第12話 『青』と【おしっこ女】と「妖怪イボしまい」

「暇だな……」

《暇デスね……》

【まあみんなに悩みが無いのはいい事だけど、暇なのはたしかね……ちょっと大喜利でもしましょうか】



「いや黒妃くろき、女子高生の暇潰し方法として最初に大喜利が出てくるのは渋すぎるだろ……」

《でも、ちょっと面白そうデス。私、一回やってみたかったんデスよね》



白姫しらひめも乗り気か……俺も別に反対ではないんだけど、ボケるのはちょっと苦手なんだよな……」

【だったら灰咲はいざき君はお題の読み上げを担当してくれればいいわ。私とフワリスで好き勝手やるから】



『はい、好き勝手やりマス!』

「なんか不安しかないんだが……まあとりあえずやってみるか。で、お題はどうする?」



【そうね……ああ、ちょうど今、外はすごい土砂降り状態だから『こんな雨は嫌だ』でどうかしら】

「お、シンプルな感じでいいんじゃないか」



【では、早速私から】

「めっちゃ早いな……じゃあいくぞ。『こんな雨は嫌だ』――どんなの?」



【おしっこだ】



「しょっぱなから飛ばしすぎじゃないですかね!」

【あら、だっておしっこは飛ばすものじゃない】

「いや上手くないからな全然……最初はもうちょっとソフトなのありませんかね」



『あ、じゃあ私がいきマス!』

「じゃあ白姫。『こんな雨は嫌だ』――どんなの?」



『口をあけて飲んでみるト、怪しいおクスリの味がスル』



「ハードってレベルじゃねーぞ!?」

『ああ、間違いまシタ……『甘いお菓子の味がする』って言いたかったんデス……』



「相変わらずありえない間違い方してんな……というか、甘いお菓子の味がするんなら嫌じゃないだろ」

『そういえばそうデス……日本語は難しいデス……』



「いや、そういう問題じゃ……お、黒妃の手が挙がったな。『こんな雨は嫌だ』――どんなの?」



【口を開けて飲んでみると、アンモニアの臭いがする】



「おしっこじゃねえか!」

『はいはい! 思いつきまシタ!』

「じゃあ白姫。『こんな雨は嫌だ』――どんなの?」



『口を開けて飲んでみるト、おしっこの香りがする』



「おしっこじゃねえか!」

『ああ、間違いまシタ……『おしるこの香りがする』って言いたかったんデス……』



「いやだから、おしるこの香りは別に嫌じゃないだろって……」

『日本語は難しいデス……』



【まあ最初のお題はこんな所にしましょうか。じゃあ次は……『こんな母親は嫌だ』でどうかしら?】

「いや、なんで同じ系統のを続けるんだよ……」



【だって答えていて楽しかったんだもの】

「まあ別にいいけど……ってまた早いな、黒妃。『こんな母親は嫌だ』――どんなの?」



【実はおしっこだ】



「なんでもアリだなもう! てかお袋がおしっこだったらお前もおしっこじゃねえか!」

【そうよ】

「黙れ!」



【白状すると、私の母は日に向かうと書いて日向ひなただから、別におしっこじゃないの】

「知ってるわ!」



【次のお題は『こんなおしっこは嫌だ』にしようと思うんだけどどうかしら?】

「嫌だよ!」





《おや? 何やら盛り上がっているようだが、失礼してもいいかな?》





「ん?」

【誰かがドアをノックしてるわね】

『相談者さんでショウか? でもなんか、どこかできいた事のある声のようナ……」



「たしかに……まあ何にせよ入ってもらおうか。どうぞーっ」



《それでは遠慮無く》



「なっ……!」

【っ……これは…………意外な人物のお出ましね】

『わあ、生徒会長さんデス!』



《はっはっは! いかにも私が私立天冥てんめい学園三十三代生徒会長――青龍寺せいりゅうじ燈穂あきほだ》



「ちょ、ちょっと待ってください……どうして会長がこんな所に?」

