第2話 ヘイキチ

2 - 1 ヘイキチと追手(魔法)

「ちッ。手強い奴だ」

 東道平吉トウドウ ヘイキチは、ビルとビルの間に身を潜めた。

 深夜の二時であった。都会の内側とは言え、この街は日中でなければ、人通りも少なくガランドウの雰囲気である。

「キー、キキ、キイー」

 影が横切った。

 ヘイキチは歩道にさっと出て、

「これで、どうだッ!」

 その正体の背中の方向に、握りこぶしを突き出した。

 ふわっと、その右のこぶしが光を放つと、それより一回り大きな輪っかが次々と飛び出していく。その目標は、黒い毛の生えた首の下辺り。

「キー、キキ、キキ、キキ……」

 連続する輪っかによる攻撃に、流石に動くことができないようだ。

「まだか、まだか……」

 ヘイキチは、額から汗を流しながら、祈るように拳を突き出したままであった。

 やがて、光輪の当たった生物はダメージを受けたらしく、その場に倒れて静かになった。

「ふう、えらい目にあったぜ……。なんて強い地龍モグラだ……」

 彼は、左腕を抑えて、その場にへたりと坐った。

 彼は探偵だった。

 今回の依頼は、娘が婚約したばかりという両親からのもので、相手の男に問題がないかを調査してほしいというものであった。

 夜なよな遊び歩いているのではないかという話だったが、尾行を続けてみると、そうでもなかった。確かに呑み歩くときもあるが、のめり込んでいるという感じではなかった。

 だから、そのことよりも、他の人間関係の方が娘の両親が心配しそうな点に思えたのだった。例えば、この夜は裏社会の人間たちが深く関係しているらしい会社に出向いていたのだ。

 そうして、ヘイキチが会社の入ったビルの外で彼が待っていると、シャッターが開き、中からあの地龍モグラが飛び出してきたのだった。尾行していることがバレてしまっていたのか?

「さて、と……」

 彼は立ち上がると、地龍モグラの死体を引き摺って、ビルとビルの間に移動させた。

 そして、手を合わせた。

「ふうー。なあ、地龍モグラくんよ。おれは、死ぬ訳にはいかないんだよ。ガキの頃にいた、元の世界に戻るまでは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る