第5話 初デート!(修羅鬼神編)

今日はデート!


気になるあの子のコーディネートを紹介!


血と硝煙の香りのする肩掛けのアウターはずっしりと重く存在感ばっちり☆

黒のキャミソールとデニムのショートパンツは機能性◎

どの季節でも涼しさを演出してくれます!

更に太もも部分の黒い革に刺さるシルバーの短刀がキュート♡

柄の部分が今流行りの十字になっていてゆるモテ女子をアピール♪

口元のスカーフも顔を見られないようにしっかりガードしてくれて突然の暗殺依頼にもすぐに対応できちゃってまーす♡



………あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

もう

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


昨日からずっと何故が頭に浮かんだままになっている。

どうして?暗殺者と俺は歩いているのだろう。



時を戻そう、今朝の事だ…



昨日は結局一睡もできないまま朝を迎えた。

頭の中に重りを入れたような感覚、気だるさ。

そして…部屋中に充満する血の香り。


俺はむくりとベッドから起き上がる、そして横を見る…


なんて愛らしい寝顔。


あぁ、これで戦闘能力に全振りじゃなかったらなぁ…


そんな風にえくぼの寝顔をしばらく眺めていた。



……いかんいかん


邪な考えを起こすな、俺。


そもそもまだ何も彼女の事を分からない。


何故俺を助けてくれたのか、家はどこなのか、一体なんであんな戦闘力を持っているのか…


質問をあげたらきりがない、ホントにきりがない。


すっと自分の鼻の部分に触れる。

…折れたりはしてないみたいだな。

鈍いジンジンとした熱と痛みがまた俺を襲う、昨日よりも大分軽くはなっているが。

でも…夢じゃなかったんだな。

そう思っていると

ん、んん…

とえくぼが寝がえりを打つ。



…ん…

これは…

ダメだ。

えくぼの服装は軽装だ。

黒のキャミソール、デニムの短パン

色々な隙間が生まれており、色々な隙間が生まれているという事は色々な隙間から色々な素敵な空間を彩っていると言う事だ。



………不可抗力という言葉があるよね?

うん、そうだ、ちょっとベッドの、えくぼが寝ている方向に携帯があるじゃないか。

俺はたまたまそれを取ろうとして、ちょーっと手を伸ばすだけだ。

何もやましい事はないよ?だって携帯は必要じゃん、バイト先にも連絡いれないとだからね。本当だよ、信じて。


そう頭の中でいもしない誰かに必死に説明をしながら手を伸ばす。


刹那。


冷たく細い感触が俺の首元に張り付いた。


それと同時にグッと後頭部を持たれ、えくぼの胸元へ引き寄せられる。


本当に良かった、えくぼの腕がまっすぐに引かれなくて。


朝から俺は昨日知り合った可愛らしい女の子に頸動脈を引き裂かれるところだった。


ゆっくり、自分の首を切らないようにえくぼの顔がある方向を向く。


まるで自然の中で獰猛な肉食獣にあった時のように。


「え、えくぼ…さーん…?」


「………んや…」


まだ半覚醒もしていないような、あどけない寝ぼけた目をしているえくぼ。

だが手には鋭く短いナイフがしっかり握られている。


…こいつは寝起きで人の首を掻っ切るんか!


焦った俺は咄嗟に行動する。

とん、とん、とん

黒いキャミソールのお腹を叩き出す。

寝ろ、頼むからもう一度夢の中に行ってくれ。

そして頼むからこの幾人もの悪人を屠ったナイフをゆっくり置いてくれ…


しばらくすると思惑通り、うと、うと…と目を半分閉じながら、ガッチリと掴み離さなかった俺の後頭部の髪の毛を放し、えくぼはまた眠りの世界へと旅立っていった。


あー良かった!絶死!絶対死ぬかと思った!


