第4話

電車は目的の駅に着く。

そこは海が綺麗な田舎だ。


駅のプラットフォームから見える水平線はまるで青春。

セミの声と、全てを包み込むような日差しはまるで子供の頃の夏のよう。


俺は烈日に照る太陽に手の平を向け、隠し切れず零れる太陽の光に目を細める。


「夏ってこんな熱かったっけ……」


街にいるときとはまるで違う。

街の蒸し暑いそれとは違ったずっとシンプルな暑さ。


人も少なければジャングルのようなコンクリート群も無い。

それに土があるからこその暑さなのだろう。


目を細めて見る青い空には龍の影が映る。

入道雲にポツンと穴を開けて行く龍。


「……気持ちよさそうだな~」


あんだけ風を浴びれたら暑さなんて物じゃないだろうな。


そんな自分勝手な不満を神は聞き入れてくれたのか

海風が「バッ」と俺の全身に取り巻く。


この田舎は相当に気持ちが良いな。

きっと初めての土地ってのも気分が晴れてる所以なのだろうが……正直住みたい。


俺は吹き荒れる海風に俺は柄にもなく髪を掻き上げたりする。

こんな場所だ、海風に煽られちゃ少しはカッコ付けたくなるもの……。


そんな自分にも嫌気が刺してきた俺はトボトボと歩きながら

紗代がメモってくれた住所を地図アプリで検索する。


そこには行先までの経路が奇しくも駅から一直線に伸びていた。

距離にして約3km、田舎町を中程行った家にピンは刺さっていた。


一直線、今までの事があるからか余計に疑ってしまう。

見方によっては最深部まで獲物を誘き出し捕食するアリジゴクの罠だ。


しかし幾千年ループしてきて初めての可能性が目の前にあるんだ。

たとえ罠だとしても行かない理由は無い。


「よし……行くか……」


今までになかった希望を前に変に緊張しているのだろうか。

喉を伝ったその声はどこか震えていた。



歩き始めて数十分。


平日の真昼間という事もあって辺りは静寂に包まれていた。

車の音も人の声もジリジリと照らされる太陽の元には顔を出さないようで。


歩いている場所は多少の家々に囲まれていると言うのに

セミやらの虫の音がどこからともなく聞こえてくる。


「こんな熱いのに良くやるな」と思いながらも

俺はジリジリと焦げたアスファルトの上を黙々と歩いて行く。


……そういや龍。


忘れていた訳じゃないがあまりにも存在感が無さすぎる。

龍は相変わらず悠々自適に空を泳ぎなさっている様だが……何もないのか?


それにあんなデカいのが現れたとなると町中大騒ぎになりそうだけな。

人の声がしないとなると……もう事後の可能性が出てくるのか?


なんて冗談を挟みながらもただただ歩き続ける。

その間龍も相変わらずで、試練も障害もなくあっさりとその場所に着く事が出来た。


「着いたな」


そこは瓦屋根の一軒家だった。

ここらの家は大部分が田舎臭い瓦屋根の家。 


本当にループしてる人間なんて居るのか疑わしくなる。

一般人に白い目を向けられても可笑しくない状況だ。

それはビルから飛び降りる事よりも龍に食われる事よりも怖い事。


俺は紗代の書いた住所を何度も何度も確認する。

2回程して諦めのついた俺はインターホンを押した。


コンビニの入店音のようなしつこい音が響く。

しかしそればかりで一向に人が出てくる気配は無い。


「……すいませーん!」


声を上げるが扉の先はうんともすんとも言わない。


「……いないn」


俺がそう呟き終わる間も無く引き戸は勢いよく開く。


そこには細々とした体形をしたおっさんの姿があった。


……この人がループに通ずる人間?

ただただ関わりたくないタイプのおっさんにしか……。


「えっと……貴方がループを?」


「あぁ、君の妄想が大体あってる」

「俺はタイムリーパーだよ」


なんで……知ってんだよ……妄想を言いふらす趣味なんてないぞ!?

そんなのタイムリーパーだからじゃ片付けれない!


「君は……なぜこの多次元世界から脱出したいんだ……」


タイムリーパーは顎にちょびっと生えた髭を触りながら

タイムリーパーらしい発言をする。


多次元世界……ループの事?


「君は何かを成し遂げたいんだろ?」


どこか無気力なその声は、まるで俺を試すような発言をする。


俺の目は泳ぐ。

血が体中を周って全身がむず痒くなる。


表面的な付き合いじゃない本音……たとえ赤の他人だとしても……。


「……否定なんてしないよ……俺は未来人だぜ?」


なんだよそれ……知ってて言ってんのか……。


その発言は俺を励ますどころか追い込むようで……。


「……声優に……なりたいです」


「そっか」


それを聞いたタイムリーパーはどこか切なげな表情を浮かべ片手で自分の顔を覆う。


「良い夢じゃないか……」


タイムリーパーはもう片っぽの手で俺の方を指差して来た。


「……ごめん」


なんで謝って……?

……後ろ?


俺はそっと後ろを振り返る。


そこにはこっちに向かってくる龍の顔があった。





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