第6話 初デート!(天獄殺生編)

デート。


親しい友人関係、又は交際している男女が時間や場所を決め共に目的地へ向かい楽しむ時間のこと。


俺は自慢ではないがこれまで一度たりともデートをした事がない。


もちろんそれなりに女の子の友達はいた。

小中高と出会いがなかったわけではない。

実は一度高校生の時に告白、というものを経験した事がある。


王道の、それはもう王道の。

校舎裏へ呼び出し、頭を下げつつも手を差し出し


「俺と…付き合ってください!」


の一連の流れを行った事がある。

相手は同じクラスでよく一緒につるんでいた子だった。

ロングのさらさらの髪、大人しくもノリがよく、上品な笑い方をする女の子だった。

確率は50…いや、65%くらいはあるはず!

だって結構仲良く話してるし、個人的に電話とかしているし…

いける…この感触なら!


そう思いながら想いの丈をぶつけた。


そしてごめんなさいの返答が来た。

それはもう王道の、王道中の…何ていうか、まぁ。


結局俺はガキだったこともあり、これからもお友達で…というテンプレは頂いたもののギクシャクし、その子とは一言も会話がないまま卒業してしまった。


そんな俺が…女の子を連れて歩いている。


しかも、金髪の、俺の人生の中で出会った可愛い子ランキングで一位二位を争うくらいの美少女。


デートに行きたいとえくぼのリクエストに俺は混乱した。

だがあのまま家にいてもらちが明かないと言うか、なんだか悶々としたものを抱えたままになりそうな気がしていたのだ。

組織、暗殺、そして離脱…

あまりにも現実からかけ離れた内容の話に俺は未だ混乱状態から抜け出せなかったのかもしれない。

気持ちをリフレッシュするためにもえくぼの意見に賛同した。


とは言ったものの…


初デート、どこに行けばいいのやら。


外へ連れ出したもののえくぼは無表情でとことこと俺の横を歩くだけ、一方俺は女性をエスコートした事もなければ知識も皆無。


「あー…なんかいい天気だな!」

「…ん…天気、いい…」

「…………」


「あ、あー!なんか…ねみー!」

「…ん…睡眠、不足…」

「…………………」


あぁぁっぁあ!

会話が続かない!

どういう風にすれば止めどなく盛り上がる会話が出来るって言うんだ!

