第12話 修司、桔梗と飲む!
取り引きが増えた分、修司は会社に遅くまで残らざるおえなかった。帰宅が遅い日々が続く。大体、最後まで残っているのは部長の榊桔梗と修司だった。
いつもなら、互いに黙々と自分の仕事をすませて帰るのだが、その日は桔梗が修司に声をかけた。
「相沢さん、後どのくらいで仕事終わりそう?」
「あ、もう終わります」
「だったら、飲みに行かない? ちょっと話もあるし」
桔梗は36歳。170センチ近い身長、ダイナマイトボディーの美人だ。要するに、女性恐怖症の修司にとっては怖い存在だ。正直、2人きりで飲みに行きたくなかった。だが、話があると言われては断るわけにはいかないだろう。
「はい、行きます」
上品な雰囲気を漂わせる桔梗のイメージとは異なる大衆居酒屋に入った。
「「乾杯-!」」
「相沢さんが売りまくるから、上司の私の評価も上がってるのよ。相沢さんのおかげよ。感謝しているわ」
「まだまだ、これからも売り続けます」
「お願いするわ。それでね、今度、相沢さんは課長代理に昇進するから」
「え! 早くないですか?」
「今までの実績と前職でのキャリアを考えたら、当然の人事よ。スグに代理ではなく課長になってもらうから」
「わかりました。ご社命とあれば」
「いい返事ね、流石、昭和生まれ」
「お話はそれだけですか?」
「あ、部下に主任の桧山さんもつけるつもりだから、いろいろ教えてあげてね」
「はあ、桧山さんは結構売り上げていると思いますが」
「だからよ、会社は桧山さんにも期待しているのよ。期待しているからこそ相沢さんに指導してほしいの」
「わかりました。僕に出来ることなら何でもやります」
「じゃあ、仕事の話はここまでね」
「は?」
「だって、相沢さんと飲むなんて珍しいんだから、たまには親睦を深めましょうよ」
「あ、プライベートの話ですか? 仕事の話じゃなくて?」
「っていうか、普通の雑談よ、どうしたの? あれ? なんだか急に手が震えて来てる。あ、汗もかいてるじゃない。何かあったの?」
「実は……」
修司は、自分が女性恐怖症であることと、女性恐怖症に至る経緯について桔梗に説明した。
「へえ……そうだったんだ」
「すみません、仕事中は平気なのですが」
「まあ、良かったわ。修司さんに恋人がいないことがわかったから」
「良かった?」
「それに、その調子なら当分は誰とも付き合えそうじゃないものね」
「それが、良かったんですか?」
「ええ、私、修司さんを狙っているから」
「えええええ!」
「だって、仕事中の修司さん、カッコイイもん」
「僕がカッコイイ?」
「ええ、素敵よ。あ、会社以外では修司さんって呼ぶから、修司さんも会社以外では私のことを桔梗って呼んでね」
「桔梗……さん」
「そうそう、私の自己紹介でもしましょうか? 身長169、スリーサイズは93,59,90。どう? 悪くないスタイルでしょう? 女性がほしくなったら私に言ってね。スグに修司さんのものになるから」
「はあ……なんと答えればいいのかわからないです」
「じゃあ、修司さんのことを聞かせてよ。私、修司さんのことが知りたい」
修司は桔梗から質問攻めにされた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「うーん、本当に成仏しないんだね、何故だろう?」
「えーと、実はもう1つ願いがあるからだと思います」
「もう1つの願いって何?」
「それは……今は言えません」
「そう、それなら聞かないけど」
「すみません。もう少し一緒に暮らしてください」
「うん、今まで通りに」
「はい、今まで通りに」
恋人は地縛霊。 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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