第11話 修司、弥生と乾杯!
「天野さん達は帰ったし、ここからは弥生ちゃんとお祝いだね」
弥生がクッキリと姿を現す。満面の笑顔だ。さっきまでは半透明だったのに。まあ、半透明でも天野や小夏には見えていなかったので、そこら辺のところ、どうなっているのか? 修司にはわからない。何故? 修司には見えるのだろう?
「小夏さん、思ったより多い慰謝料をもらえて良かったですね。でないと、小夏さんがかわいそう過ぎます」
「お、えらく小夏さんに肩入れするんだね」
「だって、私が慎也の妻になっていたら……と思うとゾッとしますから」
「浮気だけじゃないからね。DVの分もあるから。小夏さんと子供を毎日殴ってたんだろ? で、小夏さんが子供を守って小夏さんが余計に殴られる。幾らもらっても足りないくらいだろうよ、少々多くても当然の金額だと思うけど」
「あー! 慎也に復讐が出来て、気分爽快です-!」
「弥生ちゃん、願いが叶って良かったね」
「はい、願いが叶いました-!」
「じゃあ、明日には弥生ちゃんは消えてしまうのかな?」
「え! どうしてですか?」
「だって、この世に留まる理由がなくなっただろ? 願いが叶ったんだから」
「そういえば、そうですね。願いが叶ったから、私、消えてしまいますね」
「成仏するんだよね?」
「はい、成仏しちゃいます」
「なんか寂しいな-!」
「本当ですか?」
修司の隣に弥生がくっつく。
「近いって!」
「ああ、もっとリハビリに協力してあげられたら良かったですね」
「弥生ちゃんは充分協力してくれたよ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。でも、私がいなくなった後の修司さんのことが心配です。こんな調子で結婚できるのでしょうか?」
「だから、結婚なんて考えてないよ。僕はこのままでいいんだよ。女性から話しかけられると挙動不審になるけど、それも愛嬌ってもんだろ?」
「結婚を考えなきゃダメですよ、まだ若いんですから」
「もう40だよ。若くはないよ」
「いえいえ、まだまだこれからです。諦めないでください」
「僕のことはどうでもいいじゃん、今夜は弥生ちゃんのお祝いなんだから」
「そうですね、ありがとうございます。でも、慎也は破滅しました。離婚して、会社はクビ、遊び相手ともトラブル、実家の両親はお怒り。田舎に帰ったとのことですから、もう満足してるんです」
「まあ、普通に考えたら再起不能だよね」
「再起してきたらどうします?」
「また潰してやるさ」
「そうですか、それならいいです」
「その時には、また天野さんに協力してもらうよ。あの人に頼めば安心だ」
「でも、今は私のことより修司さんのことが心配なんです」
「僕のことなら大丈夫だよ、仕事には支障が無いから」
「そうかもしれませんけど、若い娘(こ)から何か相談されたらどうするんですか?今の状態だと相談にも乗れないでしょう」
「相談されるようなキャラじゃないよ」
「でも、プライベートのお話が出来ないって致命的ですよ」
「仕事に関する会話だけでもいいんだよ、職場は」
「なんか寂しいです」
「まあ、営業の成績はいいから、大丈夫、心配しないで」
「営業の成績はいいんですか?」
「うん、今、僕がトップセールスマンだよ」
「え! そうなんですか? スゴイ!」
「真面目にやっていれば結果はついてくるんだよ。普通、商品のメリットだけを伝えるけど、僕はデメリットも伝えるからね。デメリットを説明した上で、“じゃあ、どうすればいいか?”それを提案するんだ。そのやり方で回っていたら売れたんだ」
「スゴイですね! それなら、スグに出世するんじゃないですか?」
「ああ、もうすぐ主任になる。ウチは係長というポジションが無いから、主任の次は課長代理だよ。課長代理や課長まで昇進出来たら嬉しいんだけどね。給料もアップするし。まあ、頑張ったら評価される会社だからやりがいを感じられるよ」
「いい会社に入れて良かったですね」
「そうだね、運が良かったよ」
「でも、修司さんが出世を目標にしているとは意外でした」
「ああ、でも、それももういいかなぁと思い始めてる。歩合で儲かるけど、お金の使い道が無くなったからなぁ」
「何に使うつもりだったんですか?」
「このアパートを買い取って、更に敷地を広げるつもりだった」
「何のためにですか?」
「弥生ちゃん、アパートの敷地内しか動けないから、動ける範囲を広げようと思ってたんだ。それで、アパートの前の住宅を買い取りたかったんだよね。そうしたら、夏に花火が見えるから。弥生ちゃんに花火を見せてあげたくてさ」
「修司さん、そこまで私のことを思ってくれていたんですね」
「まあね、これも何かの縁だからね」
「修司さん、私、嬉しいです-!」
「近い! 近い! 抱きつかないで!」
「じゃあ、寝るよ。でも、起きたらもう弥生ちゃんは成仏していなくなるんだよね? これが最後の夜なのかぁ」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
修司は目を覚ました。修司の顔を覗き込む弥生の顔があった。
「近い! って……あれ? 弥生ちゃん、成仏してないの?」
「はあ……成仏していませんね、えへ」
「えーーーー!」
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