こんなに可愛い女の子を横に、俺はすかした表情で頭の中はパニック状態だった。

と…そんな俺をよそにポケットに入れた電話が鳴った。


「し…しまった…!店長からだ!」


そこで俺はようやく昨日バイトをぶっちした事を思い出した。

後から連絡をしようと思ったがあまりの急展開に完全に頭から抜け落ちていたのだった。

携帯の電話の表記の部分に13件と鬼電すらも無視している事に気づく。

すぐに電話に出ると、店長が大声で怒鳴っていた。


「多々良!やーっと出たなお前!昨日無断欠勤しやがって!」

「て、店長………こっちのセリフですよ!やっと出てくれましたね!?!?」

「えっ…?あっ…え…?」

「何度も電話してたのに!ずっと何してたんですか!昨日本当に大変で…えー…出勤の一時間くらい前から連絡入れてたのに!」

「あ…お、俺?いやその時は仕事で…」

「昨日俺、倒れちゃったんです、それで病院から電話してたから…でももしかしたらその影響で繋がらなかったのかも。頭の…いや、心臓の関係だったんです」

「今頭って言わなかった?」

「いえ、頭からの心臓と言いたかったんです。その関係で病院に行ったんです。休む連絡をしたかったのに!」

「す、すまん…で、どうだったの?」

「はい、ついさっき結果が出ました。結果は…」

「…結果…は…?」

「…………セーフ!」

「うわぁー、良かったぁー、もう大丈夫なの?」

「はい、おかげ様で。特に大きなアレは何も」

「そう、良かったー…」

「本当にすみません、昨日は誰が代わりに入ってくれたんですか?」

「昨日は大蔵くんだよ」

「分かりました、俺の方から大蔵さんにお礼と謝罪をしておきます。でも店長もですよ!」

「な、なんで俺なんだよ!」

「連絡がつかなかったからですよ!何度も何度も連絡したのに!後から確認して下さいよ!」

「わ、分かったよ…」

「今日はお休み頂いてるのでまた明日にでも…では失礼します!」



…勢いと言うものは恐ろしい。

こうも簡単に人を言いくるめられるのだから。

いや、店長がお人よしすぎるのか。

とにかくバイトの方は大事にならずに済んだ、後から大蔵さんに謝っておかなくちゃ…


ふっと電話を切った後にハッとし、えくぼの方を見る。

…良かった、いた。

だが何か目つきが変だ。


「あ、ごめんね、ちょっとバイト先の人が」

「…排除、対象?」

「あっ違う違う、そういう物騒なのじゃないから、お願いだから止めて?」

「…そう」


そういうと緊張した空気が緩んだ。

ふと気づくと左手を太ももの方にかけていた。

わぁ、やっぱりプロって違う。

改めて俺は認識させられた。


そしてまたしばらく歩き出す。


「…そういえばえくぼって家は?組織の寮か何かに住んでたの?」

「…?りょー、っていうのは分からない…」

「えーと、皆で住む場所かな」

「…ん、りょーに住んでた」

「そうなんだ」

「こう…ベッドがあった…」

「へー、普通の寮っぽいね、後は?」

「ベッドしかなかった」

「あっすっごいミニマリスト、丁寧な生活」

「でも…困らなかった」


そんな会話をしながらまた歩く。

俺の家からはもう40分近く歩いている…が、そろそろ疲れてきた。

えくぼの方を見ると…家を出た時と何も変わらない表情で俺の横を歩いている。

…楽しいのか…?

これがデート…というものなのか?

世の中の男女はこれを楽しんでいるのか…甚だ疑問だ。

だが俺の普段運動しない足は休めと信号を送っている。


「えーと、えくぼさん、そろそろどこかで休憩しようか」

「…」


コクリと頷く。

だが道端に女の子を座らせるわけにはいかないだろう…

俺の中のジェントルがそう囁く。

ふと横を見るとテラス席のあるカフェ。

人も入っているところを見ると悪い店ではなさそうだった。


「そうだ、あそこのカフェで休もうか」

「…」


またコクリと頷くえくぼ。


カフェは木目調の内装でオーガニックな雰囲気、メニューもまさにそんな感じのお店だった。

カウンターの爽やかなお兄さんが笑顔でいらっしゃいませと挨拶する…が、えくぼを見るとぎょっとする。

確かにそうだろう、口元を隠しマントのようなアウターを肩に掛け歩いている女の子なんてまともじゃない。

引きつった笑顔でお兄さんが注文を聞く。


「ご注文はお決まりですか?」

「えーと…そうだな…ブレンドコーヒーで、えくぼはどうする?」

「………あかつきが、選んでほしい」


なんだ、可愛いじゃないか。

つい鼻の下が伸びそうになる、それをこらえながら甘い飲み物をお願いした。


「カフェオレなんかは甘くて女性も飲みやすいですよ」

「ではそれでお願いします」

「はい、席までお持ちしますね」


そう言われ、テラス席の方に向かった。


風が心地よく、道路に面しているが排気ガスやホコリ等は全く気にならなかった。

えくぼが何かさっきからもじもじとしている。


「えくぼ、どうしたの?トイレ?」

「…ちがう」

「?何かほしいの?」

「…字が…ちょっと…苦手」


…そうか、組織にいたという事は勉強等真っ当な教育は何も受けていなかったと言う事だろう。

それを恥ずかしく思ったなんて…思わず可愛らしさに胸の奥がぎゅぅっと見えない何かに握られる感覚に陥った。


「そうなんだ、全然気にしないでいいよ、そうだ、今度から俺が色々教えるよ」


ぱぁ、とえくぼの目元が明るくなる。

スカーフをつけているから口元は見えないが笑みを浮かべているのだろう。

俺もつられて笑顔になる、あぁ…ようやくデートっぽくなってきた。


「私が分かるの、こっちだけ」

「あっだめだめ、そういうの見せちゃだめ、あっあっ」


ピラ、とマントの裏をめくり見せる。

太ももの革ベルトに刺さっているものと同じ形の短いナイフ、それがビッシリとマントの裏に刺さっていた。

裏社会の闇、ナイフを見ながらふとそんな言葉が浮かんだ。


「もう、ダメだってば、焦ったよ、ナイフは外で見せたらダメ」

「…違う」

「違う事ないって、誰かに見られたらどうするんだよもう」

「これはクナイ」

「あっナイフの種類?」

「ん、使うのに、苦労しないから、苦無」

「豆知識ー、使う場面がほとんどないけど」


にしし、と笑うえくぼ。

お兄さんが店内からカフェオレとコーヒーを持ってきてくれた。


「はは、それじゃ…初デートに、乾杯」

「…はつ、デート…」


みるみる顔が真っ赤になるえくぼ、自分から行きたいと言っていたんじゃないか…というような野暮なツッコミはしないでおいた。

なんだか物騒な所を抜けば本当に愛らしいただの女の子だよな。

もしかしたら昨日の事は全部夢だったんじゃないか、とさえ思い始めた。


と、その時


「おい」


低くくぐもった声が横から聞こえた。

お店のお兄さんとは別の、というよりもカフェには絶対に入らないような大柄な男がいつの間にか立っている。

スキンヘッドに背広。

片目に大きな古傷を携えた男はまっすぐ俺とえくぼを見下ろしていた。





「金色狼(ゴールデンウルフ)だな?」







男は聞きなれない声で、えくぼをまっすぐ見ながら、そう問いかけた。


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