2 - 2 ヘイキチと美女(相棒)

「やっぱり、ここにいたのね」

 三瀬明奈ミセ アキナがピラフを食べるヘイキチの前に坐った。

「もぐもぐ……」

 彼は、メロンソーダを口に入れると、

「ごくん……、どうせ暇なんだろ。それに、おれは左腕を負傷しているんだ」

 ヘイキチは二三歳、アキナは三五歳だ。

「この前、ルリさんに、怪我は大したことなかったッて言ってたじゃないの。……てゆうか、依頼があったのよ。待機しててくれなきゃ。だいたい、いつなんどき、どんな問題が起きるか分からないんだから」

 そこへ、店員の末広凛スエヒロ リンが水を持ってきて、

「美男の探偵と、美女の所長で喧嘩ですかあ。ドラマのシーンみたいですねえ」

 確かに、ヘイキチは鼻も背も高く、アキナもそうだった。パンツ・スーツ姿のアキナは、髪をポニーテールにしており、綺麗な額を出している。まつ毛の長い目はパッチリとしている。

「リンちゃん、こちらの美女に、いつものベーコンレタストマトサンドイッチをお願いね」

「はい!」

「ちょっと、いまは……」

「もう、お昼ですよ。いつなんどき……」

「食べるわよッ。リンちゃん、お願いします」

「ヘイちゃんには、アキナさんもたじたじですね」

「リンちゃんッ」

「サンドイッチ、かしこまりましたあ!」

 リンの背筋は伸びて、そのままオボンを胸に抱いて引っ込んでいった。

「感謝してるのよ。ヘイキチがいなきゃ、もう回んないんだから……」

 ヘイキチは高校生のときに、赤貝アカガイという地域にあった施設シセツを脱走している。魔法マホウを発現できるように子供たちを収容する場所からの脱出。その施設シセツで、そんなことをする奴は初めてだったはずだ。少なくとも、ヘイキチは聞いたことがなかった。脱走は自分一人で決めたのだった。

 その後、ヒッチハイクをして、この手戸テトという都会まで来た。アキナの経営する探偵事務所に入ったのは、夜の街で偶然に彼女と出会い、強さを見込まれたからだ。

 ヘイキチは覚えている。小学生だった頃の夏休み、自宅で昼寝をしたときのことだ。気づくと、夜になっていたが、そこは自宅ではなかった。父も母もいて、自宅のようであったが、家の形も変わっていた。

 昼寝から目が覚めた後の父と母は、本当の父と母ではないのではないかと疑ってきた。

 彼は、元の世界から来たことを忘れていない。

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