殺す死神、殺さないJK死神!
崔 梨遙(再)
第1話 ツムギ、役所へ行く!
その日は、突然やって来た。高校生のツムギは、登校時の交差点で車にひかれそうになった少年を助けた。結果、ツムギは死んだ。
「ここ、どこ?」
ガラス張りの床。広い床。この床はどこまで続くのだろう? ガラス張りの大きな建物が見える。“あの建物に行けばいいのかな?”とも思ったが、ツムギはもうしばらくその場で様子を見ることにした。
ゆっくり歩いてくる人影を見つけた。真っ直ぐこちらに歩いてくる。やがて、その男はツムギの側まで近寄った。黒いフード付きのマント、大きな鎌、絵に描いたような死神の姿だった。
「あなたは死神ですか?」
「あ、わかっちゃった? まあ、隠すつもりもないけどね」
「私、死んだんですね?」
「うん、死んだ」
「あの子は? 私が助けようとしたあの男の子は?」
「無事だよ。無傷だよ。よくやったね」
「無事なんですね、よかったぁ」
「君には、これから役所で手続きをしてもらわないといけない」
「役所って、どこですか?」
「あの大きなガラス張りの建物だよ」
「1人で行くんですか?」
「うん、付いていってあげたいんだけど、今、忙しくて。はい、書類」
「書類?」
「役所に行ったら、番号札を貰うんだ。番号を呼ばれたら、その書類を提出してね」
「あの! 私は天国行きですか? 地獄行きですか?」
「人助けをして死んだんだから、勿論、天国だよ。安心してね」
「良かったぁ」
「じゃあ、僕は仕事に戻るから」
死神は宙を舞うように飛び去った。ツムギは、役所へ向かった。
役所の入口のガラスの階段で、金髪の少女がツムギとぶつかった。2人とも、踊り場で派手に転んだ。金髪少女は、落ちた眼鏡を拾うとツムギを罵った。
「あんた、どこ見て歩いてるのよ!」
「す、すみません」
金髪少女も黒いフード付きのマントに大きな鎌。こんな美少女も死神なのだろうか? ツムギも自分の眼鏡を拾って、とにかく謝った。不機嫌そうな顔をしながら、彼女は忙しそうに走り去って行った。
ツムギは、役所で番号「札をもらった。3727番だった。まだ、当分呼ばれないだろう。椅子に座って、そこで初めて両親のことを思った。“お母さん、お父さん、親孝行できませんでした、ごめんなさい!”。だが、よく考えたら親不孝もしていない。“まあ、いいか”と思うようになった。
「待ち時間が退屈なので、話し相手になってもらえませんか?」
突然、隣の椅子の老紳士から声をかけられた。
「はい、構いませんけど」
「いやぁ、あなたはお若いから、急死だったのですか?」
「はい、突然の事故で」
「私は、運命の日記を読んでいましたので、最後の項目をやり遂げた時に死を覚悟していました。覚悟するだけの時間がありました。でも、お嬢さんには死を覚悟するだけの時間は無かったでしょう? かわいそうに」
「運命の日記って、何ですか?」
「いやぁ、本当の日記のように毎日の運命が書かれているわけではないんですよ」
「はあ」
「人生の中で大きなことだけ箇条書きで書いてあるんです」
「へー! そんなものがあるんですか」
「あります。表紙の色で、自分がどこから来てどんなことをするのか? 或る程度推測も出来ますよ」
「えー! 私も自分の日記を見てみたかったです」
「書いてあった内容まではわかりませんが、あなたの表紙の色はワインレッドです」
「それって、どういう意味を持つんですか?」
「それは、あなたが天国に行けばわかりますよ」
「そういうものなんですか?」
「そうです。でもね、運命の日記も完璧じゃないんです。途中で修正が入ることが多々あるんですよ。おもしろいでしょう?」
「どうして、そんなことが起きるんですか?」
「運命は、運ばれてくることがあるからです。宿命は宿っているものなので変えれません。運命と宿命の違い、おもしろいでしょう?」
「はい、おもしろいです」
「そして、最後は死神さんのお世話になるわけです」
「なるほど」
「死神さんの力も、僕等の寿命に関係しているんですよ」
「そうなんですか?」
「あ、番号を呼ばれました。いってきます。お話が出来て楽しかったです」
「あ、貴重なお話をありがとうございました」
やがて、ツムギの番号が呼ばれた。ツムギは書類を提出する。だが、窓口のお姉さんは、ツムギの顔をずっと見つめていた。そして、お姉さんが言った。
「その眼鏡、本当にあなたの眼鏡ですか?」
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