第3話 トモカ

3 - 1 トモカが仄聞(別れ)

 柏木朋夏カシワギ トモカは、大学生だ。教育学部の心理学科に籍がある。

 ゼミナールの教員、武藤充ムトウ ミツルと廊下を歩いているとき、

「カシワギさんは、卒業後はどう考えているの?」

「迷っています。発達心理学をやろうかと思っていて。魔性マセイの子供たちに興味があるので……」

「そうなの。発達心理学はいいとして、魔性マセイ魔法マホウに関係する研究者を目指すのは、よく考えた方がいいねえ……」

 口調はやさしいが、明らかに、この教員は反対している様子であった。トモカは、

「はあ、そうですか」

 と返すことしかできない。

 実は、彼女は子供の頃に姉と離ればなれになっていた。

 その頃には、姉もトモカも小学生だった。同級生の男の子が、他の男の子にからかわれていたときがあって、それを見かけた姉が怒って止めに入った。そして、相手を痛がらせてしまった。男の子に怪我というほどのものはなかったのだが、そのことで姉が魔性マセイであることを周囲が認識した。大人たちは大騒ぎになり、姉は施設シセツに送られてしまったのだった。

 トモカが誰かに、家族に魔性マセイがいることを積極的に話すことはなかった。

 次の授業にまで時間があったので、キャンパス内の書店に立ち寄ってみると、同じ専門科目を履修している本野宇宙ホンノ ソラが、雑誌のコーナーに立っていた。

「トモカあ、元気かい?」

「うん、いつも通り」

「おれえ、テレビの取材受けそうになったよ」

地龍モグラのことでしょう? 取材、受けそうに……」

「いやあ、ウザいから、逃げた」

「ふーん」

「この前、あそこのカフェの前辺りに出てきただろう? 特定の人物を襲うように仕込まれていたらしいよお」

「そうなの? 確か一年生が怪我させられたって聞いたけど」

「目撃者たちによるとお、どうも彼女を狙っていた感じがあったって」

「どうして分かるの」

「彼女の匂いに反応しているように見えたらしいよお。いや、学生の見立てだから、はっきりしないけどね」

「襲われた彼女は、助かったんでしょ」

「うん、助かったあ。擦り傷で済んだらしい。なぜか魔性マセイが居合わせて助けてもらえたんだとお」

魔性マセイの人が……」

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