第4話  ツムギ、殺さない!

 ツムギは、人気ゲージが空っぽで、命のパイプの細い男のパイプを斬った。そして、その魂魄を役所に持って行く。


「はい、シンヤさんの魂魄ですね。お疲れ様でした。引き続き、業務の遂行をお願いします」


 役所の担当のお姉さんが笑顔で処理してくれる。


「あの、大丈夫だったんですよね?」

「と、おっしゃいますと?」

「間引いてもいい魂に間違いないですよね?」

「間違いありませんが」

「あ、いえ、それならいいです。じゃあ、またいってきます」


 ツムギは役所を後にした。ツムギは、“間引いてはいけない魂を間引くこと”を怖れていたのだ。間引いてはいけない魂を間引いてしまったら大変だ。だが、初めて1人で間引いてみて、ちょっとだけ自信が湧いてきた。


 ツムギは間引きまくった。人気ゲージが空で命のパイプの細い者、街には結構そんな人間がいた。


 だが、“本当にこれでよいのだろうか?”という疑問を持つようになった。ツムギは、出来ることなら殺したくないのだ。ツムギは、以前から試したかったことを試すことにした。


 ジョージという荒くれ者がいた。昼間から酒場で酔いつぶれ、帰ると妻や子供に暴力を振るっていた。当然、街では嫌われ、家の中では妻子に憎まれるようになる。


 或る日、ツムギはジョージの夢枕に立った。


「ジョージ……」

「うむ……」

「ジョージ……」

「なんだよ……」

「ジョージ……」

「って、なんだ、お前は?」

「私は死神だ!」

「死神?」

「そうだ、このままでは私はお前を殺さなければならない」

「なんだと! なんでだよ?」

「お前は誰からも愛されていない、間引かれても、誰も悲しまない」

「だから、なんだって言うんだよ!」

「お前は、死にたいのか?」

「死にたくねぇ、俺はまだ死にたくねぇよ!」

「では、改心しなさい。真面目に働いて家族を愛しなさい。そして、家族やいろんな人から愛されるようになりなさい」

「そうしたら、俺は死ななくてすむのか?」

「そうだ、まずは1週間、お前の様子を見る。頑張れよ……」



 ジョージは、家のベッドから起き上がった。


「どうしたの? あなた」

「働く。俺は働くぞ!」



 ツムギは、街のビール工場の社長の夢枕に立った。


「社長……」

「ん? がぁ……」

「社長……社長……」

「なんだ? お、お前は誰だ?」

「私は死神だ」

「死神!?」

「大丈夫だ、お前を殺しに来たわけじゃない。ジャージを知っているか?」

「ああ、あのどうしようもない飲んだくれか」

「明日、現れるだろう。雇ってやれ」

「なんで、ウチがあんなろくでなしを?」

「ろくでなしにチャンスを与えてやれ。そうすれば、1つ徳を積むことになる」

「だがなぁ……」

「では、今、お前を間引いてやろうか?」

「なんでだよ、わかった、雇う、雇うから殺さないでくれ」

「では、奴を頼む……」


 ジョージは朝から就職活動をした。だが、普段の行いが悪いため採用して貰えない。1人公園で黄昏れていると、白髪の初老の男から声をかけられた。


「ジョージ、ウチで働く気はあるかね?」

「雇って貰えるんですか!?」

「ああ、やる気があるなら雇ってもいい。どうする?」

「よろしくお願いします!」



 ジョージは働き者になり、酒が減り、家族に暴力を振るうことも無くなった。ジョージは家族から愛されるようになり、職場でも必要とされるようになった。いつの間にか、ジョージの人気ゲージは満タンになっていた。ツムギは、事態が自分の思うように運び喜んだ。1人、間引かずにすむようになったのだ。ツムギは、“これからもこのやり方で間引く人数を減らそう”と思った。







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