《これは異な事を。生徒が『白黒つけよう会』に足を運んでいるんだ。目的は一つに決まっているじゃないか――これだよ》



『ん? なんデスか、手に握っているそれは……ああ、おこわデスね』

《その通り。その日本文化に対する造詣の深さ――素晴らしいよ、白姫・ラ・フワリス君》



『えへへ、ありがとーございマス。でもそんなに難しいお話しじゃなくて、単純においしーから大好きなんデス、おこわ。でも、その俵型にしたおこわが私達とどう関係あるんデスか?』



《それが大ありなのだよフワリス君――おっと失礼。家族でもないのに下の名前で呼ぶのは私の主義ではないのだが、つい》

『あ、おかまいなくデス。私はミックスという事もあってついファーストネームで呼んじゃうって人が多いデスし、その方が仲良くなれマスから。そもそも私も人を呼ぶ時、勝手に下の名前で呼んじゃってマスし』



《ではお言葉に甘えようかなフワリス君。で、本題なんだが……実は今年の文化祭において、生徒会ではおこわの販売を行おうという事になってね。ただこのままでは見栄え的にあまりにも寂しい。そこで外側にゴマをまぶそうという話になったんだ。だが生徒会は多忙を極め、人手が足りない。そこでその道のプロである君達に白ゴマと黒ゴマをくっつける役を手伝ってもらおうと思ってね》



『ん?……その道のプロ……? 一体どういう事でショウか?』

「いや、俺達そういう『つけよう』じゃありませんから……『白黒つけよう会』であって、『白黒(のゴマ)つけよう会』じゃないですから……」



《おお、こんな分かりにくいボケにいち早く反応するとは流石じゃないか、灰咲結人ゆいと君》

「分かりにくいって自覚はあるんですね……その為にわざわざおこわまで用意したんですか?」



《いかにも。ここまで仕込んだのに理解してもらえなかったらどうしよう、と怖くて仕方なかったよ。まあ冗談はここまでにして本題だ――この紙を見てほしい》

『ん? なんデスかこれは?……ああ、これは妖怪のイラストですね。ええとたしか……砂かけババアと子泣きジジイ、デスね』



《重ね重ね素晴らしいなフワリス君は。ここまでこの国を愛してくれて日本人として嬉しく思うよ》

「えへへ、ゲゲゲの鬼太郎は素晴らしい作品デスからね」



《ちなみに私の一番好きな妖怪は、子泣きジジイではなく『こぶとりジジイ』だ》

「いやそれ妖怪じゃないですよね……」



《そして二番目に好きな妖怪は『おできうばい』三番目は妖怪『イボしまい』だ》

「いや聞いた事ないですけど……皮膚を綺麗にしてくれる妖怪シリーズとかないですから……」



『あはは。あれ? でもこの子泣きジジイ……腹掛けが黒いデスね。だいたい赤とか青で、この色のパターンはあまり見た事ないデスけど……」



《そこに気付くとはなんたる慧眼。『白』い髪の砂かけババアと『黒』い腹掛けの子泣きジジイ……という事は?》

《?》

「?」



《そうだね、『白黒つけよう会』じゃなくて『白黒老け妖怪』だね》

「いや分かり辛いにも程がありますよね……辿り着くまでの行程が長すぎますし……シンプルというか、もっとはしょったボケにしてもらわないと、流石に反応できませんけど……」



《そうだね、プロテインだね》

「パッションしたボケをしろとは言ってねえよ!」



《………………》



「はっ!……す、すみません青龍寺会長、ついタメ口で……」

《はっはっは、構わないさ。普段からふざけすぎて生徒会でも白い目で見られる事が多いからね》

「いや、それはどうなんでしょうか……」



【ちょっといいかしら、灰咲君】

「ん? どうした黒妃くろき、そんなに真剣な顔して……」



【この紙を見てほしいんだけど】

「なんだ? なんか殴り描きのイラストがいくつか…………えっと寿司屋で……食べ終わった客が何かを頼み込んで……悩んだ末に大将がオッケーサインを出してて……なんだこりゃ?」



