第13話 『朝が嫌』と【道端】と「可能」
「つ……潰す?」
《はっはっは、その通り! では改めて宣言しようか。生徒会長、
「なっ……」
『ちょ、ちょっと待ってくだサイ、アキホ! いくら生徒会長とはいえ、そんな権限がある訳ガ――』
《ある》
『……え?』
《フワリス君。この同好会はきみ、
『で、でも、五人というのはたしか部活の話だったはずデス……』
《そう。君達は人数制限すらない同好会なんだ。であるのにもかかわらず、このような良質な部屋をあてがわれ、何不自由なく活動している。十人集めて創設したいという部活があれば――まあ先日実際に申請があった訳だが――譲り渡すのが道理ではないかな?》
『そ、それは……そうかもしれませんケド……あ! だ、だったら私達も頑張って人を同じくらい集めマス! それで部活にしてもらえれば、条件はとんとんデス!』
《それは別に構わないが、そのような後出し感満載の申請では当然審査は厳しくなるぞ。幽霊部員ではなく真摯に人の悩みや謎を解決しようという気概のある生徒を、最低でもあと七人、集める事ができるかな?》
『そ、それは……ええト……』
《そもそもの問題として、だ。伝え聞く評判から察するに、この同好会はこの三人である事に意味があるのではないかな? 知識と客観性に長けた【黒】、相談者に寄り添う情を持つ『白』、その二者の意見からインスピレーションを得て、閃きをみせる「灰」――この奇跡的なバランスの上に成り立っている。その他の要素は異物であると愚考するのだが、どうだろうか?》
「う……うぐっ……入りたいという方を異物なんていう気はありまセンが、たしかに無理矢理人数だけ揃えても相談者さんを混乱させてしまうだけデス……焦って心にもない事を口走ってしまいまシタ……」
《よろしい。フワリス君はどこまでも素直で実に好感が持てるね》
【だったら苛めるのはその辺にしておいてもらえますか】
『サ、サヤカ……』
【そもそも青龍寺会長、あなた程の権限があれば、明らかに物置同然になっている他の部屋を新部活にあてがう事など容易いはずです。わざわざこんな迂遠な形でこの同好会を潰そうとするなんて――一体何が狙いなんですか?】
《君だよ》
【……え?】
《私の狙いは君だよ、清香君。本日は
『「なっ……」』
《正確には次期生徒会長候補として、現生徒会の仕事を手伝ってもらう為、かな。十月の会長選挙まで残り約五ヶ月。私が会長としての心構えをみっちりと手ほどきする予定だ》
【……ちょっと待ってください。私が生徒会長? 冗談としか思えませんけど】
《これは異な事を言う。地頭・応用力を併せた総合的な知力、感情に流されずに物事を客観視出来る判断力、いかなる時も物怖じしない度胸、そして見る者の心を掴むその美貌――いきすぎたそれは同姓からの反感を買いそうなものだが、媚びとは無縁の性格が幸いし、女子生徒にもアンチがほぼ存在しない。これで人の上に立たないという方が冗談としか思えないね》
【過大に評価してもらえるのは光栄ですが――】
《おっと理由はまだまだあるぞ。実は私はひどい低血圧でね。朝が
【勝手にそんな関係にしないでください……そもそも会長がどう思っていても、私自身に生徒会長になる気が全くありません】
《はっはっは。安心したまえ。君の意思とかそういうのはどうでもいい。ただ私がそうしたいからそうするんだ》
「………………」
《おお、
「い、いや……そんな事は……」
《………………………………………………………………………………………正解!》
「なんでミリオネ○みたいに言ったんですかね……」
《付け加えるなら、これは私の意思である事は間違いないが独断ではない。現生徒会のメンバーも、来期に清香君を会長として迎える事を望んでいるんだ。彼ら彼女らにも必ずきみを連れてくると約束してしまっているんだよ、これが》
【それはそちらの勝手な都合であって、私達には関係のない事です】
《うむ、確かにそうだ。という訳で、せめてもの譲歩として交換条件を提示しよう。清香君がこの『白黒つけよう会』を脱会して生徒会に来るのなら、本同好会の存続は許可しよう》
【……もし断ったら?】
《今日限りでここは消滅だ》
『そ、そんな……さっきアキホだって言ってたじゃないデスか……ここはサヤカとユイトと私のバランスで成り立ってるッテ……』
《その通り。三位一体が崩れた状態では――フワリス君と灰咲君だけでは、続けてもほぼ意味はない。つまり、私が後継者として清香君に目をつけた時点で『白黒つけよう会』は終わっていたという事だ》
『なっ……そ、そんなのいくらなんでも理不尽デス! 仮に権限があるとしてもこんな横暴が許されるはずガ――』
《黙りたまえ》
『……っ!?』
《私はやるといったらやる。部費の再分配に猛反対していた運動部の面々も、校則刷新に抗っていた風紀委員も、教師の待遇改善を全力で阻止しようとしていた校長・理事長も――全て正面から叩き潰して今この場所に立っている。この学園において、私の決定に逆らえる者など存在しない》
『うう……』
【それはおかしいわ】
《…………ほう。その心は? 清香君》
【青龍寺燈穂が掲げているのは『面白さ至上主義』。私が直接目にしたのは去年の四月からだけど、その改革の仕方は非常にフェアで、自分にも相手にも勝機があり――会長自身が勝負のスリルを楽しんでいるように見えた。観測できた限り、権力を行使して理不尽に相手を薙ぎ倒した事は一度も無い。あなたにとってこのような一方的な蹂躙は『つまらない』。私達にも何か反撃の手があった方が『面白い』と思うんですけど――いかが?】
《……ほう…………いや、素晴らしいよ、清香君。さすがは私が見込んだ人間だ!》
『じゃ、じゃあ、さっきの悪役っぽい言動は嘘だったんデスね……』
《はっはっは! すまないねフワリス君。その方が盛り上がって面白いじゃないか。だが清香君を引き抜こうと思っているのは本気だよ。そして、今の推察を目の当たりにして、その思いはより強くなった》
『うう……サヤカのおかげで助かりまシタけど、全然助かってまセン……』
《安心したまえフワリス君。清香君の言った通り、ちゃんと君達にも勝機は存在する。今日は私がとびっきりのゲームを――謎を持ってきた。君達がこれを解けるか否かで、この会の存続を決めようじゃないか》
『な、謎デスか?……それはたしかに私達の得意とするところデスけど……いつもと違って、ワクワクしてる場合じゃありまセンね……』
《いやいや、私は今から始まる勝負を想像して胸の高鳴りを禁じ得ないよ。さあでは早速始めようじゃないか! その名も、楽しい楽しい『青龍寺一族、名前当てゲーーーーーーーーーーーッム!!』》
「超つまんなそうなんですけど……」
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