2 - 5 ヘイキチと曲者(奇蹟)

 ヘイキチは周囲に、

「おい、ここで、おれが待たせていた学生は何処に行った?」

 リュック鞄を背負った若い男が、

「あの人なら、男の人と話した後、あっちの学生会館の方に行きましたよ」

 ヘイキチは走った。

 カンジおうが孫の警護を依頼してきたのは過剰な保護心からなのだろうと思う。

 ミオが、キャンパス内を歩けば目立つ存在なのは、ボディーガードを始めて直ぐから気づいていた。男たちの多くが彼女に憧れの視線を送っていた。しかし、高嶺の花ということなのだろう。積極的な男はいなさそうだった。

 彼女は友人も多そうだから、男の知り合いも多いだろうし、たまたま先ほど顔を合わせたのかも知れない。滅多なことはないだろうとヘイキチは思う。

 それでも、何か悪い予感がする。彼が待っていろと言ったのに、ミオが動いてしまっているのは、やはり変だと思えた。

「おい、学生会館というのは、ここか?」

 若者たちに訊きつつ、その建物に到着すると、中に入っていった。

 手前にも階段があったが、もっと奥にも階段がある。

 彼は、奥の階段を選んだ。これは、感に過ぎない。

 走っていって、数段上ると、踊り場になっていた。

 ヘイキチは息が荒くなっている。

「はあ、はあ……」

 壁を背にしたミオが、こちらを見た。

 しかし、もう一人の男は振り向かない。

「だったら、何なの?」

「言ってるじゃないか。おれはお前ん家のグループのせいで嫌な思いをしたんだ。あんな店が存在するから、おれはバイトに入って嫌な思いをすることになったんだ……」

 ヘイキチは、後ろから、

「おい、お前。ミオに、それ以上近づくな。ちかづくなよ」

 男は振り向かない。

 ヘイキチは、ゆっくりと彼との距離を縮め、ぱっと羽交い締めにした。彼は暴れたが、ヘイキチの力にはかなわなかった。

 ミオが人を呼びにいき、大学関係者によって、男は連れていかれた。その際には静かで、暴れる様子もなかった。

「おれが間に合って良かったものの、なぜ、付いていったんだ?」

「ヘイちゃんがこっちで待ってるッて、言うんだもん」

「ヘイキチという名前を出したのか?」

「そうだよ……」

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