第14話  修司、さくらとデート!

 “次の土曜日、11時に○○駅前で待ち合わせお願いします”


 出勤してきたさくらから、修司のパソコンにメールが届いた。修司は、その場ではOKしたものの、さくらと2人きりのデートは想像しただけで鬱になる。修司は桔梗にメールで応援を依頼した。


“桧山さんから、デートのお誘いのメールが来ました。助けてください”

“あら、出社したらご褒美にデートするって言われたんでしょう? 付き合ってあげなさいよ。でないと、修司さんが嘘をついたことになって、彼女が傷つくから”

“えー! 2人っきりはキツイですよ。桔梗さんも来てくださいよ”

“ダメよ、私が桧山さんに恨まれちゃう。っていうか、女性2人になったら、修司さんにとっては更にキツイんじゃないの?”

“あ、そうでした。女性2人はツライですね。わかりました、行って来ます”

“ちょっと待ってよ”

“なんでしょう?”

“土曜日に桧山さんとデートするなら、日曜は私とデートしてよね”

“何故ですか?”

“不公平じゃないの、OKしないと私も出社拒否するわよ”

“なんですか? それは”

“要するに業務命令よ”

“全然、『業務』じゃないですよ、ただの命令ですよ、それ”

“いいから、いいから、じゃあ、まずは土曜日、頑張ってね~♪”


 修司は、さくらとのデートは回避出来ないことだと思い知った。



 そして、土曜日。


「あ、修司さん、すみません。待たせちゃいましたか?」

「いや、待ってはいないけど」

「じゃあ、行きましょうか?」

「ごめん、あんまり引っ付かないでくれる?」

「いいじゃないですか、じゃあ、こうしましょう」

「いやいや! 腕を組むのはダメ!」

「じゃあ、こうですか?」

「手を繋ぐのもダメ!」

「組むのと繋ぐのとでは、どちらがいいですか?」

「どっちもダメ」

「じゃあ、腕を組みます。私、腕を組むのが好きなんです」

「ああ……」

「ダメですよ、リハビリしないと。女性恐怖症が治らないですよ」

「いやいや、多分、治らないから」

「諦めちゃダメです。って、修司さん、震えてますね」

「これも女性恐怖症の症状なんだよ」

「思ったよりも重症ですね。でも、大丈夫ですよ、今日のデートは修司さんのリハビリも兼ねていますから」

「僕をどこへ連れていくの?」

「ここです!」

「屋内プール?」

「そうです」

「ごめん、僕、帰る」

「ダメですよ、リハビリも重要ですが、私とデートしてくれるって約束したじゃないですか」

「でも、水着だろ?」

「勿論」

「僕、海パンを持って来てないから」

「中で買えますよ」

「桧山さんも水着でしょ? それはキツイよ」

「ひどいですね、私の水着姿、そんなに興味が無いんですか?」

「桧山さんが美人だから困るんだよ、美人の水着姿を見たら、僕は死んでしまう」

「死にませんよ、さあ、行きますよ」


 修司は、さくらに引きずられて行った。



 そして、さくらのピンクのビキニ姿を見たとき、修司は目眩がして、その場にうずくまった。


「修司さん、どうしたんですか?」

「ああ、ダメ、近付かないで」

「どうしたんですか? 桧山さんの水着姿の威力が強すぎて」

「私の水着姿、どうですか?」

「うん、キレイ。キレイだから困ってるんだよ」

「私、こう見えてもEカップなんですよ」

「普通の男なら、喜んで舞い上がるだろうね」

「舞い上がってくださいよ」

「女性恐怖症にはキツイ状況だよ」

「さあ、泳ぎましょう!」

「待って、引っ張らないで」


 2人は水の中へ。さくらは修司に抱きつく。胸の感触が修司に伝わる。修司、もうパニック状態。


「修司さん、いい身体してるんですね」

「ああ、元々筋肉質なんだよ」

「40歳とは思えません」

「スラーダーに行きましょう。2人で滑りますよ」

「あ、ちょっと、引っ張らないで」



 スライダーは修司がさくらを後ろから抱き締める形で滑らされた。修司は気を失いそうになった。肌が密着する度に心臓が高鳴る。心臓に悪い。だが、さくらが持って来た手作り弁当はめちゃくちゃ美味しかった。


「桧山さん、料理が上手なんだね」

「ありがとうございます。料理は好きです」

「めちゃくちゃ美味しいよ」

「ありがとうございます。嬉しいです。私、いいお嫁さんになれそうですか?」

「なれるんじゃないの?」

「良かった! 修司さんのお嫁さんは私ですね!」

「僕の嫁さんかよ!」

「いつ修司さんを親に紹介しようかと思っています」

「いやいや、僕では桧山さんとは不釣り合いだよ」

「私の家、お金持ちですよ。私、桧山グループの娘ですから」

「え! あの桧山グループの桧山さんだったの?」

「そうですよ、私と結婚したらお金には困りませんよ」

「いや、お金が欲しかったら、頑張って自分で稼ぐよ」

「修司さんの、そういうところが素敵ですね」

「普通だよ。あ、桧山さん、いつから僕を『修司さん』って呼ぶようになったの?」

「今日はずっと修司さんって呼んでますよ。プライベートだからいいでしょ?」

「まあ、いいけど」

「部長からも、時々修司さんって呼ばれてるじゃないですか。私も真似してみたかったんですよ」

「あ、部長がたまに修司さんって呼ぶの、気付いてたんだ」

「当たり前じゃないですか、私、修司さんのことばかり見ていますから!」



 帰り道、桔梗からメッセージが届いた。


“デートは終わった?”

“終わりました”

“屋内プールです”

“楽しかった?”

“死ぬかと思いました。さくらさんの水着姿が強烈で”

“ふふふ、それは大変だったね、明日は私とデートよ。忘れてないでしょうね?”

“おぼえていますよ、待ち合わせ、どうします?”

“○○駅前に11時”

“あれ? 今日と同じ待ち合わせですね。場所も時間も”

“あら、そうなの? まあ、いいじゃない”

“いいですけど、僕、今日だけでもヘトヘトなんで、お手柔らかにお願いします”

“大丈夫、大丈夫、じゃあ、また明日!”



 帰宅すると、弥生が待っていた。弥生は修司を見て驚いていた。



「修司さん、たった1日でスゴくやつれてますよ!」







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