第16話  修司、聖と再会!

「今日は、のんびり出来るんですか?」

「うん、今日は弥生ちゃんと一緒にゴロゴロする。グータラ過ごす」

「先週はやつれていましたからね」

「ああ、平穏が1番! もう少し寝ようかなぁ。ああ、惰眠をむさぼれるのが幸せだ。この幸せな時間、弥生ちゃん、許してね。起きたら弥生ちゃんの相手をするからね。起きたらゲームでもしようか?」


 その時、玄関チャイムが鳴った。ピンポーン、ピンポーン。


「誰だろう?」

「新聞の勧誘とか、宗教の勧誘とかでしょうか? この部屋、普段、誰も来ないですよね? なんか、嫌な予感がします」

「僕も嫌な予感がする。でも、とりあえず出てみるよ。出てみないとわからないからね。弥生ちゃんは姿を見せないようにね」


「はい」

「はーい! お久しぶりね、修司」

「え! ひ、ひ、ひ、聖(ひじり)?」

「変わってないわね、安心したわ。私は? 私もあまり変わってないでしょう?」

「お前、何をしに来たんだ?」

「あら、婚約者に対して冷たいわね、中に入れてよ。っていうか、もう入るから」

「勝手に入るなよ」

「聞いたわよ、あなた、このアパートを買い取ったらしいじゃないの」

“そうなんですか? 修司さん”

「ああ、そうだよ」

「何をブツブツ言ってるのよ、コーヒーくらい淹れてよ」

「コーヒーを飲んだら帰れよ」


「うーん、修司の淹れるコーヒーは、やっぱり美味しいわね。コーヒーにはこだわってるもんね。変わらないのね」

「マジで、今日は何をしに来たんだよ」

「修司とよりを戻そうと思って来たのよ」

「え! な、な、な、何を言ってるんだよ! 僕は聖のせいで酷い目にあったんだぞ。君のおかげで、ずっと女性恐怖症だ。僕は君から慰謝料をもらいたい気分だ」

「大丈夫よ、女性恐怖症なんて、一晩、私と寝たら治ってるわよ」

「そんなこと、するわけないだろ? 僕は君を憎んでいるんだ。しかも、なんで今頃になって僕を誘惑しようとするんだよ」

「私も40歳になったから、子供を産むならそろそろタイムリミットなのよ。そこで考えたの。なるべく良い遺伝子を貰おうって」

「それで僕かよ? ふざけんな。聖の周囲には沢山の男がいるだろう?」

「ダメダメ、みんな、夜の営みはスゴイけど、頭が良くないもん」

「そんな事情は知らねーよ!」

「まあ、とにかく、○○大学(←超難関)卒のあなたの遺伝子が欲しいのよ。ねえ、協力してよ。育てたくなかったら、私が育てるし。あなたは種だけくれたらいいのよ。簡単なことじゃないの。種だけ与えて放っておけるなんて、男性ならきっと喜ぶ状況よ。ねえ、種をちょうだい。私、かわいがるから」

「そんなことは出来ない、もう帰ってくれ」

「えー! もう帰らせるの? 帰ってもいいけど、また来るわよ」

「いやいや、2度と来るなよ」

「絶対に来るから。私の思い通りになるまで来るから。私は自分の思い通りにならないと気がすまないから」

「そうか、わかった、じゃあ、来るなら2週間後に来い」

「わかったわ、2週間後ね。それまで元気でね」



「修司さん、どうするんですか? 私、フライパンで頭を殴ろうかと思ったんですけど、修司さん、身振り手振りで止めましたよね?」

「このアパートは僕が買い取ったんだ。“幽霊が出る”って噂になったら、家賃収入が得られないからね」

「どうしてアパートを買ったんですか?」

「弥生ちゃんに花火を見せたいからだよ。前にも言っただろ? 今度は向かいの家だ。こうやって敷地を広げて行こうと思ってるんだ」

「修司さん」

「何?」

「嬉しい! ありがとうございます!」

「あ! 抱きつかないで! 近い! 近い!」

「でも、どうするんですか?」

「天野さんの出番だ」

「天野さん?」

「あとは、気が進まないけど部長に頼もう」



「なるほどね」


 桔梗は落ち着いた態度で修司の話を受け止めた。いつもの居酒屋だ。


「すみません、力を貸してください」

「勿論、いいわよ」

「ありがとうございます」

「聖さんの前で、修司さんの婚約者役をやればいいんでしょう?」

「そうです!」

「じゃあ、上手く聖さんを退けたら、1つ貸しだからね」

「はい、借りは返します」

「OK! 修司さん、もう大丈夫よ。大船に乗った気でいなさい」

「さすが! 頼もしい!」



「崔さん、これを見てください」

「おおおおおお! さすが、天野さん。良い仕事をしますね」



「修司さん、もうすぐ聖さんが来ちゃいますよ、準備は進んでいますか?」

「ああ、大丈夫! 充分な準備が出来たから」



 そして、聖がやって来た。相変わらず、全身を某ブランド商品で固めている。


「はーい! 修司! 来たわよ」

「中に入ってくれ」

「言われなくても入るわよって、こちらの女性は?」

「僕の婚約者の女性だ」

「如月桔梗と申します」

「それはどうも、修司の婚約者の神崎聖です」

「あら、あなたは、元婚約者でしょう? 私は今の婚約者です」

「いえいえ、修司とは婚約したまま。ごめんなさいね、私が修司を寂しがらせたから、あなたの元へ行ったのね。でも、修司の帰る場所は私なのよ」

「聖、僕は君のことを調べさせてもらった。聖、これはなんだー?」

「何って、DVDじゃないの」

「いやいやいやいや、何のDVDか? よく見ろよ! AVだぞ! 聖はAVに出てたんだな? 僕には隠して。僕に隠していたことは許せないぞ!」


「おほほほほほほほ!」



 聖は、突然、高らかに笑い始めた。







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