第31話 『ミナミ』と【メイ】と「エメラルド」
〈おや、どうしたのかな? 三人揃ってそんなに目を丸くして〉
「い、いや、なんでもありません……い、いきなり全く関係なさそうなワードが出てきたんでつい……」
〈まあそうだろうね。だが、状況的に彼女の事としか思えなくてね。しかし今の状況では本人に尋ねる訳にもいかず――〉
《ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!》
「【『――っ!?』】」
《オイオイオイオイオイ! 人間ってのはほんとに面白えなぁ! たっっまんねえよ!!》
〈…………
《おっと、驚かせちまって申し訳ねえなぁ武者小路センパイよ。まあただの二重人格だから気にしてねえでくれ》
〈二重人格……成程、創作物などでは触れていたが、実際に目の当たりにする事があるとは――む、すまない、
《ヒャハハ! そんなの気にしねえよ! でもすぐに受け入れてアタシ対する配慮にまで気が回るたぁほんとに肝が据わってんなぁアンタ――ああ、そのくらいの図太い神経じゃなきゃ、ここにこんな相談もってこらんねえかぁ》
〈?〉
「……赤ヶ原」
《ヘーイヘイ。決まりは守りますよ。んで、お仕事もちゃんとやってやるっての――『ミナミ』ちゃんの謎もばっちり解けちまったからな》
「な、なに……もう?」
〈おお、それは素晴らしい。是非ともお聞かせ願えるかな〉
《あー、そうしたいのは山々なんだけどよぉ。一筋縄ではいかねえんだな、これが》
〈ふむ、それは
《この『白黒つけよう会』の決まりに引っかかるからな。アタシが気付いた経緯や答えをアンタに伝えるのは、このいい子ちゃん達の基準じゃ、完全にアウトだ――ま、そんなもんぶっちぎって暴露しちまってもいいんだが……愛すべきこの場所にいられなくなるのは困るんでなぁ》
「…………」
〈ふむ。具体的な事は分からないが、君達に迷惑をかけてまで答えを聞こうとするのは本意ではない――が、私も人間だ。このような頭上に人参を吊り下げられたような状況では釈然としないのまた確か。何かいい折衷案があればいいのだが〉
《だよなぁ。真実に辿り着いてるのに伝えないなんて、不誠実極まりねえよなぁ――んでだ先輩よ、悪ぃが一度外してくんねえか? 一旦アタシ達『白黒つけよう会』だけで、上手い事説明できる方法がないか話し合ってみるからよ》
「承知した。連絡先を伝えておく故、君達の準備が整ったら教えてくれ。無論、今日でなくても構わない」
《ハッ、どこまでも大人な相談者サマで助かるぜぇ。じゃあ楽しみに待っててくれよな》
「ああ、期待しているよ――あの娘達の気配もなくなった事だし、私は一度失礼するとしよう」
◇◇◇◇◇◇◇◇
《――さてとぉ、部外者にはけてもらった所で、楽しい楽しい話し合いを始めるとしようぜぇ》
『あ、あのユラ……本当に答えが分かったんデスか? あんな少しの情報だけで?』
《ハッ、こんな単純明快な解もねえだろうが。『昨日』と『今日』を照らし合わせて考えりゃ、この結論しかありえねえ。ま、聖人様達には分かんなくても仕方ねえかもしんねえけどなぁ》
「………………」
【それで……その答えというのは?】
《昨日の相談者の――
『悪意……デスか?』
《ああ。エメラルドの指輪が武者小路命の手に渡ったという事は、若葉さつきはそれを
【ええ……本人も野球部の部室まで持っていくと言っていたし、それは間違いないと
思うわ。でも――】
《そう。だが武者小路命が受け取った指輪には『Minami』の刻印がされていた。昨日アタシ達は『Mei』の文字をたしかに確認しているはずなのに――それは何故か?》
【どこかで……入れ替わった?】
《そーよ! じゃあ次なる問題は誰が、なんの為にそんな事を行ったか、だ》
『それが……さっき言っていたサツキの悪意と関係あるんデスか?』
《ああ。昨日ここでは『雅志は誠実ですー、信じてますー、だから返しますー』みてえな素振りだったが、あんなもんは一時的に『信じる自分に酔ってた』だけだ。一人になって改めて考えたら怒りが湧いてきたんだろうな。こんな事をされてただ指輪を返すなんてありえない。では浮気している二人に詰め寄って糾弾するか?……いや、それより効果的な方法がある。自分と同じ目に遭わせてやればいい――ってなぁ》
『同じ……目?』
