第5話 守りたいもの 百合の決意

決戦時前日。

会社帰り、百合は商店街をとぼとぼと歩いていた。

シルクハットが来てからも百合は怪人との戦闘を避けていた。

やはり怖くて戦う勇気が出ないのだ。


(明日だというのに私は…本当に情けないです)


百合がうつむきながら歩いていると子供の声が聞こえてきた。


「ひっさつ!ミルキィカッタぁ!」

「ふふふ!あまいぞミルキィフリル!そんなへなちょこなわざでオレさまをたおせるか!」


どうやら兄妹で魔法少女ごっこをやっているようだ。


(お兄ちゃんが怪人役をやってるんですね。微笑ましいです。そして妹さんは…私ですか…)


「シンひっさつわざよ!ミルキィブレイドぉ!!」

「ぐはぁ!やられたぁ!」


妹に斬られたらしく兄は膝から崩れ落ちた。どうやら倒されたらしい。そんな様子を見て百合は自然と笑顔になっていた。


(ふふふ♪あんな技出したことないんですけどね♪)


魔法少女ごっこは終わったらしく兄妹は百合の方にかけてきた。

走るのに夢中になっていて妹が百合にぶつかってしまった。


「いた!あっ!ごめんなさいおねえさん…」

「ううん。大丈夫ですよ」

「ごめんなさい」


兄弟そろって百合に頭を下げた。

百合は腰を下ろして妹に目線を合わせた。


「魔法少女のこと好きなんですか?」

「うん!なかでもミルキィがいっちば~んスキ!」


百合は胸がキュッとなった。

そのミルキィは自分で、しかも今は怯えて戦うことさえできないことに。

おそるおそる理由を聞いてみた。


「へ、へぇ…どんなところが好きなんですか?」

「つよくてムテキでかっこいいところ!あたしたちのマチのヘイワをまもってるヒーローなんだよ!」

「…うん、そうですね。ミルキィは強い…ですもんね」


女の子のキラキラした眼差しが百合の心に刺さる。


「もう暗くなっちゃいます…そろそろお家に帰りましょう」

「うん!わかった!バイバイおねえちゃん!」

「バイバ~イ、気をつけて帰るんですよ~」


子供たちはそろって百合に大きくて手を振り家に帰っていく。

そんな子供たちに百合も小さく手を振った。


「いらっしゃいませ~」

「安いよ~さぁ買った買った!」

「今日はどれにするんだい?」

「はいこれお釣りです。またいらしてくださいね~」


活気ある商店街。

みんなの笑顔。

百合が守っている大切な日常。

そんなみんなの平和が今まさに脅かされている。


(なに迷ってたんでしょうか私ったら…こんなに綺麗なものがここにあるのに)


百合はうつむいていた顔を上げ、拳をキュっと握り締めた。

百合の決意は決まった!

「この街を…この日常を…壊させなんてしない!私が守ります!絶対に!」


思わず大きな声を出してしまったことに気づき周りを見回す。

買い物帰りのおばさんが不思議そうに百合を見ている。どうやら見られてしまったようだ。

百合は顔が真っ赤にし、お辞儀をしながらそそくさと家に帰っていった。

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