【じゃあ大ヒント。ネタの種類はノドグロで、お客が支払いを次に来店した時にしてほしいとお願いして、大将がそれを渋々了承したという場面なんだけど……分からない?】

「えっと……正直、さっぱり……」



【『白黒つけよう会』じゃなくて『ノドグロツケ了解』なんだけど】

「分かるか! お前のが一番原型ねえわ!」



【会長が私を差し置いてボケまくるからつい、ジェラシーで……】

「いや、張り合うとこ完全に間違ってるからな……」



【それにしても、噂通り愉快な方なんですね、青龍寺会長】

《いやいや、君こそ中々のこじつけボケだったよ。そして間近で見ると噂以上の美貌だ。『黒の絶対女王ブラックマジェスティ』――黒妃清香さやか君》



【ありがとうございます】

《そのおふざけ精神には非常にシンパシーを感じるよ。どうだい『白黒つけよう会』を捨てて私とお笑いコンビ、『青黒イボしまい』を結成してみないか?》




【……謹んで辞退します。というか貴女の方がお笑いは無理ですよね? 一部報道にもあった通り、卒業後は進学ではなくすぐさまビジネスの世界に飛び込むんでしょうし】

『ん? ビジネスの世界?……アキホは何かもう進路が決まっているんデスか?』



【あら、相変わらず校内情報に疎いのね、フワリス。この人に関してはもう進路とかそういうレベルではないの――青龍寺という響きに聞き覚えはない?】

『アキホの名字にデスか? でも青龍寺っていえばSRGくらいしか思い浮かびまセンけど……』



【そう。SRGなのよ】

『………………え? ま、まさか、アキホはSRGの関係者なんデスか?』



【そう。金融・建設・食品・IT――その他ありとあらゆる産業に根を張り、その全てで圧倒的な業績を誇るSRGグループの――関係者どころか、総裁令嬢なのよ、この人は】

『ちょ、超お金持ちじゃないデスか……SRGの名前は日本に来る前の私でも知ってまシタよ……』



「まあ……もう金持ちとかそういう次元じゃないけどな、あそこまでの企業になると。総裁である青龍寺ノ木国のぎくには長者番付の常連で、総資産はたしか何兆ってレベルだったはずだ」

『はえー、たしかにただのお金持ちとはレベルが違いマスね……それにしても、アキホもなんデスね』



《――? おや、私の他にも誰か、著名人の子息や息女がいるのかな?》

『はっ!? よ、余計な事を言ってしまいまシタ……わ、忘れてくだサイ!』



《過去の相談者に関する事かな? まあ悩みというプライベートな部分に携わる者の倫理として当然だね。だがそれはひょっとして――花宮はなみや重光しげみつ議員の事ではないだろうか?》

『な、なんでソレを――はっ!? つ、つい反応してしましまシタ……』



《はっはっは! 分かり易いなフワリス君は。まあ種明かしとしてはごく単純だ。聞いたんだよ。花宮氏とは先日会食をする機会があってね。そこでちょっとした愚痴を漏らしていたんだ。

『君と同じ高校に通う息子の性根がねじ曲がっている』

『校内の悩み相談同好会にて相当痛い目を見たようだ』

『これを機に改善が見られるといいのだが……』

といった具合のね。一国の総理候補とまで呼ばれている彼だが、一人の親としてはごく普通に悩んでいるようだね。まあそんな人間臭い所が彼の魅力なんだろうが――おっと、話が脱線してしまったね。つまり何が言いたいかというと、君が守秘義務を破った故の勘付きではないから安心してほしいという事だ》



『そ、それならいいんデスけど……ってちょっと待ってくだサイ。守秘義務も勿論大事デスけど――花宮議員と会食って言いまシタか? いくらSRGの息女とはいえ、一介の高校生ガ?」



