第3話 『ベロチュー』と【PTA】と「チンチン電車」

【あら、灰咲はいざき君は『花宮はなみや出会い頭ベロチューねじ込み大作戦』には反対かしら?】

「いやいやいや、反対に決まってるだろ黒妃くろき……それがこの『白黒つけよう会』のコンセプトとはいえ、いくらなんでも極端すぎるわ」



【じゃあきくけど、かわいい女の子とベロチューするのが嫌な男子なんている?】

「それは時と場合によるだろ……」



【仕方無いわね。じゃあ『TPOをわきまえた出会い頭ベロチュー大作戦』に変更するわ】

「出会い頭の時点で弁えてねえんだよ!」



【仕方無いわね。じゃあ怒られないように事前に承認をもらってからやればいいのね。『PTAに許可を取ってTPOを弁えた出会い頭ベロチュー大作戦』でいきましょう】

「モンスターペアレントってレベルじゃねーぞ!」



【仕方無いわね。納得してもらえないのなら、お金の力でなんとかするしかないわ。『ATMでおろした現金を渡してPTAに許可を取ってTPOを弁えた出会い頭ベロチュー大作戦』でいきましょう」

「お前もう三文字が言いたいだけじゃねえか!」



【ちなみに佐藤さん、この作戦はどう思うかしら?】

《へ? い、いや……その……ちょっと過激すぎるかなと……》



【そう。本人が嫌だというのなら仕方無いわね。でもうちのスタイルはありとあらゆる可能性を検討して無いものを潰していく消去法方式なの。ある意味、正解に一歩近づいたと言えるわね】

「どんだけささやかな一歩なんだよ……」



『はいはーい! それじゃあ次は私の案を聞いてほしいデス!』

「お、じゃあ白姫しらひめのプランいってみようか」



『お任せくだサイ! アイは控えめな性格みたいデスから、こちらから直接的にアプローチするのではなく、ソウスケが自分から声をかけてくれるように、アイの魅力を徹底的に磨くのがいいと思いマス!』

《魅力……む、無理です。私に磨くような魅力なんてないですし……》



『そんな事ありまセンよ。アイはとってもキュートです』

《お、お世辞はいいです。さっきも言った通り私は自分に自身がないんです……たとえば髪の毛一つとってもそうです。白姫さんのふわふわしてかわいい純白の髪も、黒妃さんの艶やかで真っ黒なストレートロングヘアーも個性的でとっても素敵……私なんて、ただ周りのみんながやってるからなんていう消極的な理由で茶色に染めてるだけなんです。そもそも顔の造り自体が――》



『わたしが言ってるのは外見の事ではありまセンよ』

《え……?》



『さきほど控えめと言いましたが、それはお淑やかとも言い換えられマス。言葉遣いも丁寧で礼儀正しいデスし、アイは正に大和やまと撫子なでしこと言えると思いマス』

《私が……大和撫子?》



『ハイ! その奥ゆかしさは大きな美点かと思いマス。でも一つ、注文をつけるとするなら……沈んだ表情をする事が多いので、もうちょっと笑った方がいいかと思いマス。男の子なんて案外単純デスからね。女の子の笑顔には弱いと思いマスよ』

《そ、そういうものでしょうか……》



《デスデス! 『性格は穏やかだけどよく笑う女の子』なんてツボにはまる男の子、結構いると思いマスよ。ね、ユイト?》

「お、俺か?……まあそうだな。花宮の嗜好はどうか分からないけど、個人的には――かなりアリだと思う」

《そ、そうですか……》



『……ふーん、デス』

「なんでお前の意見に同意したのにちょっと不満そうなんだよ……」



【私も正直、その方向性はアリだと思うわ】

『おー、サヤカも同意してくれマスか! いつもはもっと反対の極端な意見をガンガン出してくるのに珍しいデス』



【私の案は冷たい風を吹きかけて無理矢理旅人のコートを脱がせようとするようなもの。対してフワリスのものは、熱で温めて自発的にコートを脱ぐように仕向ける……まあ絵本のお話みたいにうまく事が運ぶとは限らないけど、今回はそっちの方がよさそうだもの】



