4 - 2 カツミの娯楽(別れ)

 明くる日、営業を終えてからの夜、早速、取材が行われていた。

「そうですか、本を貸していた時期もあったんですね。貸本ッて、もっと昔の話かと思っていました」

「まあ、ウチの場合は貸本用の書籍ッて訳じゃないんだけど……。わしがここを始めたときは、まだまだ本を読むというのを、余暇の過ごし方として大事にしている人が多かったからね。ちゃんと利益が出たんだよ」

「なるほど。……それでは、御家族のことについても軽く確認させてください。住まいは別の、息子さんがお一人いらっしゃるのですよね? それから、奥様は、早くに亡くなられたのですよね」

「ええ、そうです」

「失礼ですけど、再婚のお話もあったのではないですか」

「まあ、ありましたよ。でも、本が好きですからね。仕事の種であると同時に、娯楽でもある訳です。わしは、女は二人しか知りませんよ」

 その言葉に、ナミエ記者が目をしばたくようにしたので、カツミはハッとして、

「申し訳ない。そのお、セクハラですね、今のは」

 彼女は手帳に目を落としながら恥ずかしそうに、

「……奥様を愛していらしたということですよね」

「ま、まあ、そうですが……、別に残された者は一人でいるべきだなんて考えてる訳でもないですがね」

「勿論です」

 家庭の話になったからか、感傷的で人恋しいような気分になったカツミは、

「今日は終わりにして、少し呑みませんか。会社に戻る必要もないのでしょう?」

「確かに、今日はこのまま帰宅してもいいのですけど……、しかし……」

「それじゃあ、呑んでいってくださいよ」

 カツミは立ち上がり、ビールや梅酒を用意した。

 二人は、豆腐や漬け物を肴に、酒を呑み始めたのだった。カツミは、アルコールに強い体質であるし、ナミエ記者の方も、少なくとも弱くはなさそうだった。

「この梅酒、本当においしい」

「ああ、ワシはその銘柄が好きでね。……一緒に呑む人にも好きだと言われるとなぜか嬉しいものなんだなあ。どんどん呑んでいいよ」

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