《ああ、そうだ。愛する人からのプレゼントだと思っていたら、実はそれが他の女へあてたもんだったっていうクソみたいな目になぁ……》
『ど、どういう……事デスか?』
《思い返してみろよ。駅前のアクセサリーショップ――あそこのウリはなんだった?》
【ウリ?……ああ、若葉先輩が言っていたわね。たしか、『その場で名前を刻印してくれる』っていう――っ! ま、まさか……】
《そのまさかなんだよなぁ……若葉さつきは昨日ここを出たその足ですぐショップに向かい、全く同じエメラルドの指輪を購入し、『Minami』と刻印してもらったそれを手にして学校に戻り、部室の浜松雅志の鞄に返した。奴も戻ってきた箱を開けて確認くらいはしただろうが、商品自体は全く同じものだ。内側の刻印だけ違ってるなんて気付けるわきゃねぇ》
『そ、それを……マサシがメイに渡したって事デスか? 誕生日プレゼントとして……』
《ああ。『浜松雅志が広末南に渡す予定だった』ようにしか見えない指輪をなぁ》
【ま、まさか……そこまで悪質な仕返しなんて――】
《するんだよ。フワフワサバサバのお前らにゃ分からんかもしれんが、女の嫉妬や恨みってのはドロッドロのグッチャグチャなんだよぉ。これだよこれ……まさかアタシが求めてたクソみてえな『生』の感情に二日連続で出会えるとは思わなかったぜ……最高……最っっっ高だぜこの『白黒つけよう会』はよぉ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!》
【――っ。ちょ、ちょっと待って。浜松雅志と武者小路命が本当に付き合っていたのなら、そんな嘘の嫌がらせなんてすぐに発覚するじゃない】
《忘れたのかぁ? 浜松雅志は若葉さつきを捨てて武者小路命に乗り換えてんだぞ。そんなクソ野郎が、そこで浮気打ち止めで純愛を貫くなんて誰に言える? マネージャーに移り気しないなんて、誰が保証できる? 現に今日、ついでとはいえ、武者小路命は浜松雅志本人に問い質す前にここに相談に来てるじゃねえか》
【そ、それは……】
《まあ若葉さつきも、それだけで二人の関係を完全にぶっ壊せるとまでは思ってねえだろうよ。ただ自分があそこまでの事をされて、のうのうと付き合われるのが許せなかっただけだろうなぁ。実際多少なりとも疑念は抱いてる訳だし、少しは溜飲も下がったんじゃねえの、クク》
『そ、そんな……』
《ま、それじゃ収まらずに若葉さつきは次なる一手も放つ気かもしれねえぞぉ。人間ってのはほんとに薄汚くて醜くて……愛おしいよなあ、ヒャハハハハハハハハハハハハハハッ!!》
『サ、サツキは……そんな仕返しなんてする人間じゃ――』
《一昨日初めて話したばっかの人間の何が分かんだよオマエに。それともなにか、アタシが曝いた意外に、納得のいく『真実』があんのかぁ?》
『そ、それは……』
《気にする必要はねえぞ。これは『相談者を信じる』ってのとは全く別の話だからな。相談内容に嘘や別の意図があってオマエらを騙そうとした訳じゃねえ。ただ単に相談してきた人間が二人ともクソだったって話だからなぁ》
【…………】
《クク、浜松雅志も含めれば三人か。今回の件で名前の出てきた奴でまともなのはマネージャーの広末南だけで、他はアタシの大好物のクズ人間だったって訳だ。四人中三人……七割五分たぁ奇跡の高打率じゃねえか! 野球部案件だけになぁ!》
『…………』
《んだよ人がボケてんだから反応しろよな、つまんねぇ。まあいい……で、こっからが本題だ。武者小路命にどうやって楽しい楽しい真実を伝えるか、考えようぜぇ》
【……無理よ。若葉先輩からの相談を伏せたままで答えを提示する事は不可能よ。そもそも今日の相談では、浜松先輩の名前すら一言も出てきていないんだから】
《んなこと言うなよぉ。『テメエも浮気してっくせに、どの面下げて相談に来てるんですかぁ?』って言ってやりてえんだよぉ。『その結果、親友に仕返しされてますけどどんな気持ちですかぁ?』って聞いてやりてえんだよぉ。あの澄ました顔がグッチャグッチャに歪むとこが見てえんだよぉ!》
『……それは明確に、昨日あなたが読み上げた『当該同好会の活動に支障をきたすような迷惑行為』に当たりマス。もしそんな事をすれば、正式に生徒会に申し入れて、ユラを除名してもらいマス』
《だよなぁ……でも、オマエらにとっちゃ、そっちの方が都合がいいんじゃねえの?
