第33話 『白』と【黒】と「灰色の結末」
『か、解決……したんデスか? サツキ』
〈そーなの! 『白黒つけよう会』のみんなには迷惑と心配かけちゃったから、一番に報告しなきゃって!〉
【ええと……その言い方からすると、解決したのは今さっきという事ですか】
〈そのとーり! えーっとね、うーんっとね……どこから説明したもんかな。ああ、まず一番大事なとこからだね――
《なん……だと?》
〈あ、あり? なんか驚いてんの
《んな事ぁどうでもいい! 問題なのはなんでオマエがそれを知ったのが今なのかって事だ!》
〈へ?……ちょっと赤ヶ原ちゃんが何言ってるか分かんないな……なんでもなにも、さっき雅志から全部きかせてもらったんだけど……〉
《さっきだと……そんなはずはねえ……じゃあ
〈あれ?……その言い方からすると、もしかしてみんな、この結果、分かってたっぽい? いやー、さすが『白黒つけよう会』だ――〉
《いいから質問に答えろ!》
〈今日の赤ヶ原ちゃんはなんかせっかちだなあ……雅志がちょっと時間かかっちゃってたのはね――覚悟してたからなんだ〉
《……覚悟?》
〈うん、プロポーズの〉
「『【《…………は?》】』」
〈あはは、それそれ! みんなのそういう顔が見たかったの。実は私――さっき雅志にプロポーズされちゃいましたーっ!〉
『ちょっ……ちょっと待ってくださいサツキ。意味が……意味が全然分かりません……』
〈まーそうだよね。じゃあ順を追って昨日の夜の話から――なんかある程度の事は把握してるみたいだからはしょって話すけど……命は『広末ちゃんからの指輪』を雅志から受け取った時、全てを悟ったの。『アクセショップできいた刻印云々の会話は、広末ちゃんから自分へのものだった』って事に――で、命はその場で雅志に即土下座したって言ってたよ。『さつきへ、誤解を与えるような情報を伝えてしまった』って〉
【お、驚きの潔さデス……まあでもやってる所も想像できマスね……メイなら】
〈およ? 白姫ちゃん、命と面識あったんだっけ?〉
【っ――あ、あのデスね、今日たまたま三年生の教室へ用事があって……その時たまたまお話しする機会があったンです……あ、あはは! とてもかっこいい人デスね!】
〈そーなの! メイはねえ――おっと、本筋から外れちゃうから我慢我慢。で、雅志の『約束』も命に指輪を渡した時点で終わったから、雅志と命はお互いの持ってる情報を交換して――私がひどい誤解をしてるだろうって事を把握したの〉
《だったら……だったらその場でオマエに連絡するだろうが普通は!》
〈ふふん、そこが雅志って人間の面倒臭さであり、良さなんだな、赤ヶ原ちゃん〉
《どういう……意味だ?》
〈雅志はさっき、私を屋上に呼び出してこう言ったの。『すまない……今回の件は全て俺の責任だ。俺の頑固さと言葉足らずの為に、君に不安な思いをさせてしまった。今後、このような事が二度と無いように……いずれは必ず、と思っていた事を前倒しさせてもらう』〉
『ふんふんっ……そ、それでそれデッ?』
〈『だが、一時の感情に身を任せてそんな事を言ってしまってもいいのか……という疑問も浮かんだ。それは逆に君に対して不誠実なのではないか』って〉
『ほうほうっ……それからそれカラッ?』
〈『だから、申し訳ないが、一晩もらって考えた。寝ずに、君の事だけを考えた。今日の授業中もずっと……ずっと……考え続けた。でも、その想いは一度たりとも揺らがなかった』〉
『い、いって……いくのデス、マサシ!』
〈『さつき、好きだ――結婚してくれ』〉
『キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
【ロ、ロマンティックとかいうレベルじゃないわね……】
『す、素敵デス! 素敵すぎて鼻血が出そうデス!!』
【そ、それで……受けたんですか、プロポーズ】
