第2話  ツムギ、死神になる!

「え! 眼鏡ですか? 私の眼鏡だと思いますけど」

「ちょっと、外してもらってもいいですか?」

「はい……あれ? 外れない」

「ちょっと触ってもいいですか?」

「はい、お願いします……痛い、痛い、痛い!」

「あ、すみません。肌にくっついていますね」

「どういうことでしょう?」

「すみません、少しお待ちください」


 窓口のお姉さんが奥へ引っ込んだ。しばらく待って、ようやく帰って来た。


「すみません、別室へどうぞ」

「はい」


 別室と言われて、ツムギは緊張した。不安で仕方がない。


「ここは所長室です。中へどうぞ」

「失礼します」


 部屋に入って、ツムギは落雷を受けたような衝撃に震えた。そこには、長身の黒衣の死神がいたのだが、イケメン過ぎて、ツムギには白馬の王子様に見えたのだ。金縛りに遭ったように、ツムギは動けなくなった。


「ツムギさん、眼鏡を見せてください」


 イケメンに気を取られて、イケメンの横に立つ小柄で小太りの禿げオヤジが目に入っていなかった。


「あなたは?」

「私はここの所長です。ちょっと、眼鏡を」

「はい」

「ああ……これは外れないな」

「何故なんでしょう?」


 そこで、コンコンコン、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼します」


 入って来たのは、ガラスの階段の踊り場でぶつかった少女だった。元気が無い。


「アリエス、君が紛失した眼鏡は、どうやらツムギさんがかけているようだよ」

「階段でぶつかった時に、間違ったのだと思います」

「君、死神の眼鏡がどれだけ貴重な物かわかっているよね?」

「はい、承知しております」

「今回は、君のミスだと思うんだが、君はどう思う?」

「はい……私の責任です」

「では、君に罰を与えなければいけない。君はC級に降格だ」

「そんな、やっとA級になれたのに。せめてB級にしてもらえませんか?」

「ダメだ。このミスは重大なミスだ。大丈夫だ、君ならスグにまたA級に戻れる」

「わかりました」

「では、受付で新しい眼鏡を貰って任務に戻りなさい」

「わかりました、失礼します」


 アリエスと呼ばれた少女は、ツムギとすれ違う時に確かに言った。


「あんたのせいよ」


アリエスは退室した。ツムギとイケメンと禿げオヤジが部屋に残った。


「普通、死神の眼鏡は死神以外を拒絶するのだが……ゼロ、どう思う?」


 イケメンはゼロというらしい。そのゼロが答えた。


「ツムギ、指先を少し切ってもいいか?」

「はい、少しだけなら」


イケメンは、ツムギの手を握って中指の先にナイフで少しだけ傷をつけた。一滴、出て来た血を指で触って目を瞑るゼロ。そして、ゼロは目を開けた。


「所長、わかったぞ。ツムギの遺伝子に死神の遺伝子が混ざっている」

「人間に死神の遺伝子だと? ああ、もしかすると」

「ああ、多分、ドクターだ。だが、こんなのは奇跡だ。本来、ありえない」

「では、眼鏡が外れないのは?」

「ドクターの遺伝子が眼鏡を手放そうとしないのだろう」

「そうか……ドクターの子孫か」

「だが、奇跡のように見えて、これは運命なのかもしれない」

「どういうことだ?」

「眼鏡を外す方法がわかるまで、ツムギに死神をやってもらおう」

「おいおい、それは流石に不味いんじゃないか?」

「大丈夫だ。ドクターの子孫だからな。アリエスが降格した分、忙しくなるしな。まあ、C級の任務なら遂行できるだろう」

「ツムギさん、あなたは死神をやってくれるかね? 眼鏡の外し方がわかるまででもいいのだが……」


 ツムギは単純だった。死神をやれば、またゼロに会えるかもしれない。だが、このまま天国に行ってしまったらゼロにはもう会えない。そんなの、ゼロにまた会える方を選ぶに決まっている。


「私でよければ、やらせていただきます!」

「そうか、よく言ってくれた」

「では、早速仕事を教える。まずは装備一式を渡そう」


 所長はどこから取り出したのか、フード付きの黒いマントと大鎌をツムギに渡した。ツムギはマントを羽織り、大鎌を手にした。大鎌を手にした時、ツムギはデジャブを感じた。以前にもこの大鎌を振るっていたような気がする。これが、自分の遺伝子の記憶なのだろうか? ツムギは不思議と緊張が解けた。


「では、仕事を教えよう。ついて来い」

「はい!」



 どうやらゼロが教えてくれるらしい。ツムギは喜びを隠すのに必死だった。流石に、恋心を所長やゼロに見抜かれるのは恥ずかしかったのだ。







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