『ああ、イソップ童話にそのようなエピソードがありまシタね。ええと、日本語ではたしか――ああ、『北風と裸の大将』デス!』

「太陽だろ! コート脱ぐどころかタンクトップになっちゃってるじゃねえか!」



【なるほど。コートを脱がせるのと『裸』がかかっているわけね……うまいわ。あ、ちなみに今のは技巧的な『巧い』であって『お、おにぎりおいしいんだな』の『美味い』ではないから勘違いしないでね】

「世界中でお前しかしねえよそんな勘違い!」



《あ、あの……白姫さんと黒妃さん、お二人が言ってくれてるなら私……その方向で頑張ってみたいです》

『おお、やりまシタ!』



「オッケー。基本方針は決まったみたいだな。じゃあ次は具体的な方法だ。意識して無理に笑おうとするとぎこちない笑顔になっちゃうから難しいとは思うけど、なんとか考えてみよう」



【要は自然な笑いを引き出せばいいのね。私はそういう魔法のワードを知ってるわ】

「魔法のワード? 一体それは――」



【チ○コ】

「きょうび小学生でも笑わねえわそんなの!」



《ぷっ……》

「まさかの小学生未満!?」



【チンチ○】

《ぶふうっ!》



「ツ、ツボに入ってる……だと?」



【チンチン電車】

《うーん……》



「普通に言っていい単語では笑わないのか……すげえ冷静に聞き分けてるな……」



【チンチ○と電車】

《ぶふうううっ!》



「『と』が入っただけじゃねえか! どんだけ精密な下ネタセンサー搭載してんだ!」



《あははっ!……く、黒妃さんってこんなに面白い人だったんですね。ここまで容姿の整った人があんな下品な事言うなんて……ギャップが凄すぎて笑っちゃいました》

【そうよ。私はギャップで下ネタの面白さを引き立たせるために、この顔面に産まれてきたの】

「全力でご両親に謝れな、お前……」



【まあ方法としてはあまり褒められたものではないけど、結果としては大成功ね。佐藤さんの笑顔、とってもかわいかったわよ。ね? 灰咲はいざき君】

「ああ。それはお世辞抜きに魅力的だった思う」



【……ふぅん】

「だからなんでお前に同意したのに不満げなんだよ……」



《わ、私が魅力的……ですか?》

「ああ。それは自信もっていい」



《あ、ありがとうございます……でも、そんなに見つめられると…………ちょっと恥ずかしいです》

「え? ああ、ごめんごめん。適当に褒めるのは失礼だと思って、ちゃんと笑顔を見ようとしただけなんだけどさ」



《い、いえ……私が気にしすぎなだけだと思うんで……でも、褒めてもらえて……嬉しかったです》

「うん、ちょっとでも自信に繋がったんだったらよかったよ、はは」



《…………っ!》

「ん? どうした?」



《あ、あう……なんでもありません……》

「? なんかちょっと顔が赤くなってないか? もしかして体調悪いのか? もう少し近くで見せてく――」



《っ!?……へ、平気です! 平気ですから乗り出してこないでくだ――ひゃあああああっ!》

「お、おい大丈夫か!! い、椅子に座ったままそんなのけぞったらコケるに決まってるだろ……」



《ふ、ふええ……ご、ごめんなさい、私ドジでよく転ぶんです……》

「い、いやそれにしたってこれは…………………………うお、すごい体勢でコケたなまた………ほら、手ぇ出して」



《あ、ありがとう……ございます》

「いや、むしろごめんな俺のせいで。そりゃ急に立ち上がったらビックリするよな」



《……引きましたよね》

「え?」



《私の今の転び方です……ドジな上に運動神経も無いんで、受け身も取れずにベチョッ! って感じでっ……》

「まあちょっとビックリはしたけども別に――」



《や、やっぱり私なんかじゃ無理です!……で、でもこんな私でも、今まで何回か男の子とお付き合いした事はあるんですっ! 惚れっぽいくせに自分から告白する勇気はないんで、全部あっちから声をかけてくれたパターンなんですけど――》