汗がドバっと溢れ出し、鼓動が急速にビートを速める。


…この子は…


寝起きに戦うような生活を送っていたのか…

なんだかそう思うと途端に切なくなってきた。

こんな年端のいかない女の子が…


すぅすぅ、と寝息を立てるえくぼ、もう色々な隙間の事等気にもならなくなっていた。



それからしばらくし、起き上がるえくぼ。

彼女は寝ている間も口元のスカーフを取らない。

もぞもぞと起き出す、そしてベッドの上で正座をし、じっと俺の方を見つめていた。


「えーと…お、おはよ…」

「……おはよ…にし……」


どうやら寝起きは悪い方ではないらしい、何か会話を始めるでもなく、ただじっと俺の方を見ていた。

微妙な空気感に堪え切れない、俺はえくぼに声を掛けた。


「えっと…何か食べる…?」


こくこく、と首をものすごい勢いで振り出す。

どうやら彼女はお腹が空いていた様だ。



一人暮らしの大学生の食生活等たかが知れている。

確かパンがあったはず…カビていないといいんだが…

数日前に買ったパンを焼き、ジャムを塗る。

食事の準備をしているとなんだか俺まで腹が減って来た。

緊張状態から徐々に解放されてきて、体や精神がようやく平常運転を始めたのだろう。

俺の分、えくぼの分までパンを焼き、ついでにコーヒーを淹れてやる。


俺の部屋は8畳の1DK、特筆すべきところもないいたって平凡な作りの部屋だ。


そこに机を隔てて二人で向かい合い座る。


「あの、良かったらコレ、食べてよ」

「…ありがと」


そういうとスカーフを外す、いついかなる時でもスカーフを外さないわけではないらしい。

…うん、やっぱり美少女そのものだ。

昨日は月明りの中でしかえくぼの顔を見てはいなかったが…

昼間、日中に改めてみると目を見張る程の容姿だ。

確かに幼さは残っているが、長いまつげに大きな瞳、西洋生まれの血が入っているのか、しっかりと通った鼻筋、なんだか見ているだけで心が温かくなる可愛さを含んだ、美人な子、それがえくぼの見た目だ。

青い目をぱちくりさせながら目の前に置かれたパンをじっと見ている


「…?どうしたの?食べていいよ」

「ん、初めてだから…」

「えっ?パン?初めて食べるって事?」


…コクリと頷く、一体どんな生活をしてきたんだろう。

昨日から俺の驚き回数は優に100を超えているだろう。


「パンは…えーと、パンの食べ方なんて説明した事ないからな…そのまま食べていいんだよ!がぶって」

「…分かった」


すんすん、とこぶりな鼻先を動かす。

甘いジャムの香りが鼻孔をくすぐったらしく、口角が上がった。

そしてシャク、と音を立てながらかぶりつく。


「~~~~~~~~!!」


驚きの表情を浮かべ、俺とパンを交互に見る。


「おー、美味いか、まぁただの食パンを焼いただけなんだが…」


ザクザクザクザク!