邪魔なんだろぉ、アタシの事》
【馬鹿にしないで。相談者の気持ちを犠牲にして貴女を追い出しても意味がないわ】
《おーおー。相変わらずご立派なこって。まあ頼まれてもそんな短絡的な方法はとってやんねえけどなぁ……やるんならもっと上手くやんねえとよ》
【……上手く?】
《『白黒つけよう会』の一員であるアタシは守秘義務を破るなんて事絶対しねぇけどよ――たまたまここを通りがかったどこかの誰かが、一昨日も昨日も今日も外の壁に耳を押しつけて相談内容を全て聞いてて、野次馬根性から全ての真実を若葉さつきと武者小路命と浜松雅志に伝えちまったとしても、アタシの知ったこっちゃねえよなあ……それも、お互いの関係が更にグッチャグッチャになるように、微妙に虚実織り交ぜた伝え方で》
【なっ……そ、そんな事が許されると思ってるの!】
《許されるも何も、アタシじゃなくてどこかの誰かだって言ってんだろ。文句はそいつに言ってくれよぉ》
【よくもぬけぬけと……】
《ま、でもアタシはそのどこかの誰か、嫌いじゃねえぜぇ。やっぱり悪い事した奴らにゃ、それ相応の罰が下されねぇとなぁ》
『ですが……それをするべきなのはユラではありまセン。当事者同士で話し合うべき問題デス』
《だ・か・ら。アタシじゃなくてどこかの誰かに言えって言ってんだろ。見つけられたらの話だけどなぁ……ギャハハハハハハハハハハハッ!》
【ぐっ……】
『うう……』
《ハッハァ、かわいこちゃん二人は黙っちまったなぁ。残りは一人だが……オイオイオイ、なーに外見てぼーっとしてんだ
「…………」
《おーい大将、起きてっかぁ? てか一体どこ見て――》
「野球部の練習、始まったな」
《……あ?》
「ここ、三階だろ? 窓が開いてるとグランド、よく見えるんだよな」
《だからどうしたってんだよ。勝ち目がなさ過ぎて現実逃避に走っちまったかぁ?》
「マネージャーの――広末南の様子もよく見えるんだ」
《なんだ?……何を言ってんだ、オマエ?》
「なあ白姫、お前たしか視力ものすごくよかったよな?」
『へ?……し、視力デスか? はい、一応2・8ありマスけど……』
「うん、ちょっと悪いけど、こっち来て広末の手のあたり、見てみてほしいんだ」
『手のあたり? え、ええ、それは別に構いませんケド……』
「俺にははっきりとは見えないんだけど……なんか指のあたり、光ってないか?」
『指デスか? ええと……ああ、たしかに何かつけてますね。何か緑色の――ああっ!?』
【どうしたの、フワリス】
『し、してます……』
【してるって、何が?】
『エメラルドです……あの指輪を付けてるんデス、ミナミが!』
【……え?】
《……あ?》
「ずっと考えてたんだ……他の道はないのかって。違和感があったから。赤ヶ原の説明は筋は通ってるんだけどなんか気持ち悪いって。悪意まみれで気分が悪いとかそういう問題じゃなくて……何か、ちぐはぐな感じがしたんだ」
《なんだ? 一体何を言ってんだオマエ?》
「そしたらさ、繋がったよ」
《だから何がだよ。まだるっこしい言い回ししてねえで――》
「赤ヶ原。お前が昨日から『真実』としてきたものは間違ってる」
《……んだと?》
「お前の感じていた愉悦は――まやかしだ」
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