっと死にたかった。さあ、殺してくれ」

「生きるための努力はしないのか?」

「ああ、しない。さあ、俺を殺してくれ」


 一呼吸おいて、ツムギはゼンアクの命のパイプを斬った。



「あなた、何をやっているのよ!」


 その時、声をかけられた。振り返ると、仁王立ちのアリエスがいた。


「アリエス様? どうしてここに? ここはあなたの管轄ではないはずです」

「あなた、噂になっているのよ。悪人を改心させて、殺さなくてすむようにしているって」

「それは、そうですが……いけませんか?」

「いけないことよ! おかげで、あなたが魂魄をなかなか持ってこなくなったじゃない。要するに、仕事が遅くなってるの。この街は大きい街なのよ。片っ端からパパッと間引いていかないと、業務に遅れが生じるのは当然でしょう」

「私の仕事が遅くなっているということですか?」

「そうよ、役所も困っているのよ。このままだと、あなたは死神の権利を剥奪されるわよ」

「それは困りますね」

「ゴクアクの時は、大事件になりかけたでしょう? それも知っているのよ。いるのよ、自分が死ぬなら他人を道連れにしたがる奴が。だから、もうつまらないことはやめなさい。先輩として注意しに来たの」

「私は、私のやり方を変えません」

「そう、じゃあ、考えを変えてあげるわ。体罰で教えるから、かなり痛いわよ!」



 ツムギは何か言おうとしたが、アリエスの鎌の方が早かった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る