アッと言う間にパンを食べ尽くす、どうやら気に入ったようだ。


「…甘い…おいし…」

「はは、いつも一体何食べてたんだよ」

「…ペースト状のもの、施設ではそれしか出なかった」

「そ、そう…施設…」


また一般的には聞いた事のないような単語。

やはり俺とえくぼが生きてきた世界の光景はまるで違ったようだ。

俺は…ずっと思っていた事を聞いてみる事にした。


「あのさ、ホントに…なんで昨日は助けてくれたの?多分…あのまま逃げれたんじゃないの?それにえくぼは…どこから来た人なの?」


「………」


しばらく黙るえくぼ、そして淹れたコーヒーをチラ…と見て物欲しそうな視線を送る。


「い、いいよ別に…てか俺に一々何か許可は求めなくていいから、好きにして?」


そういうとパァっとえくぼの表情が明るくなる。

そしてコーヒーをふぅふぅ、と冷ますと一口口に含んだ。


「い”え”ぇっ!にぎぃ”ぃ……」


顔を思い切りくしゃくしゃにする、美人な子がするような表情ではない。

俺は茫然とその顔を見つめ、ミルクと砂糖をすぐに持ってきてあげた。

ザラザラと砂糖を入れ、またくんくん、と鼻を動かす。

なんか犬みたいだな、そう思いながらその光景を黙って見つめていた。

パァァ!どうやら今度は甘く、えくぼ好みだったようだ。


コーヒーを飲み、カップを机の上に置くとゆっくりと話し出した。


「…私は、組織に所属してる」

「暗殺者として、組織に育てられた」

「あおぎりの、さそりっていう」

「頑張って訓練をして、そして」

「日本ランキングで、三位になった」


「あっ、日本三位なの?すっごい」


「にしし…そう、三位…」


照れたように笑うえくぼ、身振り手振りを交えながら組織の事、ランキングの事を説明してくれた。


「で、でも、組織に所属してるって事は今その組織の人達が皆えくぼを心配して探してるんじゃないのかな?帰らないといけないんじゃないの?」

「…大丈夫、排除したから」

「お、同じ組織の人を!?めちゃくちゃ怒ってるんじゃない?」

「…たぶん」

「だよねぇ?怒るとか怒らないとかのレベルじゃないよ多分」


何となく全容が掴めてきた。端的に言えばえくぼの組織の離脱が原因で昨日の騒ぎ…と言っていいのか、とにかく組織から放たれた追手を排除し、そこに俺が居合わせたらしい。


「…なんとなくえくぼの事、分かってきたよ」

「ん、嬉し…」

「でもなんで俺を助けたの?そういう…暗殺とかの仕事中は目撃者を消したりするのが普通なんじゃないの?」


そういうとえくぼはモジモジしだし、顔を紅くしながら俯いてしまった。

どういう感情?不思議に思いしばらくじっと見つめているとチラ、チラ、とこちらを見ながら口を開いた。


「…ハンカチ…くれた…」

「ハンカチって…そ、それは当たり前の事だよ?あんなに怪我してたんだから」

「初めてだった…優しくされたの…」

「そ、それが理由で…助けてくれたの?」


コクリ、と頷くえくぼ


「…でも…目撃者は消したりするのがルールなんじゃ…」

「…大丈夫、私、不要な殺生はしない…」

「あっそうなんだ、仏教的な考えー」

「それに、目撃者、今まで出したこと、ない」

「すごい、やっぱり日本ランカーは違う」


感心しながらも目の前の女の子を見つめる、まだ恥ずかしそうにこちらを見ている。

…もう止めよう、あれこれ深く、難しく考えるのは俺の悪い癖だ。

それに、どうにかなるだろうと言う気持ちと、正直なところ、ワクワクする気持ちが俺の中に芽生えていた。

平坦な人生が突然、さかさまにひっくり返る程の出会い、これこそが俺が、俺の心の中の一番深い部分で求めていたものなんじゃないのか?

だからあの時、普段行かないような薄暗い路地へ足を踏み出したんじゃないか。


そうだ、これはえくぼのせいじゃない、俺が自ら求めたものだ。

ふぅ、と息を深く吐く。


「…教えてくれてありがとな!なんとなくだけどえくぼの事は分かった。それに事情もありそうだからしばらくここにいてよ、自分の家だと思ってさ」


そう言うとジャムパンを食べた時以上に表情が明るくなった。

そして…お約束、俺に抱き着いてきた。


あぁ、これこれ、これです。


この王道だが決して外す事の出来ない流れ、本当に、本当にありがとうございました。

昨日は俺の恐怖心から抱きしめてもらった、だが今はナチュラルに、えくぼが俺に抱き着いてくれている。

これは…抱きしめ返すシーンか?

そう脳内で一人会議をしていると、激痛が走る。


「あっがぁぁぁあっぁっ!?」


ミチミチ…と音を立て俺の体が悲鳴をあげる。

リミッターを外したえくぼが思い切り俺を抱きしめ、丁度サバ折を決められた形になったのだ。

えくぼが驚いてパッと手を放す。

ゲホゲホと咳き込む俺。


「ご、ごめんなさい…」

「あっ、大丈夫、ちょっと死ぬかと思っただけ、でもすご、日本三位って力も相当なんだね」


また微妙な空気が流れたあと、なんだか笑いが込み上げてきた、これから苦難の日々が待っていると俺の中の本能が告げている、なのに出てくるのは笑みだった。

釣られてえくぼも笑う。


あははは!

にし、にしししし!


2人でひとしきり笑った後、えくぼがすくっと立ち上がる。

まだ笑いの余韻が残る俺、どうしたの?と聞く前にえくぼが言った。


「じゃあ、行こう」

「ははは…え?い、行こうって…どこに?」



「デート」




急遽、俺の初デートが、決定した。

























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