2 - 7 ヘイキチと訪客(旅)

 軽食・喫茶『ローズ』と書いてある看板を掲げる建物のドアが開くと、女が入ってきた。少し間があって、他のお客も入ってきたようだ。

「コツ、コツ、コツ……」

 彼女が、近づいてきて、

「やっぱり、ここにいたのね」

 アキナがピラフを食べるヘイキチの近くで止まったのだ。

「もぐもぐ……」

 彼は、メロンソーダを口に入れると、

「ごくん……、どうせ暇なんだろ。それに、おれは腹が減っていたんだ」

 ヘイキチは筋肉質な躯にTシャツ姿、アキナは今日もパンツ・スーツ姿だ。

「この前、ルリさんに、躯を絞ってみるなんて言ってたじゃないの。……てゆうか、こちら、あなたに会いたいっていうのよ」

「えっ?」

 彼が頭を上げると、二人の若者がアキナの後ろに立っていて、

吉本光ヨシモト ヒカルです」

白石卓シライシ スグルです。赤貝アカガイ施設シセツを出てきました……」

 そこへ、店員のリンが水を持ってきて、

「面接か何かですかあ? お二人ともキンチョーしなくてもいいですよ。所長さんも探偵さんもやさしい人だから」

 彼女が離れると、三人も坐り、話を続けた。

「おれを頼られてもなあ。よくここに辿り着いたなあ」

 タク(スグル)が、

先輩センパイ手戸テトにいるはずだというのは、噂に聞いていました。それで、ヒカルさんと自転車に乗ってきたんです。途中、或るお店で食事をしたときに、テレビでニュースをやっていて……」

「ニュース?」

「大学に地龍モグラが出たってニュースです。あれを何とかしたのは、絶対に魔性マセイの人に違いないと思いました。それで、大学に調べにいったら、警備のおじさんが教えてくれました……」

「そうか、一度、お前は誰だッて書かされたことがあったな……。事務所の場所を書いたんだった」

 アキナが、

「それで、君たちは、この人にあってどうするつもりだったの?」

 タクが、

「そ、それは、ヒカルさんが……」

 ヒカルは、

「実はですね。前の記憶が無いんです。タクは、おれの方から施設シセツを脱走して先輩センパイに会いにいこうと言ったというんですが……。おれの記憶……、詳しく言うと、元々いた世界と、ここは違うというか……」

   (第2話 おわり)

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