第13話  修司、さくらと飲む!

 桔梗と飲みに行ってスグ、修司は桧山さくらから、


「仕事のことで相談があるんです。今日、一緒に食事できませんか?」


と言われた。気は進まなかったが、桔梗から“桧山さんのこと、お願いね”と言われたところだったので、OKした。



 桔梗と行った居酒屋で食事をした。さくらは、スグに仕事の話を始めた。大口の契約が取れそうで取れなくて悩んでいるとのことだった。


「お客さんは、何が不満なの? 金額? 企画内容? それ以外?」

「あ……わかりません」

「それがわからないと、何も出来ないよ。ヒアリング不足だね」

「ヒアリングしてみます」

「今週、そのお客さんとのアポはあるの?」

「あります」

「じゃあ、今からヒアリングするんじゃなくて、アポで金額を勉強した企画書と、内容を見直した企画書を持って行ったら?」

「あ、そうですね。そうします」

「今の企画書はある?」

「はい、あります」

「……同業他社の現状とか、資料を手に入れることは出来る?」

「はい、できます」

「あと、この部分の裏付けが欲しいな。何故、こうなるのか? 理由を説明した方がいいと思う」

「はい、それも資料なら集められると思います」

「金額は、企画内容に応じて大、中、小、3パターンくらい用意するのもいいかも。予算によって選べる方が、相手にもいいだろう」

「はい、わかりました」

「企画内容と金額は、じっくり見直してね」

「はい! わかりました」

「でも、こんな話なら会社でも出来たんじゃないの?」

「いやぁ、実は課長と食事したかったんです」

「なんで?」

「課長に興味があるからです」

「え! 僕に?」

「聞きましたよ-! 部長と飲みに行ったって」

「行ったけど、今日と同じで仕事の話だよ」

「でも、課長が女性と初めて飲みに行ったということで、みんな噂してるんですよ」

「桔梗さんと僕では釣り合わないよ。桔梗さんは美人だから」

「ほら、部長のことを“桔梗さん”って呼んでるじゃないですかー! 怪しい-!」

「いいじゃないか、それで? 桧山さんはなんで僕を誘ったの?」

「だって、部長が動いたと聞いたら、こちらも動かないといけないって焦るじゃないですか」

「なんで焦るの?」

「私、課長のことが好きなんです」

「えー! 社内で人気ナンバーワンの桧山さんが? 僕を? なんで?」

「仕事中の課長、輝いていますから」

「いやいや、社内にも、もっと素敵なイケメン達がいるじゃないか」

「課長以外の男性に興味はありません」

「桧山さん、歳は幾つだっけ?」

「私ですか? 25ですよ。今年で26になりますけど」

「僕、40だよ。やめようよ、不釣り合いだよ」

「ふふふ、そんな言葉で諦めるくらいなら誘っていませんよ」

「えー! そんなことを言われても」

「じゃあ、この大口の契約を取れたら、ご褒美にデートしてくださいね」

「えー! そんなの困るよ」

「そんなに私に興味が無いんですか?」

「うーん、桧山さんには話すよ、実は……」


 修司は、自分が女性恐怖症だということを正直にさくらに伝えた。


「それって」

「わかっただろ? 僕は女性と付き合えないんだ。特に、桧山さんみたいな美人だと、更に付き合えない」

「それって、修司さんが誰とも付き合えないってことですよね? じゃあ、フリーなんですね? 良かった、私だけを愛してもらえるようになればいいということじゃないですか」

「そんなに都合良くいくなら、苦労はしないんだけど」

「でも、ご褒美にデートはしてもらいますよ」

「え! マジで?」

「はい、女性恐怖症だろうがなんだろうが、デートしてもらいます。そういうご褒美があれば、私のモチベーションもアップします」

「そうは言っても……わかった、わかったよ、OKだから頑張ってくれ」

「約束ですよ-!」



 数日後、さくらが会社を休んだ。無断欠席だった。桔梗が電話した。桔梗は修司をミーティングルームに呼んで2人で話した。


「桧山さんだけど」

「風邪ですか? 何か重病ですか?」

「電話をかけたら泣いていたの。それで、“もう、会社を辞めます!”って言うのよ」

「何があったんでしょう?」

「修司さん、桧山さんのマンションに行ってくれない?」

「桔梗さんが行った方がいいのでは? 女性同士の方がよくないですか?」

「ううん、ここは修司さんが1番いいのよ」

「じゃあ、行って来ます」

「うん、よろしくね。桧山さんを辞めさせないで!」



 ピンポーン、ピンポーン。……ガチャ。


「桧山さん、今日はどうしたの?」

「……入ってください」


 さくらは、目を泣き腫らしていた。


「マジで、何があったの?」


 さくらは修司の胸に飛び込んだ。修司は戸惑い、女性恐怖症が発動してツラかったが、さくらのために耐えて胸をさくらに貸した。さくらは長い間、泣いていた。


「泣き止んだ? 涙は全部出た? 涙は残さず流した方がいいよ」

「はい、もう涙は出なくなりました」

「それで、何があったの?」

「相談した、大口のお客さんのところへ行ったんです」

「うん、それで?」

「“一晩、付き合ってくれたら取引をするよ”って言われたんです」

「今時、それはヒドイな」

「相手は、私のことを女として見てたんです。私はビジネスの相手じゃなかったんですよ。それが悲しくて、悔しくて、プレゼンも頑張ったのに」

「そんなお客さん、相手にする必要は無いよ。もう、その会社には行かなくていい」

「私、知ってますよ。会社のみんなが、私のことを“女の武器を使って売り上げてる”って言っていること。だから、営業力で売り上げているというところを見せたかったのに。やっぱり、お客さんは私を女として見てたんですね」

「桧山さん、正直に言うわ。桧山さんは美人でスタイルも良い。だから、仕事でアポに行っても、女性として見られることは多いかもしれない。でも、それは桧山さんの武器でもある。ビジュアルで仕事を取って、何が悪いの? 何が悲しいの? それに、僕は桧山さんを女性の武器だけで取引する営業マンに育てるつもりは無い。これから、もっと営業力を磨けばいい。桧山さんのビジュアルに営業力が身に付けば、もう怖い物無しだよ。君は最強の営業マンになれるんだ。だから、明日は会社においで。1から営業というものを教えてあげるから」

「じゃあ、明日出社したらご褒美をください」

「うん、どんなご褒美がいいの?」

「1度、私とデートしてください」

「え!」

「ダメなんですか?」

「わかった、わかったよ。だから明日はおいでよ」



「はい」







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