第11話 『上』と【下】と「下の下」
【あら、ついに自らドMだと認めたのね、
「ち、違うっての。シミュレーション――あくまで、もし自分が極度のドMだったらって仮定して考えてみたら思いついたってだけだから」
【恋愛相談における『これって友達の話なんだけど……』と同じくらいの信憑性ね】
「ほぼゼロじゃねえかそれ…………まあいい、今問題になってるのは『賢者の贈り物』状態になった
《そうなんだよ……アタシが実際そうだし、アイツだって絶対そう思ってくれるはずなのに……ああ、でもこれ、こうあってほしいって自分の気持ちを勝手に押し付けてるだけかも……ひとりよがりなのかな?》
「ああ、そうだな」
《…………うう》
「いや、勘違いしないでくれ
《……え?》
「お互いにプレゼントする事が決まった時、骨山はおそれらくこう考えたはずだ。『どうしよう……このままでは
《た、たしかに……アイツ、しょっぱなは自分だけ贈るって言ってきかなかったな……そんなのありえないから『うるせぇ!』って言って無理やり納得させたけど……》
『ええと……ユイト、意味が分かりまセン。なんでショータローは最初、プレゼントをもらう事を拒んだんデスか?』
「対等になってしまうからだ」
『へ?……それの何が問題なんデスか?』
「問題大ありだ。ドMの骨山にとっては、鬼塚は常に上にいてほしい存在だし、自分は必ず下にいなければならない。そして口癖からして、彼は自分を愚か者だと捉えている節があった」
【灰咲君、まさか――】
「ああ、おそらくはそのまさかだ。骨山は『賢者の贈り物』の話を知ってたんだろうな。そしてそれをベースに計画を立てた。互いが互いを思って、というのがこの物語の美しいところで、それが片方だけであればただの空回りだ。自分だけがストーリーをなぞる事で、『二人の賢者』ではなく一人の愚者という立場を作ろうとした」
『ま、まさか……それだけの為に、大事にしていたプレミアのスマートウォッチを売ってしまったんデスか?』
「ああ。互いに対等の立場でプレゼント交換をしてしまっては、今後の豚活動に支障が出る……だから自分だけ身を切る事によって己を下に落とそうとした」
『ち、ちんぷんかんぷんデス……』
「ああ、言っちゃ悪いが異様な考え方だ。自分だけが大事なものを失って鬼塚にプレゼントをした。その事実だけで骨山の自尊心――いやこの場合は
【でも、偶然鬼塚さんが髪を切った事で、片方だけではなく、どちらも物語にリンクしてしまった】
『……あれ? でも昨日、ショータローはキラリが髪を切ったのを見た時、悲しそうにはしてなかったんデスよね? 何か感情の動きがおかしくないデスか?』
「いや、おかしくないんだ。鬼塚が髪を切る事だけなら何も問題はない。むしろ、櫛が無意味になってしまったという事で己の空回り感が増し、骨山の自豚心はより満たされる方向に向かっただろう」
【何気に気に入っているようだけど、スベってるわよ、自豚心】
「うぐっ……ご、ごほん!……とにかく、思い出してみてくれ、
『ええと……今日、キラリがモデルの仕事の為に髪を切ったって伝えた時デ――ああっ!?』
「そう。鬼塚が気分で髪を切ったのならむしろ好都合だった。だから昨日の骨山は無邪気に似合うと褒めていた。だが、それがプレゼントの為の資金捻出に結びついていたのなら――話は全く変わってくる」
『じ、自分だけが愚か者だったのに、ショータローとキラリ、二人が賢者になってしまったカラ……』
「ああ。骨山の計画は完全に崩れ去った。『綺羅理様と対等の立場になってしまった自分に、豚と呼ばれる資格はあるんだろうか?』……アイデンティティーを喪失した彼は絶望の淵に立たされた…………まあ長々と語ってきたけど、これはあくまで仮説で――」
《っつざけんな!!》
「っ!?……わ、悪い鬼塚。お前の気持ちも考えずにベラベラと――」
《いや、そうじゃない……あんがとね、灰咲。アンタの仮説、おそらくほぼ合ってるよ……アタシがきいてもアイツならそう考えるだろうな、って思いっきりしっくりくるから。アタシが腹たったのはあまりのひとりよがりさ加減にだ……このままじゃ腹の虫がおさまらない》
『キ、キラリ落ち着いてくだサイ! たしかにショータローの考えは極端だと思いますケド、まずは話し合いデ――』
《あー、それも違うんだわフワっち。アタシが腹立ててんのは自分自身……アイツのドM具合を把握できてれば、その場で気づいてやれたのに……ドSの風上にもおけないじゃんか!》
『え?……そ、そっちなんデスか?』
《馬鹿馬鹿! アタシのクソ馬鹿野郎! こんなんじゃアイツに申し訳が――》
〈綺羅理様ああああああああああああああっ!〉
「うおっ!?」
『び、びっくりしまシタ……』
【誰かが思いっきりドアをドンドンしてるわね……もしかしなくてもあれって――】
《しょ、正太郎だ! 悪い、ドア開けるぞっ!……………………………………………おいオマエ、アタシがここにいるってよく分か――って…………は?》
〈ああ、綺羅理様、ようやく会えましたっ!〉
《な、なんでオマエ……丸坊主になってんの?》
〈は、これには深い訳がありまして……それを説明するにはまず、アメリカの古い物語の話をしなければなりません。賢者の――〉
《ああ、それは知ってる。お前が自分だけ愚者になろうとしたって話だろ?》