《ああ、その日は父がどうしても外せない用事があってね。名代みょうだいとして私が出向いたという次第だ》

「あ、あのSRG総裁の代わりを務めたって事デスか?」

《まあいずれ私はその座に就くわけだからね。父には及ばないが、今回の会食に関しては議員も満足してくれたと思っているよ》



【フワリス、この人に常識を求めては駄目よ。入学した年の10月には、天冥史上発の一年生生徒会長就任。『面白さ至上主義』を掲げ、生徒からの要望――学園内の『つまらない』を広く募り、そこで集まった意見に沿ってすぐさま校則の半分を刷新。一部運動部に偏っていた部活の予算を、成果に応じた公正な比率に再分配。裏でハラスメント行為に及んでいた教員を辞職に追い込む等、信じられない速度で成果を上げ、当然の如く二年次の十月にも再選。各分野のスペシャリストを部活のコーチとして招聘。誰もが知っているような識者を呼び講演会を開催。不登校だった生徒を、自ら家に赴き復帰させ――勿論無理矢理とかじゃなくて、その子は今現在毎日楽しそうに過ごしているわ――そして最近では教師の長時間労働問題にまでメスを入れ『日本の将来を担う五人のスーパー高校生』としてニュースでも特集を組まれたの。さらにはここまでの激務をこなしながら、入学以来全国模試十位以内から一度も落ちた事がないというおまけ付きよ】



『な、なんデスかそれ……まるでマンガじゃないデスか……」

「ああ……家柄がどうこうじゃなくて、ただ単純に本人のスペックが超人的なんだ。コーチとか講演会の件もSRGのコネや金を使った訳じゃなくて、個人的交渉の結果で、学園の予算内に収まるギャラでOKを貰ったって話だし……」



『ほええ……なんかいつの間にか学校生活が快適になっていくな、って思ってまシタけど……全部アキホのおかげだったんデスね。ありがとうございマス!』

《礼には及ばないさ。私はいずれ世界中を自分の色に染め上げようと思っているからね。一学園を丸々生まれ変わらせるくらいやってみせなければ、到底その夢には届かない》



『ほわぁ……』

《ん? どうしたフワリス君。私の身体に何か付いているかな?》



『あ、いえ。能力とか志も素晴らしいんデスけど――顔もクールな美人さんデスし、なにより反則的なボディをしてるな、と思いまシテ……どうやったら一体そんなに育つんデスか?』

《まあ肉かな。肉を食べておけばこの世の大半の悩みは解決するものだよ》



【灰咲君。『お前ももっと肉食えよ』みたいな目でこっちを見るのをやめてもらっていいかしら】

「いや、見てないから……」



『そうデス。それは誤解デス、サヤカ。ユイトはさっきからずっとアキホの方をイカ臭い目で見ていますカラ』

「そんな目を発見したらノーベル賞ですけど!」



『ああ、『いかがわしい目』と間違いまシタ』

「あんまり意味かわんねえじゃねえか……」



『でも、おっぱいにチラチラ目が言ってたのは事実デス……』

「うっ……い、いや、それはなんというか反射というか……す、すみません会長!」



《はっはっは! 構わないさ。変に否定したり取り繕ったりするよりも、余程好感が持てる。まあお褒めの言葉や視線はありがたく受け取っておくが、私の話はこれくらいにしようじゃないか》



【……そうですね。今重要なのは、貴女自身よりもその目的です。青龍寺燈穂が、自分で解決できない悩みや謎があるとは思えません。さっきはおふざけでうやむやになってしまいましたが、私達――『白黒つけよう会』にどういうご用なんですか?】



《まあもっともな疑問だ。回りくどいボケは好きだが、結論をうやむやにするのは好みじゃない。私の目的を端的に述べるのなら――》




《この『白黒つけよう会』を――潰しにきた》





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