1 - 4 ヒカルの困惑(奇蹟)

 木々を割って出てきたそれには、黒い毛が生えている。霊長類のような躰をしながら、頭は巨大なミミズの先端のようである。口があって、そこから、

「ゲボボー」

 粘液とともに長い舌のようなものを出した。更に、

「キー、キキ、キイー」

 頭が上を向いたかと思うと、

「ドン、ドン、ドドド」

 地に音を立てながら、帽子の持ち主である女の子の方に走っていく。

「キャッ」

 彼女は引き攣った顔をして、逃げようと背中を見せる。

「危ない!」

 彼女の近くにいたタクが、両手を前に出した。

 二つの手の平から、光線が発現し、黒い毛の生えている胴にまで伸びた。

 当たった方は横倒しになって、ミミズのような頭が地面に擦れた。

「ヒカルさんも、お願いしますッ……」

 タクにそう言われても、ヒカルにはどうしたら良いか分からない。まさか、いまの彼のように手の平から光線を出せというのか、おれにはできる訳がない。というか、タクの奴、一体どうなってしまったのか?

「……ヒカルさんッ!」

 この場が危機であることは間違いないらしい。ヒカルが、とにかく立ち上がろうとしたところ、

「ちぇッ。遅い! おれにまかせろ……」

 彼を助けてくれた、後ろに引き下がっていた男が言って、

「……これでも、くらえええー」

 掲げた人差し指の先辺りから、真ん丸い光を出して、黒い毛の生物に向けて飛ばした。

「ドパアー」

 破裂したような音がし、地面に擦れながら数メートル動いた。

 地面には、その跡が残り、その先の生物はピクピクと動いている。頭部と上半身を損傷したようだ。

 それでも、片腕が上がって、近づいていった男の足に触れようとした。

「おっと、危ねえ」

 男は、そう言って躱すと、真ん丸い光を小さく出して、とどめを刺した。

 騒然としていた公園内だったが、いつの間にか遠巻きに野次馬が囲んでいる。

「(魔性マセイだ)」

「(魔性マセイね)」

「(魔性マセイだよな)」

 男は来ていたベストを脱いで、振り回すようにし、

「うるせえなあ。散ったちったあ。早く、あっち行けえ」

 タクは心配そうな表情で、ヒカルに近づいてきて、

「大丈夫ですか?」

 助けてくれた男は、

「動いたから熱いぜ。おれたちのおかげで助かっておいてなあ、世間はよう。しかし、魔法マホウを使える人間が、この場に三人もいたなんて、運が良かったぜ」

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