〈な、なんと……流石は綺羅理様、なんたる聡明さでしょうか。この愚か者の考えなど、全て見透かされているのですね〉
《いや、それは後ろにいるこの三人のおかげなんだけど…………まさかオマエ、私が髪切ったからって自分を更に下にする為に頭丸めてきたのか?》
〈いえ、それは違います綺羅理様〉
《え?》
〈頭だけではなく……下も含めて全身くまなく剃って参りました〉
《ぜ、全身って……この短時間でか?》
〈はっ! 急ぎで作業した為、ヒリヒリしております……が、それもまた心地よし〉
《オ、オマエって奴はどこまで………………………………………………………………ぷっ!……あははははははははははははははははっ!!》
〈き、綺羅理様?〉
《は……腹痛い! は、ははっ!……一体どこまでドMなんだよオマエ》
〈め、面目ない……そして今回は一人で暴走してしまい誠に申し訳ございませんでした……もしや愛想をつかされたのではないかと、いてもたってもいられず――〉
《バーカ、オマエみたいなド変態、アタシ以外の誰が相手できるってんだよ――この豚!》
「き、綺羅理様……」
《……どうだ?》
〈も、戻りました……感覚が戻りました! さ、最高に気持ちいいですっ!!〉
《そうか――この豚!》
〈は……はっふうううううんっ!〉
《は、はは――この豚!》
〈あひいっ!……お、おやめください……それ以上は……それ以上は昇天してしまいます!……ああ、でもそれもまた一興かっ……〉
「…………俺たちは一体何を見させられているんだ?」
【……でもまあ、一応ハッピーエンドという事でいいのかしら?】
『あはは……究極に対象的というかなんというか……とにかくお似合いなのではないでショウか』
《灰咲、
「はは……まあ結局当人同士が自分達でカタつけちゃったけどな」
《いやいや、結果的にはそうだったけど、仮説はばっちり合ってたわけだし、すげえよ灰咲》
〈おお、貴方がこの愚か者めの思考を解き明かし、綺羅理様のお力になってくださったのですね。灰咲殿、深く……深く御礼申し上げます――という事で踏んでください〉
「なんで!?」
〈これしか感謝を表す方法を知りません……自分、不器用ですので〉
「怒られるからそういう使い方やめような……」
【骨山君、残念ながらこの人もドMだから踏むのは無理な相談よ】
「いや、俺は違うって言ってるだろ……」
【むしろ、ご褒美として鬼塚さんに踏んでもらいたいと思っているわ】
「思ってねえよ!」
【でもね、灰咲君。物語の締めとしてはこれ以上ない絵面なの。貴方が踏まれた所で画面が止まり、だんだんカメラが引いていって最後にはGET WIL〇が流れ出すんだから】
「そんなだせぇ終わり方のシティーハン〇ー見たことありませんけど!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『いやー最高デス、ユイト! 素晴らしいものを見せてくれてありがとうございマス。とてもドキドキしまシタ!』
「いやいや、だから俺はほんとに何もしてないって。さっきも言ったけど解決したのは本人達だし」
『でも、今回もユイトの直感は冴え渡っていまシタよ。それに一番大事なのは過程ではなく結果デス! モヤモヤしていた謎が解明されてキラリとショータローがハッピーになれたんなら、私もとてもハッピーです!!』
「はは、大興奮だな
『はい! 絡み合った謎が紐解かれるのはやはり爽快デスから。えへへ……でもこれで私とユイトはお仲間デスね』
「ん?……どういう意味だ?」
『どういうって、興奮仲間に決まっていマス』
「興奮? いや、俺は別にそこまでテンション上がってる訳じゃないぞ」
『あ~、ユイトは嘘つきさんデスね』
「何言ってるんだ白姫? 全然意味が――」
『議論の途中で私に豚さん呼ばわりされた時――ちょっと興奮してまシタよね?」
「ぶっ!?」
『あの時、サヤカがボケで過激な事を言ったんでカモフラージュされちゃいまシタけど――私の目はごまかせまセンよ』
「ど、どうしてそれをっ――じゃなくてち、違うわ! 興奮なんてしてねえし!」
『あはは! ユイト、なんですかその反応ハ。ちょっとふざけて言ってみただけなのに、ここまで動揺するナンて』
「なっ……だ、騙したのかお前!」
『ふふん、ひっかかる方が悪いのデス。それにしてもユイト……本当にドMさんなんデスね』
「ち、違う! 骨山みたいな上級者じゃないんだ俺は! ただちょっと……ほんのちょっとだけ、悪くないなとか思ったりしたりしなかったりでだな……」
『踏んであげまショウか?』
「なんで!?」
『私、人に厳しい事を言ったり責めたりするの、とっても苦手なんデスけど……ユイトにだけはそういう事したくなっちゃいマス』
「何かに目覚めようとしている!?」
『はっ!、もしかしてこれが……母性本能デスか?』
「100パー違うと思います!」
『あはは、冗談デスよ、冗談。私にはそういう趣味はないデスから。でも、ユイトが本当に望むんなら……ふふ、いつでもやってあげマスよ』
「だ、だからそんなの必要ないって言って――」
【さっきから録画していてあとはズームアウトするだけだから、早くしてもらえるかしら】
「お前はいつまで GET W○LD流そうとしてんだ!」
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