〈あはは! まっさかあ、まだ十七だよ、私達。雅志、自分の気持ちにはしっかり向き合ったのかもしれないけど、現実的には無理だよね……まだ〉
『ま、まだ……という事は――』
〈うん……将来は結婚したい――これをくれた雅志と〉
『アクアマリンの指輪もらってるじゃないデスかああああああああああっ!!』
〈あ、あれ?……なんか私、勢いに任せてものすごい恥ずかしい事告白しちゃった?……これ、後から死にたくなるやつ?〉
【いいえ、とても美しいお話だわ――心の底からそう思います】
『そうデス、お祝いをしなければなりまセン! マサシは? マサシは今、どこにいるんデス?』
〈ああ、部活に行くって走ってったよ。急に『む……まずい、遅刻する訳にはいかん』とか言って〉
【き、切り替えが凄いですね……今日くらいはお休みして、二人で遊びに行ってもよさそうなのに……】
〈あはは! いーのいーの。私はそんな雅志が好きなんだからさ……あ、そうだ! 事情は把握してると思うけど、命にもちゃんと報告しなくちゃ、心配かけてごめん、って――じゃあまた後で、改めてお礼に来るね! みんなほんとにあんがとーーーーーーーっ!!〉
『い、行っちゃいまシタ……』
【相変わらず、嵐みたいな人――】
《――っっっざけんな!!》
『ユラ……』
《冗談じゃねえぞ……その場で言わねえで一晩置いてからプロポーズだと?……論理性の欠片もねえ……そんなん、分かる訳ねえだろうが!!》
「当たり前だろ」
《……灰咲》
「人の心を理屈で全て読み解くなんて、できる訳がない」
《……うるせえ! アタシにはそれが可能だ……アタシは……アタシは『真実に辿り着く者』なんだからな!》
「俺は――俺達にはそんな大層な事はできない。ただ、相談者に寄り添いながら一緒に考えているだけだ。実際、俺も浜松先輩の一日のタイムラグの部分は、全く予測できていなかった」
《……それでも……他の部分はほぼ合ってただろうがっ……馬鹿なっ……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁっ!! アタシが……このアタシが……いくら同類といえど、オマエ如きに遅れを取るとは……ありえねえっ!》
「赤ヶ原、それは正しい」
《な……に?》
「お前ほどの頭の回転と論理力ががあれば、広末がエメラルドの指輪をしていると分かった時点で、この結論に至る事は容易だったはず――いや、それ以前の問題として、俺より早く答えを出していなければおかしい」
《実際そうはならなかっただろうが!……遠回しな自慢してっとぶっ殺すぞテメェ!》
「いや、本心からそう思ってるよ。今回、お前に敗因があるとすれば――」
「人の悪意を信じすぎた事だ」
《――っ!?》
「武者小路先輩は、若葉先輩を案じて目撃した事をそのまま報告した。
浜松先輩と広末は、アドバイスをしあいながら、互いの思い人への指輪を選んだ。
浜松先輩は致命的なミスを犯したが、『約束』を守って一切の言い訳をしなかった。
若葉先輩は不安を抱えながらも、浜松先輩を信じて指輪を返した。
浜松先輩は『約束』を守り切り、武者小路先輩に指輪を渡した。
武者小路先輩は自分の勘違いを悟り、誠実に謝罪した。
それで全てを知った浜松先輩は、己の心と一晩向き合い答えを出した。
今回の件で――悪意を持った人間は存在しなかった。あったのは広末のほんの少しの
《なんだそれ……んだよそれは! みんながみんな『正しい』行動をした結果――端からしたらほとんどの関係者がクソ人間ムーブしてるように見えた……ってのかよ》
「そうだ」
《ざけんな! そんな……そんな奇跡的な掛け違いがあってたまるかよ!》
「でも実際に起こった……俺だって世界は善意で溢れてる、なんて綺麗事を言うつもりはない。むしろ汚い事の方が多いんだろう。お前がそのどちらの可能性も――悪意にも善意にも等しく目を向けていれば、結果は変わっていただろう」
《ぐ……うっ……》
