第10話 修司、祝杯をあげる!
「「「乾杯-!」」」
小夏の離婚が成立した日、修司、天野、小夏の3人は修司の部屋で祝杯をあげた。実は、弥生も修司の隣で、
“乾杯-!”
と言いながら祝いの席に参加していたのだが、勿論、天野と小夏には弥生の姿は見えていない。
「すみませんね、こんなむさ苦しいところでお祝いしたいとワガママを言ってしまって。でも、理由はあるんですよ」
「いえいえ、宅飲みで構いません。ですが、よろしければ理由は聞きたいですね」
「実は、この部屋は僕の知人が住んでいた部屋なんです。知人は5~6年前当時女子大生の時にここで暮らしていました。でも、慎也に遊ばれて捨てられて絶望して自殺したんです。慎也は、苦学生だった彼女から金をもらい遊びに使い、彼女に売春をさせようとしていたんですよ! ヒドイと思いませんか? それで、自殺したんです。心に大きな傷を作ったままで」
「そうなんですか? お若いのにかわいそうですね」
小夏が同情してすすり泣きを始めた。
「慎也は金づかいが荒かったし、スグに殴りますからね。私も慎也に縛られていましたから、そのお嬢様のお気持ちはスゴくわかります」
「なので、この部屋で祝杯をあげたかったんです」
宅飲みと言っても、高級ステーキなどの料理も並んでいる。出前が可能な料理の中で、値段の高いものが選ばれていた。ワインも少し高めのものを飲んでいた。天野に払う料金が要らなくなったのだ、調査費用を払うことを考えたら安いものだと修司は思っていた。
「そうですか、その知人の女性も、あの世で喜んでくれていたらいいですね」
「きっと喜んでいると思います」
“喜んでまーす!”
「喜んでいる姿が目に浮かびます」
「僕達は、再婚禁止期間を過ぎたらスグに結婚します」
「挙式には呼んでくださいよ」
「勿論です。このご縁は相沢さんからいただいたご縁ですので」
「でも、こういうことから結婚に発展することもあるんですね」
「いやぁ、慎也の浮気の仕方が半端じゃなかったんですよ。私が今までに調査してきた中でも異例と言えるくらいの浮気っぷりでしたので、以前に申し上げました通り、“こんなに浮気される女性ってどういう女性なのだろう?”と個人的に興味が湧いたんです。それで、コーヒーをこぼして出会いを演出して話していたら、スグに“守ってあげたい!”と思ったんですよねー!」
「小夏さん、美人ですからね-!」
「ええ! 私、全然美人じゃないですよ-!」
「めっちゃ美人ですよ。顔の腫れもひいて、美しさがよくわかります。ですよね、天野さん。天野さん、小夏さんのビジュアルにも惹かれたでしょう?」
「はい、勿論です。ビジュアルも僕の好みです」
「で、小夏さんは満足できる額を貰えたんですか?」
「涼さんのおかげで、ビックリするくらいの慰謝料を貰いました。あと、月々の養育費を貰えます。金額には充分満足しています」
「慎也には、それだけですか?」
「まさか、こちらの女性を見てください」
天野が写真を取りだした。修司が見ようと思ったら、弥生がくっついてきた。
「近い、近いよ」
“だって、私も写真を見たいから”
「相沢さん、1人で何を言ってるんですか?」
「いえいえ、なんでもないです、すみません。で、こちらの女性が何か?」
「慎也の取引先の社長の娘です」
「え! もしかして、こちらにも?」
「はい、写真とデータを送りました。社長はカンカンです。ですが、こんな浮気男に“責任をとって娘と結婚しろ”とも言えませんので揉めているらしいです」
「ほうほう、それはそれは。ざまぁみろですね」
「それから、こちらとこちらとこちら、3人の女性ですが」
また、弥生がくっついてくる。
「だから、近いって!」
“私も写真を見たいんです!”
「相沢さん、どうかしましたか?」
「いえいえ、なんでもありません。こちらの女性達が何か?」
「慎也の部下、慎也の部下の妻、慎也の上司の妻です」
「おお! それはスゴイ! スゴイメンバーですね!」
「慎也の部下の男も上司も離婚するらしいです。まあ、妻の浮気が明るみになったので仕方ないでしょうね。そっちにもお金は必要でしょう」
「慎也はちゃんと払えるんでしょうか?」
「大丈夫です。実家は山やビルを持っていますから。ビルも1つや2つじゃないんですよ。それを売ればこのくらいは」
「部下の女性は? 離婚になっていませんけど」
「この件で会社を辞めることになりましたから、この女性も慎也に慰謝料を請求しています。慎也から、“妻と別れて結婚するから”と言われて付き合っていたらしいですので。これもグレーですよね。結婚詐欺に近いですから。慎也にお金を渡していたらしいですよ、慎也も懲りない奴ですね」
「これは、流石に慎也も懲りたでしょう。天野さん、ありがとうございます」
「私も小夏の仇を討ってあげたかったですからね」
「では、改めて……」
「「「乾杯-!」」」
楽しい時間だった。天野達は終電に間に合う時間に帰った。
「さあ、弥生ちゃん。弥生ちゃんとお祝いしないといけないね」
「乾杯しましょう! 乾杯!」
この時を待っていた弥生が、新しいグラスにワインを注ぎながら言った。満面の笑みだった。“そうだ、僕はこの笑顔を見たかったんだ!”修司はそう思った。
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