第4話 折れた心 女戦闘員服強制着用
一方百合はというと、本当は引きこもりたいほど心が傷ついていたが、会社には毎日通勤していた。
半ば私的な活動である魔法少女のことで会社を休むほどの度胸もないからだ。会社などは組織が用意した百合の代役アンドロイドにでもいかせればいいものの…
あれ以来怪人との戦闘は避けていて一度も戦闘はしていなかった。
しかし家に帰ると罪悪感からいつも布団の中で丸くなっていた。
そんな百合のもとにクロは毎晩のように通っていた。
「百合すまない…僕があんな変身アイテムなんか持ってきたから君をあんな目に遭わせてしまって」
「クロさんのせいじゃないです。私がずっと頼んでたことですし。私の…心が弱いから。そしてごめんなさい。魔法少女の活動を休んでしまって」
「それは君が心配する問題じゃないよ!今まで僕たちは君に頼り過ぎてずっと無理をさせてたんだ。本当にゴメン」
「クロさん…」
「じゃあ今日はもう行くね。なにかできることがあったら何でも言って」
「はい…いつも話を聞いてもらってありがとうございます」
クロはスッと消えていった。
クロはとぼとぼと夜道を歩く。
今回のことでかなり責任を感じていた。
百合とはかれこれ10年以上の付き合いだ。
最初はおっとりした見た目のわりにかなり運動能力が高く、魔法少女として適性が高いから気楽な気持ちでスカウトしたのがきっかけだった。
変身すると気が強い女性になるのは百合が日ごろから色々ため込んでいてそれを解放しているからだと勝手に思っていた。実際は真逆だったのだ。
彼女について自分は何もわかっていないことがショックだった。
(今の彼女に戦えなんて頼めない。どうすれば百合は立ち直れるだろう…どうすれば…)
クロが去った百合の部屋。
百合はベットに入りながら今後のことを考えていた。
今のようにうじうじと自分の殻に閉じこもって問題を引き延ばしにするのか。もう一度魔法少女として戦うか。それとも魔法少女を辞めてしまうか。
(ずっとこのままじゃダメですよね。早く決めないとみんなに迷惑がかかっちゃいます。でも…またあんなことになったら…こわい…こわいよぉ)
この前の変身失敗がトラウマになっていた。
以前から使っていた変身ステッキで変身はできるが、あれは百合が自分の本心を隠すために演じていた偽りの姿。そんな状態で今まで通り戦える自信はなかった。
百合は布団の中でぶるぶる震えながら涙を流していた。
ズズッ…
そんな百合の部屋に空間の歪みが…なんとシルクハットが現れたのだ!
「こんばんは百合さん。調子はいかがですか?」
その声に百合は反射的に変身アイマスクを手に取り、ベットから飛び降り身構えた。
「シルクハット…!どうしてここに!」
百合の部屋には怪人などが入れないための結界が張られている。それをいともたやすく破っているシルクハットに百合は困惑していた。
百合の腫れた目を見てシルクハットはニヤリと笑った。
「あれ以来一度も戦っていないみたいですね?なぜですか?」
「あ、あなたには関係ありません」
「戦っていない。いえ、"戦えない"と言った方が正しいですかね?」
「…」
百合はシルクハットの核心を突いた一言に動揺した。
シルクハットはその隙を見逃すはずがなく、百合の手から変身アイマスクを奪った。
「え!?か、返してください!」
百合が飛びつくとシルクハットはそれをひらりと躱し、百合をマントでぐるぐる巻きにした。
「むぐぅ!はなして…ください!」
「はい、お望み通り」
百合はマントから解放された。するとあの忌々しい恥辱的な戦闘員服を着せられてしまっていたのだ。
百合は何が起こっているか理解できなかった。
「え!?どうして…わたし変身して…」
「ふふふ♪あなたのために私が繕いました。どうですか?着心地は?」
「なんて悪趣味な…脱がしてください!」
シルクハットは百合の足元に変身アイマスクをポイっと投げた。
百合はというと戦闘員服を手で引っ張ったりして脱ごうとしている。しかし着ぐるみのようになっていて背中のジッパーを開けないと脱げなくなっているようだ。
