第4話 カツミ

4 - 1 カツミの店舗(出会い)

 棚にだけでは無い。床に敷かれた厚い板の上にも、積まれて十字に紐が巻かれている。買い取った後に整理の追いつかない品が数多くあるのだ。店内は、本当は案外広いのだ。雑然と並べられた、これらの品がなければ。

「どうだい? オロさんッ。地域の宣伝にもなることだし、協力してあげたらどうだい」

 目の前で話すカヨという名の老女は、歴史ある商店街に構えられた化粧品店の経営者だ。この昼、新聞社の若い女性記者を連れて、杉作克巳スギサク カツミの営む古書店へと来ているのだった。

「しかし、ネエさん。面白い話なんて何も無いぜ。とても、この美人のお姉さんの喜ぶような思い出なんて無いよ」

 すると、記者である横井南海恵ヨコイ ナミエが頬をポッと赤く染めながら、

「スギサクさんにとっては、なんでもないことでも、一般の読者の皆様にとっては興味深いということが、たくさんあると思うんです。ぜひ、数日の間、通わせていただき、聞き書きさせてほしいのです。『シリーズ・六三歳』の一記事として……、この国のこれまでの或る側面を残せるものになればと、思っております」

 ツーンと上を向いたような鼻に、はっきりとした二重の聡明な目をもったナミエ記者に見つめられて、照れくさいカツミは目を逸らした。

 彼女は記者になって、まだ間もないということなのだが、二三、四よりは、ちょっと年齢が上に見えた。大学院まで出ているのかも知れない。

 髪は、清潔感のあるショート・カット型。洋服は、パンツ・スーツ、と呼んでいいだろうか。ボタンの無い、白色の布地のインナーに芥子色のジャケットを合わせている。胸に膨らみがあって、とてもスタイルがいいとカツミは感じた。会話の印象も好感がもてるし、この美貌の容姿である。だんだんと、彼の気分が変わってきたとしても、おかしくなかった。

「……お願いできませんか」

「うーん。まあねえ……」

「ほらッ、記者さん。もう一押しだよ。オロさんが、オチるよ」

「ははは。ネエさん、オチるって刑事ドラマじゃないんだから。分かったよ。分かりました。聞き書きとやらを受けましょう」

「あ、有難うございます」

 ナミエ記者は深く、頭を下げたのであった。

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