1 - 3 ヒカルの危機(出会い)

 公園の近くにはスポーツジムも入っている複合施設があり、風呂場もあった。

 ヒカルとタクは、その大浴場が開店するのを待った。ほかにも何人か客がいたが、深い話をした訳ではない。ただ、天気の話等をしただけだ。皆、穏やかな顔で、その湯を満喫していた。

 いい湯だと思った。この世界で、自分だけが違和感を覚えているということが、ますます不思議に思えるのだった。

 外に出ると、風が少し強くなっていた。

 この日は、複合施設に関する何かイベントをやっていて、建物前には、白い集会用テントが張られていた。

 子供たち向けに風船を配っている人たちもいるようである。たこ焼きを売っている人たちもいる。

 ヒカルはお腹が空いていた。そう言えば、その日、まだ何も食べていなかった。そのことを、お金を管理しているタクに伝えようとすると、

「ヒカルさん、たこ焼きを食べましょう」

「うん。いま食べたいと言おうとしたところだったんだ」

「それじゃあ、ちょうど良かったですね」

 ヒカルは、おいしいと思った。ふわふわというよりは固めの感じの生地に辛めのソース。彼の好みであった。

 公園のベンチで二人で坐って食べていると、目の前を様々な人々が行き交う。やがて、

「あッ!」

 女の子であった。ヒカルよりも年下かも知れない。

 強い風が吹いて、彼女の被っていたキャップが飛んだのだ。

 それは、ヒカルの頭上を越えて、ベンチ後ろの木々と植え込みの方に行ってしまう。彼は、慌てて、走って取りにいった。

 枝葉の重なった所に当たったおかげで、帽子を取ることができた。彼は安堵して、ベンチがある方向に躰を向けた。女の子に、笑顔で手を振った。

「ドーン! バキ! バキバキ」

 彼女が叫び声で、

「お兄さん!」

 ベンチから立って、様子を見ていたタクも、

「ヒカルさん! 早くこっちへ走って」

 彼は、背後の音や振動を認識してはいたが、まだ状況を呑み込めてはいない。

 すると、

「何してるッ!」

 男が走ってきて、彼に横からタックルするようにぶつかり、そのまま引き摺っていった。

 彼は、驚いているままで、地面に倒れ込んだ。最前いた場所を振り返って、仰ぎ見ると、

「キー、キキ、キイー」

 見たことのない生物が、土埃の立つ中で、立っていた。

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