第3話 シルクハットの歪んだ独占欲
一方、敵のアジトに帰ったシルクハットは気分がいいらしく、鼻歌交じりに通路をふわふわと漂っていた。
そして敵の女幹部、薔薇の鬼婦人オーガローズとすれ違った。
「これはこれはローズさん。今日もお綺麗ですね」
「ふん気色悪い。ずいぶん機嫌がいいな?今日は人間の一人や二人始末したんだろうな?」
「いえいえ、私のような雑魚怪人が人に手をかけられるわけないじゃないですか?」
「ではどこで何をしていた?」
「それは言えません♪」
シルクハットのふざけた態度にオーガローズはあからさまに嫌悪感を抱き怒りを露わにしていた。
「くっ…なぜ貴様はいつもそうなんだ!少しは手柄を挙げてみせろ!役立たずが!」
「ローズさん?あまり怒るとお美しい顔が台無しですよ?」
「貴様ぁ!」
オーガローズは思わずシルクハットに殴りかかった。しかしシルクハットは瞬時にズズっと闇に消えてしまった。
(いったい何を考えているんだあいつは!確かに魔力は我々の中でもずば抜けてはいるが、ろくに戦果も上げないで!それになぜあんな奴が私と同じ幹部級なんだ!皇帝様も皇帝様だ!なぜ奴に対して部下もつけず命令も出さない!いったい何を考えているんだ!)
オーガローズはシルクハットの怠慢さと彼に対する評価が何故か高い皇帝に不満を募らせていた。
そのシルクハットはというと敵組織の長、皇帝に何かを報告していた。
「今回得られた情報はこれぐらいですね。皇帝様」
「ふむ、なかなか有益な情報だな。他には何かあるか?」
「そうですね…とくにはありませんよ」
シルクハットはまたニヤニヤと笑っている。
皇帝はその顔にいつも疑念を抱きつつも任務以上の仕事を毎回こなしてくるので特に口出しはしなかった。
「では引き続き任務にあたってくれ」
「はい、仰せのままに…」
シルクハットはまたズズっと闇に消えていった。
シルクハット…彼の主な任務は敵組織、つまり魔法少女達の組織の潜入や情報収集だ。
百合が守っている街の他の魔法少女が怪人にいつも苦戦を強いられているのは、魔法少女が成長する速度以上に彼女たちの情報を彼が組織内に漏らしているからだ。
シルクハットの任務内容は皇帝と一部幹部しか知らない。だから彼は戦闘をせずとも高い地位に就いているのだ。
実際彼も組織が掲げる世界征服や魔法少女の殲滅にあまり興味がない。ただただ得意な潜入、情報収集でそれなりの地位を得られているので利害の一致から今の任務を全うしている。
しかし彼にも興味を惹かれるものがあった。それは魔法少女についてだ。ただの一般女性が変身アイテムによって強力な力を得られる術について彼の知的好奇心は抑えられなかった。
その中でも特に興味を惹かれた魔法少女、それがミルキィフリル、百合なのだ。
長年活躍していて戦闘力も他の魔法少女と比べものにならない。何人もの怪人、幹部までもが彼女に倒されている。
百合は組織内でもかなり危険視されている人物なのだ。
そんな彼女の力の源はなんなのか?戦う理由は?長年観察と情報を蓄えてきた。そして百合の情報に関しては少ししか組織内に共有せず、自分だけが知っている状態にしていた。今回の皇帝への報告も新しい変身アイテムの話や百合との戦闘のことはあえて伏せていた。
そんな矢先に得られた情報、それが百合の新しい変身アイテムが完成したことだ。彼は心躍った。
実は何年か前から開発は始まっていたのだが、なかなか完成までたどり着かなかった。それがやっと完成したのだ。
これは試さずにいられられない!完成した直後、百合が活動できる時間帯に合わせて気配をさらし、百合がその変身アイテムを使う初めての相手になる、これが彼にとって最も重要だった。百合は彼の策略にまんまと嵌り、目の前に現れた。
変身アイテムによる百合の想像の具現化。
単純に彼女が思い描く理想の姿になるのは見てみたい。しかし、彼の中に悪趣味な妄想が浮かんだ。
魔法少女の時の強がった偽りの百合ではなく、本来の性格、そう優しく気弱な彼女に語り掛ければ変身は違った形で顕現するのではないか?試さずにはいられなかった!
予想通り変身は失敗。百合は戦意を喪失してしまった。
彼はその打ちひしがれる姿に震えが止まらなかった。
今後百合が立ちなおればまた違う姿も見られる!一石二鳥だった。
(しかし…今回はやり過ぎたでしょうか?このまま引退もありえる?いやいや彼女は確かに戦闘は好みませんが、それ以上に街を見捨てることはできない優しい心の持ち主。それに魔法少女側は彼女のような最強の戦力を手放したりしないはず…ならもう一度くらい揺さぶっても大丈夫ですかね?ふふふ♪)
魔法少女組織側よりも百合のことを理解しているストーカーで変態であった。
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