第3話

7月2日火曜日


朝、親に心配されないよう学校の登校する時間に合わせ皆とは真逆の電車に座る。

ガタンゴトンと揺らされる体なんて二の次で俺は一人永遠と考える。


電話先の誰かはなんで俺がループしている事を知っているのだろうかと。


俺のループを知っている人間なんて片手で数える程も居ない。

公の場だって、ましてやSNSなんて場所でさえループを告白した事は一度も無い。


なのに奴は知っていた。


それにタイミングも妙だ。

ループを告白したその周に合わせて紗代に電話を掛けていた。


それとも紗代が『ループ』という単語に反応して話が進んだだけで

裏では毎周毎日電話して来ていたのだろうか……。


流石にそれはあまりにも無謀だ。

そんな気が遠くなるような事をさせる恩も恨みも売った覚えは無い。


俺がループを告白する日を当て、そのタイミングで電話をした誰か。

という考えの方がまだ狂気じみてないまともなラインだろう。


しかしそれは未来でも見てるような立ち振る舞い。

もしかすると電話の相手は未来人もしくはタイムリーパーなのかもしれない……。


なんてのは考えれば考える程見当が付かない。

これこそ則包の言っていた妄想その物だ。


後数十分で会えるんだ、考えるだけ無駄かもな。



窓から反射する太陽の光は誰もいないこの空間を埋めるようにどんどんと

伸びその光は夏制服の黒いズボンにも浸食してきている。


その影を追って視界を上げていくと

この車両には俺一人となっていた。


どこか浮ついた気持ちになる。

今からタイムリーパーなんてループの元凶と思わしき誰かに会う状況じゃなかったら

ワクワクする歌に身を任せ歌ってたかもしれないのに……。


心情的にはもうフーガト短調だ。



綺麗な入道雲と増える緑の田んぼと山で田舎の気配をどんどんと感じさせる。


俺の浅い記憶内では今までループして来て田舎なんかに来た事は一度もない。

緊張の中、若干のワクワクがうろつき周る。


……いや、来た事なかったか?

でもいつぞやの仲良かった奴が……あぁ分かんねーなー。


そう感傷に浸りながら外の景色を見ていると

いつの間にか忘れていた過去の思い出が掘り起こされていく。


バンド組んだ時、あれは楽しかった。皆捻くれた性格してたけど良い奴だった。

次は演劇部だったか? 文化祭はできなかったけど楽しかったな。

他にも当てのない旅に出たり……格ゲーの台から色んな奴と遊んだ事もあった。


どれも総じて学生らしい青春を謳歌している。

きっとどれもループしなきゃ味わえなかった青春だろう。


だからと言って『ループしてよかった』なんて良い終わり方はしないと思うが。


……なんだ? あれ?


脳内会話が途切れる程の前例の無い何かが山の向こうを飛んでいた。

……いや何かじゃない、俺はこいつをアニメかなんかで見たことがある。


「……龍? ……なんだよ……龍って……意味分かんねぇ……」


長らく生きて来て初めての相手だ。

4~5m程の巨体は神聖な雰囲気に包まれ、純白な体を蛇のようにうねらせている。


白龍……伝承じゃあ天上に仕える龍の一種だ。

ということはタイムリーパーの差し金?


タイムリーパーなんて次元を行き来出来るような奴だ。

遺伝委組み換えなんか生物を改造しててもなんらおかしくない。


つーか本当にタイムリーパーなのか?

もし本当にそうだったら


「流石に……勝ち目はないだろ」


明後日の方向を飛んでいる龍に俺は呆然と立ち尽くす。

まるで現実味がない、まるで飛行機の窓から見る外の景色のようだ。


俺が思っていた以上にタイムリーパーってのはすごい存在なのかもしれない。

いらぬと思っていたスタンガンでさえ意味をなさない気がする。


「ただ話すだけで終わったらいいけど……」


到着のアナウンスが電車内に響く。

俺は無駄にスペースの余らせた学校の鞄と約600円の切符を片手に電車を出た。


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