第15話  修司、桔梗とデート!

「おはようございます、修司さん」

「おはよう、弥生ちゃん」

「うわ、朝から憂鬱そうですね」

「あ、やっぱり、そう見える? そんなんだよ、憂鬱なんだ」

「昨日からやつれていますよ」

「今晩には、更にやつれてると思う」

「何があったんですか? 何が起きるんですか?」

「昨日は部下の女の娘(こ)とデートさせられたんだ」

「えー! デートですか? どこに行ったんですか?」

「屋内プール」

「プールっていうことは水着ですか? 水着ですよね?」

「ああ、水着だった。死ぬかと思った」

「修司さんがデートするなんて、ズルイです。私もデートしたいです」

「弥生ちゃんとは、一緒に暮らしてるじゃないか」

「でも……あ、昨日のデートの相手はどんな女性だったんですか?」

「美人でスタイルが良い。Eカップらしい」

「え! 私、Dカップです。ああ、負けてしまった」

「25歳だよ。僕とは釣り合わないよ。そして今日は部長とデート」

「部長さん? どんな人なんですか?」

「35歳のパーフェクトレディ。あ、36歳だったかな? まあ、いいや」

「今日はどこに行くんですか?」

「わからない。じゃあ、そろそろ行くよ。帰ったら、またやつれてると思うから、その時は看病してくれる?」

「はい。でも、良いリハビリの機会ですから、頑張ってください!」

「頑張れないけど、いってきます」



「え! こ、こ、こ、ここは?」

「どうかしたの? 修司さん」

「また屋内プールじゃないですか!」

「そうよ、昨日、桧山さんと来たんでしょう?」

「なんで、今日もプールなんですか?」

「だって、私も桧山さんに負けていられないじゃない」

「そんな、対抗心を燃やすべきところじゃないでしょう?」

「私も、修司さんに水着姿を見てもらいたいのよ。修司さんのリハビリにもなるからいいじゃない。さあ、行きましょう!」

「ぼ、僕、2日も連続は困ります。またやつれちゃいますよ」

「いいから、いいから」


 修司は桔梗に引きずられて行った。



 修司は頭を抱えた。桔梗の黒のビキニ姿はそれだけの破壊力があったのだ。さくらも充分キレイだったが、桔梗の方が女性としての完成度が高い。完璧なナイスバディの完璧な美人だった。こんなの、芸能界に入れるじゃないか! こんな一般人がいてもいいのか? その芸能人級の美女が、何故、僕なんかと?


「どうしたの? 修司さん」

「桔梗さんが美し過ぎて、頭を抱えてるんです」

「あら、美しいだなんて、嬉しいわ」

「僕、相手が魅力的であればあるほど、女性恐怖症の症状がひどくなるんです」

「まあ、そう言わずに。はい、プールに入りましょう!」

「ああ、引っ張らないでください」


「ああ、抱きつかないでください」

「背中にくっつくのもダメですよ」

「近すぎますよ、もう少し離れてください」

「スライダーは1人ずつ……なんでくっつくんですか?」


 修司は悲鳴を上げ続けていた。疲れてビーチチェアに座り込むと、桔梗の手作り弁当が出て来た。美味しかった。さくらのお弁当や、弥生の手料理と同じくらい美味しかった。


「桔梗さん、めっちゃ美味しいです」

「桧山さんのお弁当と、どっちが美味しい?」

「うーん、同じくらい美味しいです」

「ふふふ、ありがと。でも、良かった。修司さん、昨日もこんな感じだったんでしょう? ふふふ」

「昨日もこんな感じでした。デジャブかと思います」

「桧山さんの水着姿は? 魅力的だった?」

「はい。桧山さんには桧山さんの魅力がありました。魅力があったので怖かったですけどね」

「私は?」

「桔梗さんには、桔梗さんの良さがあります。だから困ってるんです。だって、桔梗さんは芸能人級の美しさですから」

「芸能事務所の最終選考まで進んだのよ」

「あれ? 合格したんじゃないんですか?」

「合格したわよ」

「じゃあ、なんで芸能界に行かなかったんですか?」

「芸能人にはなりたくなかったの。自分が芸能界に入れるだけの魅力があるとわかったら、それだけでいいから辞退しちゃった」

「そうなんですか。やっぱり芸能人としても通用するんですね」

「でも、まだ独り身だけどね。ふふふ」

「相手を選び過ぎたんでしょう?」

「そういうわけでもないんだけど、今は、独身で良かったと思ってるのよ」

「どうしてですか?」

「修司さんと結婚出来るかもしれないから、独身でよかったと思ってるの」

「むふー! ゲホ、ゲホ」

「ちょっと、大丈夫?」

「桔梗さんが変なことを言うから、むせたじゃないですか」

「変なことなんて言わないでよ」

「僕の嫁になっても、いいことなんか1つも無いですよ」

「そんなことはないわよ、ところで、桧山さんはEカップらしいわよ」

「むふー! ゲホ、ゲホ」

「あらあら、背中をさすってあげるから」

「どこで仕入れた情報なんですか?」

「社員旅行で温泉に行った時に聞いたのよ、本人から」

「そうですか、聞きたくなかったニュースですね」

「ちなみに、私はGカップよ」

「ゲホ、ゲホ」

「なんで、ここでむせるのよ」

「いやいや、Gカップは破壊力がありますよ」



 そんな感じで、日曜日のデートは終わった。修司は疲れきって家に帰った。


「ただいま」

「お帰りなさい」

「って! なんで弥生ちゃんまで水着なの?」

「だって、私も負けていられませんから」


 弥生は白のビキニ姿だった。魅力的だった。だが、修司には、そのショックに耐えるだけの体力も精神力も残っていなかった。修司はベッドの上に大の字になった。


「ちょっと、修司さん、ちゃんと見てくださいよ」

「ごめん、弥生ちゃん、明日見るから今日は眠らせてくれ。疲れた」

「あ、確かに、更にやつれてる」

「ごめんね、おやすみ」



「もう、私のDカップの水着姿を見てほしかったのに」







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