第9話 メガネ女子失敗?
その日一日、目黒君は私と目を合わせないように過ごしていた。私が話し掛けようとしても、わざとらしく私から離れていく。昨日までは普通に会話していたのに、急にどうしたのか。考えられる理由は一つだが、そうだとしたら私の努力は無駄になってしまう。
「みさと、これってやっぱり、私のメガネ姿が似合ってない、のかなあ。それか、一週間たって、急に私のことが嫌いになったのか」
「いやいや、似合ってないとか、嫌われているっていうか……ねえ」
昼休み、いつものようにみさとと一緒にお弁当を食べていた。今日もまた、目黒君はクラスメイトの男子と購買に出掛けている。お弁当を持ってきている日もあるが、購買に出掛ける日も多い。
「目黒君って、購買に行くこと多いよね?」
「まあ、言われてみればそうかも。仁美は料理ってできた?」
「できないことはないけど。どうして?」
「どうしてって、そりゃあ」
みさとは、ちらりと私を見て大きな溜息を吐く。何か言いたそうな顔をしていたが、何が言いたいのだろう。結局、最後まで言葉にすることなく、親友はお弁当箱を開ける。
みさとの今日のお弁当は、キャラ弁だった。お弁当箱のふたを開けると、そこにはご飯の上に海苔で最近流行しているアニメのキャラが描かれていた。おかずはまた別の容器に入っているらしい。毎日、親友の母親は頑張っているようだ。
ちなみに私は、いつもと同じよう卵焼きにソーセージ、そして今日は昨日の夕食の残りの肉じゃがが入っていた。私たちは小声で「いただきます」の挨拶をして、各自、弁当を食べ始めた。
「それで、午前中が終わったわけだけど、メガネをかけてみてどう?」
「どうっていわれても……」
お弁当を食べながら、みさとが話しかけてくる。この場合、どう答えたらよいものか。
「かけたことなかったから、最初は鼻とか耳に違和感があったけど、慣れればどうってことない感じかな?視界は変わらないから、本当の意味での『メガネ女子』の気持ちはわからないけど」
「視界の変化は、確かに目が悪い人にしかわからないからね。あの、メガネをかけて視界が開けたって感じは何とも言い難い」
「目黒君たちが戻ってきた!」
話していたら、購買から目黒君たちが教室に戻ってきた。しかし、今日はなぜか、目黒君は自分の席には戻らず、クラスメイトの男子たちとお昼を取るようだ。私の隣の席に戻らず、他の男子たちの集団についていく。
男子の集団が席について、各々食事をとり始める。その中に目黒君がいるという光景は初めてで困惑する。すると、男子の一人がこっそりと私たちに近付いてきた。
「日好さん、メガネ、やめたほうがいいかも」
「なんでそんなこと言われなくちゃいけないの?」
親友にも母親にもメガネ屋さんの店員にも似合っていると言われたし、自分自身も悪くないと思っている。それなのになぜ、赤の他人のクラスメイトの男子に忠告されなくてはいけないのか。とはいえ、一番メガネ姿を褒めて欲しい相手には無視されている。しかし、それとこれとは話が違う。
「いや、だって、あいつさ……」
「はいはい。ワカリマシタ。仁美、こいつは親切で言っているから、そんなに怒らないでよ」
私の不機嫌さを察知したみさとがクラスメイトの男子との会話に口を挟んでくる。理由なんて別にどうでもいい。他人に自分の宣言したことを否定されるのが腹立たしい。
「ま、まあ、俺はしっかりと伝えたからな」
男子はそのまま、目黒君たちがいるグループの机に戻っていく。取り残された私とみさとは顔を見合わせて大きな溜息を吐く。
「見た?あの男子の顔。仁美、あんたって結構、罪深き女だったのねえ」
「さっきから、みさと、おかしなことばかり口にしているけど、頭大丈夫?病院にでも行った方がいいんじゃない?」
「いやいや、私の頭はいたって普通。やばいのは仁美の方だから」
「はああ!私はおかしくない!ただ、運命の人に出会っただけの幸運な人だから!」
親友にやばいと言われたら、反論するしかない。つい、興奮して大声を出してしまった。しかし、昼休みということあり、教室内はざわざわと騒がしかった。私たちに興味を持つクラスメイトもいたが、特に何か私たちに話し掛けてくるクラスメイトはいなかった。
「今日の宿題、終わっていないんだけど、仁美は終わった?終わっているなら、写させて!」
お弁当を食べ終えて片づけをしていたら、みさとが悲痛な顔で私に訴えてきた。
昼休みもあと3分くらいで終わるというタイミングで、目黒君はようやく自分の席に戻ってきた。チラリと横目で見るが、目が合った瞬間、すぐに目を逸らされた。
「羽田さん、宿題は自分でやるものだよ」
「目黒君に写させてもらう訳じゃないから、関係ないでしょ」
「そうだけど……」
私が話しかけても逃げるか無視するのに、なぜ、みさととは普通に会話しているのか。みさともどうして、私の許可も得ずに目黒君と話しているのか。
「ごほん」
私が睨んでいるのに気付いたみさとが、大げさに咳ばらいする。
キーンコーン、カーンコーン。
「うわ、どうしよう。仁美のせいだよ!あの先生、地味に宿題やっていない人に当てるんだよ」
「別に私のせいじゃないでしょ」
ガラガラガラ。
「静かにしろよー。授業を始めるぞ」
チャイムが鳴り、教室に先生が入ってきた。5時限目は英語だ。
宿題くらい、家でやるのが普通だ。学校でしかも友達に写させてもらおうとするなんてありえない。私は前の席で唸っている親友を見ながら、机の中から5時限目に使う英語の教科書とノートを開いた。目黒君もまた、私と同じようにすました顔で授業の準備をしていた。
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