「赤ヶ原。ここは人の善意を盲信する場所じゃない。人の悪意から目を背ける場所でもない。人間の清濁全てを受け入れた上で――相談者の気持ちに白黒をつける所だ」
『ユイト……』
【灰咲君……】
「その片方にしか目を向けられず――歪んだ視点しか持てない人間はここに相応しくない」
《テ……テメエ、言わせておけば好き勝手に――》
「『白黒つけよう会』の一員として、はっきりと否定させてもらう。赤ヶ原の出した結論は間違っていた。そしてもう一度言う。お前が昨日から感じていた愉悦は全て――まやかしだ」
《まや……かし?》
「そうだ。若葉先輩の意趣返しも、武者小路先輩の嫌がらせも、浜松先輩の浮気も存在しなかった。お前が感じていた『生』は――どこにも存在しない」
《あ……あんなに気持ちよかった事が……偽りだった……だと?》
「そうだ」
《じゃあアタシは……ありもしない悪意に……一人で浮かれて……はしゃいでいただけだと?》
「そうだ」
《バカなっ……バカなバカなバカなあっ!! ふざけんなよ! 人の醜さを……汚さを感じる事がアタシの生きる意味なんだよぉ!……それを……それを間違っただと?…………そんな事しちまったんじゃ…………アタシの……存在意義がぁっ……!》
「人の生きる意味はそんな所に存在しない」
《黙れ! 黙れ黙れ! それこそが……それだけがアタシの――う……あ……あ、頭がっ……》
『ユ、ユラ、大丈夫デスか?』
《あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!》
【赤ヶ原さんっ!?】
◇◇◇◇◇◇◇◇
《すう……すう……》
「どうやら落ち着いたみたいだな」
『ええ、気持ちよさそうに眠ってマスけど……大丈夫でショウか?』
【目を覚ましたら一度、保健室の先生に診てもらいましょう】
『はい……ユラにとっていい方に向かうといいんデスが……』
【そうね。大分ショックを受けてたみたいだし、裏の人格になにか変化があるかもしれないわね】
「……俺が少し追い詰め過ぎたかもしれない。人のマイナス面をあばく事でしか生きている実感を得られないなんて……あまりにも悲しすぎると――あまりにも救いがないと思ってつい感情が昂ぶってしまった」
『大丈夫デスよ、ユイトは悪い事はしていないと思いマス。ユラが色々な人を傷付けるような言動をしていたのは事実デスし……誰かが諫める事は必要だったと思いマス』
【私もそう思うわ。結果的に赤ヶ原さんがパニックになってしまっただけで、灰咲君の行動にはなんら恥じるべき所はないわ】
「白姫……黒妃……ありが――」
《ムニャムニャ……この気持ちは……なんなんだろうね……初めて……人の汚い部分を抉る事以外で……世界に……色が付いた気がする……ああ、灰咲氏か…………あの人、ちょっといいかも……ムニャムニャ……》
『ユイトは悪い事しかしませんね』
【ええ。末代までの恥とすべきだわ】
「手のひら返しってレベルじゃねーぞ!」
『………………』
【………………】
「な、なんだよ二人とも、そんなジト目で……」
『なんで……なんで毎回こんな風になってしまうんでショウか……』
【仕方無いわ……その……私達が言わないのが悪いんだから】
『うう……そ、それはそうなんデスが……』
「……?」
『分かりまシタ……覚悟を決めまショウ』
【……そうね】
「ど、どうしたんだ二人とも? そういえばこの前、黒妃が今と似たような顔をしてた気が――」
『ユ、ユイト、その……そのデスね……』
【わ、私達は、あの……】
「あ、ああ……」
『じ、実は、ずっと前から……』
【は、灰咲君の事が――】
{失礼するでゴワす! おいどん、相撲部の
『【つけられるか!!】』
「いやつけろよ!?」
美少女二人に挟まれながら別の美少女の悩みをきいていたら、全ての美少女が俺の事好きになった 春日部タケル @tkasukabe
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