混乱している百合を見てシルクハットはまた悪趣味な顔で笑い、なにかつらつらと喋り始めた。
「今日私が来たのはね。百合さんに知らせておくことがあるからです」
「私に!?何をですか!」
「一週間後にでもしておきますか…商店街、早朝でいいですかね?私はそこの人々を皆殺しに行きます」
「え…!?」
百合は血の気が引いた。マスクの中は顔が真っ青になっていただろう。
街の人たちを殺す?その衝撃の言葉に動けなくなってしまい体はブルブルと震え出した。
「あなたがそこに来てくれれば彼らの命は見逃してあげましょう。ただし百合さん、あなた一人でね♪」
「私…ひとりで」
「はいそうです。そして私と戦ってください」
「…」
「まあ猫さんくらいは連れてきてもいいですけど、他の魔法少女まで連れて来たなら…わかりますよね?」
シルクハットはまたニヤリと不敵な笑顔をうかべる。
百合に選ばせるようだ。
組織に伝えて全力で阻止するか、それともまともに変身さえできない自分が行くか…百合にとって答えは一つしかなかった。
「…私がいきます」
「本当ですか!?変身もできないのに?」
「はい…」
「今も恐怖でそんなに震えてるあなたが?」
「はい…あなたを止めます!」
「ふふふ♪いい返事ですね。ではお待ちしていますよ?百合さん♪」
百合の言葉に満足したのかシルクハットはズズッと闇に消えていった
シルクハットが消えると百合はその場にへたり込んでしまった。
(どうしよう…今の私がシルクハットと一対一で?そんなの…無理に決まってます…でも…)
シルクハットと入れ違いでクロがスッと百合の前に現れた。
「百合!大丈夫か!今怪人の気配が…え?戦闘員!?貴様!百合をどこへやった!」
クロは戦闘員姿の百合に飛び掛かった。
百合はあわててクロの攻撃をかわした
「違います!わたしですよ!?百合です!おねがいです、これを脱がせてください」
「百合なのか!?なんでまたその姿に?」
クロはなにがどうなってるか理解できていない。
百合は今までの経緯を話した。
シルクハットが現れたこと。
悪戯で戦闘員の着ぐるみを着せられてしまったこと。
そしてシルクハットが街のみんなを狙っていて、百合はそれを阻止するためにタイマン勝負をすることになってしまったこと。
「そんなの無茶だ!僕が本部に連絡して今すぐにでもシルクハットを倒すべきだよ!」
「でも彼は転移魔法を使えます。こちらが人員を用意してもみんなを守り切れません。もし約束を破ったら…」
「それは!確かにそうだけど…危険すぎるよ!今の君は…」
百合を心配そうに見る。
クロはすこしうつむいた後、意を決したように口を開いた。
「わかった…百合の言う通りにしよう。でも君が変身できなかったり危険になったら僕の転移魔法で逃げるよ。それが条件だ」
「わかりました!ありがとうございますクロさん」
「でも百合、いや…なんでもない」
クロは敵の言葉でもなんでも信じてしまう百合のことを心配した。いつか敵の罠に嵌められたり、新手の詐欺にでも引っかかってしまうのではないかと…
だがそんな百合の昔からずっと変わらず純粋な一面も好きだった。
「とりあえずその戦闘員服を脱がせるよ。さっきから気が散ってしょうがないよ」
「は、はい…お願いします。自分じゃ脱げなくって」
クロは百合の周りをくるくる回り、背中のチャックを見つけると爪をひっかけてチャックを開けた。
マスクが取れると戦闘員服は煙になって消えてしまった。
小一時間着ぐるみのような戦闘員服を着せられていた百合は全身汗まみれになっていた。
「汗びっしょりだね」
「うぅぅ…言わないでください…」
「クンクン…百合の匂いがする」
「クロさん!匂い嗅がないでください!」
「ごめんごめん、つい癖で」
汗の匂いが部屋中に充満してしまい百合は顔を真っ赤にしていた。
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