第2話

7月1日月曜日


なぁ、もしこの一ヶ月が永遠に続いたらどうする?

まぁ俗に言うループって奴なのかな?

7月31日に寝て、起きたら1日に戻ってるていう……。


まぁ中々に信じれない話だと思うけど本題はこっからでさ

ある日ループの周が違うだけの同じ授業を受けてたら

板書だった授業が小テストに変わってたんだよ。


一応現象としてバタフライエフェクトってのがあるんだけどそれは小さな変化が時間と共に大きな変化になるって言う……要するにきっかけが無いとダメなのね。

でも小テストが出た日はループの初日、1日目だったんだよ……どう思う?。



日の落ちかけた教室で俺は友達の則包竜太のりかねりゅうたにそんなループの話を仕掛ける。

すると則包はズレた眼鏡を掛け直し、見事な八の字のまゆげを浮かべた。


「え、なにそれ?」

「急にめっちゃ話すじゃん」


「……最近読んだ小説の話だよ」

「流石に飛ばしすぎた……」


放課後の教室。

静寂を破る部活の声と前方から遠慮の無いゲーム音。

それのせいか机の上に置かれた原稿用紙は道半ばで絶えている。


どうやら一日前の俺、6月30日の俺は読書感想文

なんてめんどくさい課題をやっていなかったようで……。


俺は則包を道連れにダラダラと書いては喋ってを繰り返し放課後を過ごしていた。


……絶好の機会なのに……ムズ。


意図せずとも掴んだ絶好の機会。

コイツにならきっと相談出来ると思ったが……。


本音を隠して生きて来た俺にとって電波発言を

告白する勇気はとうに失われていた様だ。


たとえ仲の良い友達だったとしても……いやだからこそか

二言目には条件反射で別の話へとすり替えてしまう。


……これだから俺は……。


いつもの俺ならここで切り上げていてもおかしくなかった所だろう。

しかし俺が飛び降りたときの微かな記憶が相談させるまでに至らしめる。


このまま保留で終わってたまるかよ。


茜色の教室は一日が終わっていくような焦燥感を募らせる。

俺はなけなしの勇気と焦りに身を任せた。


「ごめんさっきの嘘!」

「ループの話……結構マジなんだよ」



「え、ループしてるんですか!?」


一瞬凍り付いた空気の中、すぐ隣の廊下から驚いたような声が響く。


どうやら直接言うのは間違いじゃなかったようだ。

則包と同じ科学部というカテゴリ内から運命は運ばれてきた。


そいつは櫻井紗代さくらいさよ唯二ゆいいにの科学部員だ。

身も心も飾り気のない彼女は正論をところ構わず振りかざすまるで殺人ロボットの様な女なのだが……まさかループなんかに反応するとは……。


今までループして来てなかったパターンだ。

話すだけでこんな有力な情報が出てくるなんて……。


紗代はいつになく興奮しているのか科学部特権の白衣をなびかせ教室に入って来る。


「昼休憩非通知で電話が来たんですよ!」

「『伝えてくれ、ループする君と話がしたい』って……」


「……それ絶対俺じゃん!」


興奮を隠し切れず机を思いっきり叩いて立ち上ると

それを抑え込むように紗代は俺の両肩を持つ。


「一つ教えてください」

「ループってなんなんですか?」


「……原理とか原因の話なら分からん」

「7月31日が終わったら1日に戻ってるんだ」


科学部2人に電話1本で戦うのは心細い。

こんな信憑性もないSFチックな話を信じてくれるのだろうか……。


「となると……ループを知っている電話の相手は一体?」

「私に掛けて来たのも気になる所ですね」


「今までループして来てそれっぽい奴とかいなかったのか?」

「面識が無いと認知されてるはずがないだろ?」


「そんな奴とは会った事無いよ」

「じゃないと相談なんかしてない」


予想外にも電話は絶大だったよう……だが根拠も何も無い

友達2人を巻き込んだファンタジー味のある話は風船のように萎んでいく。


「……そもそもループする理由が無いですよね」

「というかループってなんなんですか?」


いい加減な情報にヤケになったか紗代は哲学に走る。


「んー……もし電話の相手がループを管理する上の存在とかだったら……」

「……実験対象みたいな……そうだったらマジ笑えるけどな」


則包の笑えない冗談に紗代はブホッと笑う。


あくまで他人事かよ……まぁ迷惑かけるよりはマシだけど。


「まぁ~紗代ちゃんが貰った電話が悪戯じゃなかったら分かる話だろ?」

「明日にでも話して来いよ、俺等が考えた所で妄想の範囲内だし」


そう言うと則包は机にドンッとスタンガンを叩き出した。


「俺はお前の英雄譚を聞ける事を楽しみにしてるんだ」

「もっとくだけ持って行ってくれ」


……きっと信じてくれてない。

でも則包の他人事で無神経な発言に俺は安心した。


少なくともこの長い闘いが笑い話にできるって、なんとなくそう思えた。


「不親切に場所は教えてくれなかったので逆探知で番号と場所を割ってます」


「え、そんな事出来んの?」

「非通知だったんじゃ?」


「え……普通に?」


どうやら非通知でも逆探知できるのは普通のようだ。

紗代がそんなユーモアのあるボケをするとはな……アウトレイジ過ぎんだろ……。


そうしていると紗代は即席で番号と住所を書いたメモを渡してくれた。


非通なのはともかく住所が割れたって事は固定電話なのだろう。 

犯人がクソガキとかだったらぶん殴ってやる。


「なんだか……私達と生きてる世界が違うみたいですね」


「まぁ……ありがと」

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