何度も繰り返すこの世界で僕はたった一人の君と恋をする。
きらみあ
第1話
「……ッ!」
安全第一と書かれた腰ほどのバリケードを思いっきり蹴飛ばし
コンビニから拝借した缶ビールを片手に中に入る。
廃墟と化したビルは壁の塗装が剥がれており
見捨てられてから相当の時間が経っているように思えた。
それなりの何かがあったのだろうが俺達はそれを知る事も知る由もない。
「くっせ」
空気に埃が詰まって気持ち悪い。
俺は軽く仰ぎ、ジャンバーのポケットの中からスマホを出した。
俺はスマホのライトで屋上までの階段を上って行く。
この廃ビルは駅から近いというのに誰からも相手にされず佇んでいた。
きっと……このビルはこの町から忘れ去られたのだろう。
車の音も、目まぐるしく光る街頭も、月明りすらもこの場所を忘れている。
誰も気にも止めないこの場所は真っ暗で……外とはまるで別世界だ。
ペンローズの階段のように終わりのない階段。
手持無沙汰な脳は無駄に思考を張り巡らせていた。
一つ一つと階段を上るたびに過去の記憶が掘り起こされている気がして……。
あぁ……なんでだっけ……。
俺がこの一ヶ月を馬鹿みたいにループし始めたのは。
「……何やってんだろ」
俺は登る足を止め、勢い良くビールの缶を開ける。
プシューと吹き零れている事なんてお構い無しに俺はビールを無理やり飲んだ。
「……ッブエ゛!」
速攻でビールを吐く……自分が情けない。
これで酔えるならまだ楽なのに……。
階段に浅く溜まったビールをわざとらしく踏みつけ再度階段を上る。
あぁ……なんでただの高校生がこんな目に合わないと行けないんだ。
もういい加減にしてくれよ……。
俯瞰しているようで自己中心的な考えは毎回似た様な文句を吐く。
俺はこんな病みやすい人間だっただろうか。
俺以外の人間ならこんな無価値な世界でも頑張れたのだろうか?
俺の生きている意味、存在する意味。
何者にも成れなずこのまま生き続ける事になんの意味があるのだろうか……。
俺はもう一度ビールを飲む。
「……ップ……はぁー」
渋い顔をしながらもなんとか一口飲み込む。
俺は半分飲んだかも怪しい缶ビールを適当に投げた。
これまで俺は自分の可能性を信じてここまでやって来た。
でも……どれもピンと来なくて……それの理由がやっと分かった。
……俺は声優になりたかったんだ……。
馬鹿にされると危惧して隠し続けていた夢。それでも生きる意味だった。
あぁ元に戻りたい、成長したい、大人に成りたい。
30も40も無駄にループして何になったってんだよ!
「クッソ!!!」
何かが吹っ切れた。いつか感じたそれと似ている。
俺は言葉にならない程下劣で喉が掻っ切れるような声で叫び続けた。
「こんな意味の無い事!」
頭が重く感じる。なんでこんな目に合わないといけないんだ!
俺の品性もない叫び声はこの廃ビルに響いて行く。
……なんつー声してんだよ……。
自棄になった俺は叫びながら階段を駆け上がって行く。
途中でスマホを落としたがそんなのもうどうでもいい!
今の俺は自分が情けなくて悔しくて仕方がなかった。
全力で叫びながら屋上に出た俺は勢いのまま廃ビルから飛び降りた。
その瞬間パッと視界が開けるような、脳がクリアな状態になる。
「アッハハハハ!!!」
裏返る程の笑い声と共に、俺は地面に激突した。
*
「……ループしたのか」
どうやらカーテンを開けっぱなしで寝てたようで太陽の光で俺は目を覚ます。
永い眠りから覚めたような感覚で全身がだるい。
前回……どうやって終わったんだっけ?
……自殺。そうだ、俺は飛び降りたんだった。
……とりあえず学校行こ。
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