「…………」



《でもしばらくすると『暗くて話しててもつまらない』とか『ドジすぎて引く』とかでフラれちゃって――》

「かわいそうだな」



《っ…………ごめんなさい。ちょっとパニックになっていきなり自分語り始めちゃって……でも、同情してほしかった訳じゃ――》

「違うよ、相手の男の話だ」



《え?》

「暗いんじゃなくて大和撫子って、さっき白姫が言ってくれただろ? ドジにしたって、ちょっと抜けてるくらいの方が愛嬌があってかわいいじゃないか。いままでの男達は相手のいい所を見つけるのが下手な、かわいそうな奴らだったってだけの話だ」

《灰咲さん……》



「でもさ、奥手な佐藤が初めて自分からアタックしようと思った相手なんだろ、花宮って。俺は噂程度でしか知らないけど、いい奴なんだろうな。大丈夫、きっと佐藤の長所を見てくれるさ」



《あ、あの……灰咲さん》

「どうした?……って、またなんか顔が赤いな?」



《ひ、非常に申し訳ないんですが……それ以上笑わないでもらえると助かります》

「え? な、なんで?……」

《な、なんでって言われましても……こ、これ以上は駄目っていうか危険っていうか……そ、それと、そろそろ手をはなしてもらえると……》



「あ、悪い悪い! 起こしてからずっと握ったままだったな。でもこれだけは忘れないでくれ。本人がどういう風に思っていようが、佐藤は魅力的だ!」

《――っ!?》



「佐藤はかわいい!」

《――っ!!??》



「だから自信もって花宮に笑顔を向けてくれ。でもさっきの黒妃の笑わせ方は特殊すぎるからな……何か自然に笑えるような別の方法を――」

《…………………………………………………………も、もういいです》



「は? もういいってどういう事だ? まさか諦めたのか?」

《ち、違います……もう、花宮さんの前で笑う必要がなくなったというかなんというか……》



「佐藤?……悪いが何を言ってるか――」

《あ、あのっ……あのあの……灰咲さんっ! よ、よろしければLINEのアドレス交換してもらってもいいでしょうかっ?》



「え? 俺?……しかもこのタイミングで? 今回の件の報告用って事か?……まあ別に構わないけど……………………ほれ、これ読み込んでもらって」

《あ、ありがとうございますっ!……で、では私はこれでっ!》



「は? まだ何も解決して――」

《く、黒妃さん、白姫さん……ごめんなさい!……ほんとにごめんなさいっ!》



「ん? なんでそこで二人に謝るん――っておい佐藤ちょっと待っ……………………

………………………ど、どういう事だ? とめる間もなく猛ダッシュで出ていっちまったぞ……」



【はあ……】『ふう……』

「うっ……ふ、二人して溜息……わ、悪い……俺なんかミスったか?」



【ええ】『はい』

「だ、だよな……相談者が途中で帰っちゃうなんて今まで一回もなかったもんな。俺、ちょっと追いかけてく――」



【いえ、その必要はないわ。彼女の問題は完全に解決したもの】

「は……?」



『はい。というよりも、問題自体が消滅シタ、という方が正しいかもしれまセンが』

【ええ。そして新たな大問題が発生した、という事ね】



「ふ、二人とも一体なに言ってんだ? なんか謎かけでもしてんのか? 俺に悪いところがあったなら具体的に教えてくれ……俺は一体どうすればいいんだ?」



【『爆発』】



「なんで!?」





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