第7話 偽らない真の姿 変身、ミルキィブレイド

その時、包帯の中から目を覆うほどの眩い光が溢れだした。

シルクハットはその強烈な光に反応し大きく百合から距離を取った。

百合を包んでいる包帯が一気にはじけ飛ぶ。

そして光の中から新たな衣装に身を包んだ百合が現れた。


純白の着物、深い群青色の袴、白銀の美しい髪、そして専用武器の日本刀、まるで女剣士のような可憐な姿に変身した。


「百合!なれたんだね、本当の自分に!」


クロは横たわりながら百合が無事変身できたことに喜んでいた。

百合本人はというと新しい姿に驚きを隠しきれない様子だった。


(これが…わたし?)


改めて自分の姿を見ている。

見栄を張らなくてもいい。強がらなくてもいい。街を守りたい!その一心で変身した偽らない本当の姿。

百合は喜びを抑えきれず、両手を胸の前でグっと握りしめ、顔は満面の笑顔になっていた。


しかしここは戦場だ。

深呼吸をして高まる気持ちを抑え、体をシルクハットの方に向けた。

シルクハットはというと百合の新しい姿を見るや否やプルプルと打ち震えていた。


(あれが百合さんの真の姿!?ふふふ…今日もちょっかいを出して頃合いを見てトンズラするつもりでしたが…面白くなってきましたねぇ!)


「やっと変身できましたね!百合さん!いや、ミルキィフリルと呼んだほうがよろしいかな!」

「わたしは…ミルキィブレイド!勝負です、シルクハット!」

「ミルキィブレイド!?いいでしょう!かかってきなさい!全力でお相手いたしましょう!」

「いきます!」


百合は右手を刀の柄に手をかけるや否や、シルクハットとの距離を一瞬で縮めた。

そして目にも止まらぬ斬撃を浴びせた。


(!?…早い!くっ!)


シルクハットも百合の斬撃に反応し手の平から剣を生成して受け止める。

「ぐぅ!重い!」

しかし受けきれず、百合から大きく距離を取った。

よく見るとシルクハットの帽子が少し欠けていた。


(!?斬られている?あの一瞬で!?ふふふ…そうですかそうですか…遊んでいる場合ではないようですね!)

シルクハットは両手を大きく上げた。


「では…これはどうですか!」

シルクハットが手を大きく振り下ろし斬撃破を放った。凶刃が百合を襲う!

しかし百合は一歩も避けず刀を納めてしまう。


「ミルキィ!危ない!」


クロが叫び、転移魔法陣を展開しようとしたが間に合わない!

百合は静かに刀の柄に手をかけた。


ガキィン!


金属音とともに斬撃破は消えた。

百合の体勢はさっきと全く変わってないように見える。

クロは何が起きているかわからなかった。


「ははは!斬撃で打ち消したのですね!私の技を!」


シルクハットは手を何度も振りかざし、無数の斬撃波を百合に浴びせた。

百合はそれに真っ向から突っ込み、目にも見えない太刀筋で斬撃波を相殺していく。

そして一瞬の間にシルクハットの懐に飛び込んだ!


「なっ!」


シルクハットが大きく百合から距離を取る。

マントが百合の刃で引き裂かれていた。

百合はまた刀を納めた。


「くくくく…これもダメですか!ではこれならどうですか!はぁ!」


シルクハットは手を合わせた。

すると百合の周りに無数の黒い空間の歪みが生じ、百合に向かって襲い掛かってきた。

しかしそれも百合の斬撃で一瞬で真っ二つにされ、無効化された。


クロは二人の目にも止まらぬ戦いを見てただただ困惑していた。

シルクハットはあんなにも強かったのか?他の怪人…いや百合が過去に倒した幹部クラスの比にもならない。

それに対抗している百合。今まで以上の力を発揮している。これが新しい変身アイテムによる力なのか?それとも百合本来の潜在能力によるものなのか?


しかし転移魔法を展開するよりも早くシルクハットの攻撃がくる。

これは百合が危険な状況になっても自分は何もできないことを意味していた。


(くっ…あの攻撃の隙を見て魔法陣は展開できない。今の僕じゃどうすることも…頑張れ!百合!)

クロはただただ遠目に百合を応援することしかできなかった。


シルクハットはというと百合に斬られたマントを手でつまんだかと思ったら、仮面を手で覆い隠しクスクスと不気味に笑っていた。


(くくくく…はははは!すごい!すごい力ですね!機動力と斬撃速度が尋常じゃない!空間魔法さえ切り刻んでしまうのですか!あの刀を納める動作が能力を高めているのでしょうか!?はははは!高まる!昂ぶりますねぇ!)


興奮し変態的な笑みを浮かべているシルクハットとは対照的に百合は自分でも不思議に思うほど落ち着いていた。

自分の周りの風の流れ、シルクハットから放たれる殺気、魔力、そして自分の魔法力…その全てを五感で感じることができた。


(ふぅ、私は今まで力任せに剣を振ってたみたいです。きっと見栄を張って強く見せるだった…かもしれませんね。でも今ならわかります。気持ちを穏やかに…魔法力を必要な時に必要な場所に注いで…うん…このイメージです)


「次で…決めます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る